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最強姉弟 ~Lv0の弟とLv100の姉は世界を救う~  作者: 結乃拓也/ゆのや
第一章――2『 波乱の幕開け 』
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第9話 『 トマトと事件の香り 』


 姉の注文通りパスタを作るべく、アノンは生鮮野菜が売っている屋台に足を運んでいた。


「すいませーん。このトマト、カゴ一つください」

「あいよ~っ! これだね!」


 姉の胃に運ばれるものなのでできるだけ新鮮なものを品定めすれば、ちょうど真っ赤に売れている美味しそうなトマトを見つけた。


 指差しながら声を上げれば、屋台のおばさんは太陽にも負けない笑みを魅せながら頷いた。


「ええと、お代は……」

「銅貨三枚だよ」

「分かりました」


 アノンはポケットから布袋を取り出すと、そこからおばさんに言われた通り銅貨三枚を取り出して渡した。


 きっちりとお代を受け取ったおばさんは、それから袋にトマトを詰め込み始める。


「……子どもがココに来るなんて珍しいねぇ。お使いかい?」

「そんなもんですかね。姉さんがトマトのパスタを好きなので」

「へぇ。お姉さんの為かい! 可愛いねぇ。それじゃあ、一つおまけでいれて置いてあげるよ」


 初めは目深にフードを被っているから怪しまれたが、少し雑談するとおばさんはアノンを気に入ったのか、トマトをおまけしてくれた。


 と思ったのだが、


「あぁ、そうだ。これも持っていきな。あとこれも」

「い、いえっ。そんなに貰っても持てないです!」


 トマトを一つおまけしてくれると思ったら、次々と袋に野菜を入れ始めた。

 狼狽えるアノンに、おばさんは「気にしないで!」と笑みを魅せながら手を動かし続ける。


「アンタ若いんだから、いっぱい食べないと。お姉さんと一緒にたくさん食べて、大きくなるんだよぉ」

「あ、ありがとうございます」


 背も低く、年頃の男にしては華奢と思われたのか、おばさんが気遣うようなこと言う。


「(姉さんからも人の好意には甘えるもの、って言われてるしなぁ)」


 これもおばさんの好意なのだろう。しかし、その量が尋常じゃない。

 見れば、大きめの袋には溢れ返りそうなほど野菜が詰め込まれていた。


「はいっ、お姉さんと一緒に、たくさん食べなね!」


 おばさんから紙袋を渡されれば、ドスン、という音が聞こえた気がした。


「うわっと。ま、前が見えない」

「ありゃりゃ、少し入れすぎちゃったかね」


 苦笑するおばさんは、前が見えなくておろおろするアノンを見ながら言った。


「アンタ、背が低いわりに軽々とそれ持つね」


 訝しむような声に、アノンはあはは、と笑うと、


「重いものを持つのは慣れてるので、これくらいどうってことないですよ。ただ、前が見えなくて進みづらいのが難点ですけど」

「へぇ。見かけによらず力持ちなんだねぇ」


 感心するように吐息するおばさんに頭を下げて、アノンは歩き始めていく。


「それじゃあ、また今度もここで買いに行きますね」

「ふふ。気に入ってくれたようで何よりだよ」


 最後にそんな微笑みを交わしあって、アノンは屋台を後にした。


「しかし、本当に量が多すぎて前が見えないや。ぶつからないように注意をしないと……っと」


 そう呟いた直後。誰かと衝突しかけた。


 正確には相手もアノンと同じ進行方向だったから衝突ではなかったが、危うく新鮮な野菜が地面に落ちるところだった。


「凄い勢いで誰か横切ったな」


 誰なんだろう、と思って顔を逸らせば、それらしき人物を捉えた。


 真っ赤な赤髪の少女だ。背はアノンよりも低く、幼く思える。無地のワンピースに素足なので、おそらく裕福ではない子だろう。走っている理由も、たぶん市場で盗みを働いたから。


 世の中大変だな、と呟きながら再び歩きだそうとすれば、またアノンの横を人が通り過ぎる。しかも、今度は大勢が。


「もうっ! また野菜が落ちるところだったじゃないか!」


 文句を吐きながら通り過ぎた人間に目を凝らせば、アノンは「ん?」と疑問の声を上げた。


「……隊服着てる」


 よく見れば彼らは隊服を着ているので、この国の騎士団なのだろう。その騎士団たちが、周囲が振り返るほどの勢いで走っていた。


「あの進行方向。さっきの子と同じだな」


 事件の香りがした。


「姉さんに面倒ごとにはなるべく足を突っ込まないように言われてるけど……」


 アノンも多感な年頃なので、あれが何なのか気になって仕方がない。


 それに、このまま追いかけられている子が騎士団に捕まれば、確実に窃盗罪で捕まるか、最悪の場合はその場で袋叩きにされるか、その二択だ。


 見た所アノンと近い年頃だったので、見捨てるのも罪悪感が涌く。


「少しだけ覗くくらいなら、姉さんも許してくれるよね」


 ごめんね姉さん、と胸中で謝りながら、アノンはうまく前が見えない状態で赤髪の子を追った。

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