後手
葉見山から私達を見た少年は確実に殺しましたが、そこから現れた白髪の魔術師に遺体ごと持って逃げられました」
「そうかい。お疲れ様」
黒猫はそう言い、テクテクと望月希香と共に地下の工房へと向かっていく。
「白髪の魔術師……ラグニアかアプリスティアの婆さんじゃないのかい?」
「顔や魔力を感じた時登録されている魔術師とはどれも該当するものがありませんでした」
「とにかく当主とはいえまだ未熟な君がまともな魔術師と交戦して生きて帰ってこれたのが良かったよ。それにしても希香、何故私に相談せずにカネヒロ君を殺したんだい?」
「それは……」
「他の魔術師に朝の実験を見られ模倣されたらこの2000と22年が全て水の泡になるとはいえ、まだ当主となって間もない魔術師の卵である君があそこで一般人に鮮血魔術をかけてまで殺すのは少々いただけないね」
なんでだろう。あの時私はカネヒロ君を殺す事しか考えてなかった。落ち着いて話が出来ていたら殺さずにすんだかもしれないのに。
「すいません、ですが結果論とはいえ術式は守ることが出来ました」
「まあ魔術師として人を殺したのは初めてだし。今回は許すよ。次は無いと思ってね」
「はい」
もう人を殺してしまった、しかも同級生であり同じクラスメイトをだ。あんな感触、あんな後味、
二度と人を殺したくない
地下の工房に着き、この町の地形が描かれた2メートルほどの正方形の立体地図の前に立つ。
「さて、白髪の魔術師の事だけど今回はスルーさせてもらうことにしよう」
「いいのですか?」
「そもそも追う手段がないんだよ」
黒猫は希香の頭に乗りそこから地図を見下ろし、告げる。
『#Zeigen Sie den Zauberer auf der Karte《地図よ魔術師を示せ》』
本来この立体地図を元にこの町のどこに魔術師がいるか魔力を通して位置を確認している。青色の炎で示されるのだがどこにも反応はない。
「反応がないですね」
「どうやら結界が弄られたようなんだよね」
「明日私が元に戻しに行きましょう」
そもそもこの結界の点検をしてるのは私だ。明日の登校ついでに行き結界の貼り直しとあれば30分で直せるだろう。
「それが出来てれば苦労しないよ。どうやら結界の主導権を奪われたんだよ。解くことも出来なければ貼り直すこともできない。」
「魔術結社には報告しましょうか?」
「やめとこう。下手に報告したら魔術結社はこの土地ごと没収するだろう。恐らく白髪の魔術師はこの事まで計算ずくで僕達に認知されるリスクを犯して主導権をとったんだろう。とにかく白髪の魔術師が何もしてこないならこちらも何もしない。今はこれでいこう」
「分かりました。では私は『五つの絶対使命』の研究に戻ります……」
そう言って私は朝と同じ工房の真ん中に立ち朝失敗した事の反省部分をノートに書き写していく。
「希香君はまだ無理に『五つの絶対使命』の研究をしなくていいんだよ?」
「いえ、一族の悲願の成就のため。そして私がここにいていい理由なので」
師匠はそれを聞いて「まだ若いのに」と呟き飯を取りに地上にある冷蔵庫へと向かった。