第13話 『 処女も奪ってもらうつもりでいるわ 』
――時はアノンが騎士と相まみえる少し前に遡る。
「あら、リアンじゃない」
「……シエスタ」
王城内でようやく声を掛けられたと思ったら、その相手は友人のシエスタ・アルフォートだった。
年齢はリアンと同い年。ライトブラウンの髪を一本に束ねた髪型が特徴的な女性で、瞳も同色だが、髪色よりもわずかに濃い。
背はリアンよりはわずかに低いが、それでも女性の中ではかなり高身長だろう。
今は隊服を纏っているからボディーラインが隠れているが、スタイルも相当いい女性だ。
そんなシエスタは、この国で王直属護衛隊の近衛騎士の一人だ。そして、騎士の階級は当然一番目。
「リアンが王城に来るなんて随分と久しぶりじゃない?」
「そうね。アナタと再会したのは一カ月ぶりかしら」
苦笑しながら答えれば、シエスタは「時が経つのは早いわねぇ」と老人みたいなことを言う。
「どう? 例の弟くんとの生活、満喫してる」
「当然でしょ。毎日アノンの成分を体に蓄えてるわ」
豊満な胸に手を置きながら答えれば、リアンの変態発言にシエスタはドン引き。
「アンタ、こうして顔を合わせる度にヤバさが増してない?」
「どこがよ。姉が弟を溺愛するのは至極当然。世界の摂理よ」
「そんな摂理存在するはずないでしょ」
「世間のことなんて知ったことですか。私はアノンさえいればそれでいい。他なんて微塵も興味ないわ」
堂々と言えば、シエスタは頬を引きつらせる。
「それ、仮にも時期王女が発言していいの?」
「時期王女だから何なのよ。アノンの為ならこんな国すぐに捨ててやるわ」
「本当にそれでも時期王女かアンタは⁉」
正真正銘。現国王の娘であり、王位継承権も一位だ。
ええそうよ、と肯定すれば、シエスタは頭痛を覚えたように眉間に手を置いた。
「アナタが王女になったらこの国は終わりね」
「安心しなさい。国王なんて所詮は飾り物よ。実際にこの国を運営しているのは七聖人なんだし」
七聖人とは、文字通り七人の聖人である。グレアスフォールの政治を担っており、彼らがいなければこの国は正常に機能しないと言っていい。
「アナタの言う通りかもしれないけど、けれど飾りだって重要でしょ。それに、外交に七聖人の方々は使えない」
「はいはい。分かってますよー。国王に渡りあえるのは国王だけ、でしょ」
同族のみが交渉のテーブルに立てると、そんなのは幼少期から耳に胼胝ができるほど教え込まれている。
それをついに友人にまで指摘されてしまって、リアンは不貞腐れた態度を取った。
「本当にしっかりしてよね。アナタはいずれ、この国を担う王女になるんだから」
「ならシエスタも、こんなところでサボってないで街の見回りにでも行ってくれば」
「私は断じてサボってませーん。一番目に与えられた王城警備の任務を全うしている最中でーす」
それをサボっていると言っているのだ。
真面目な振りをして実はサボり魔な一面を持つシエスタ。そんな彼女はできもしないくせに口笛を吹く。
「アナタ、それでも一番目?」
「それをそっくりそのままお返しするわ。本当に【Lv100】の世界最強? ただの変態ブラコンじゃなくて?」
挑発に挑発で返されて、リアンが堪らず吠える。
「ちょっと! 今の変態ブラコンて発言撤回しなさい! 私はただのブラコンよ!」
「ブラコンは否定しないのね⁉」
リアンの予想を斜めに超えた返しに目を剥くシエスタ。
呆れるシエスタに、リアンは恥ずかしげもなく堂々と言い放つ。
「あの世界で一番可愛い弟を誰に渡すものですか。アノンの童貞がどこの知らない馬の骨なんぞに奪われるくらいなら、私が奪ったほうがマシよ」
「王城で童貞言うな⁉ というかリアン、どれだけ弟くんが好きなのよ⁉」
そんなの決まっているし、その質問も愚問だ。
リアンは友人に向かってビシッと立てた指を顔の前に突きつけると、
「勿論世界で一番好きよ。処女も奪ってもらうつもりでいるわっ」
時期王女は、そんな事を堂々と言い放ったのだった。
「……とんでもねえ変態だ」
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