とある従僕の話(ブリッツ視点)
婚約の顔合わせ当日~現在を見ていたブリッツさんの視点です。
私はブリッツ。シオン王子の従僕だ。
シオン王子は、なんというかアホである。いや、失敬。
頭は良すぎるくらいだし、仕事に対しても勤勉だ。対外的なこともそつなくちゃんとこなせる。そういう勉学や仕事の面では有能すぎるくらいなのだが。
……恋愛に関しては、アホなのである。
誤解を招かないように言っておくと、私は王子にちゃんと友愛を持っているし、尊敬もしている。だから王子に心の中だけでもアホなどと言うのは非常に心が痛むのだが。
……本当に、痛んでいるよ?
今日は王子と婚約者ティアラ様の対面の日だった。私も他の従僕やメイドたちに混じってその様子を見守っていたのだが。
(は~あんなに頬を染めて、まぁ)
王子の初々しい様子と言ったら……自分が遠い昔に捨て去ったものを見ているようで。なんだか尻がむず痒い気持ちになる。
肉食女子ばかりの王宮で、しかもあんなにおモテになってよくもまぁ、こんなにピュアに育ったものだ。数人くらい食ってるものかと思ったら、王子は未だ童貞らしい。
王宮の勤めの者たちの中には王子は男色が、ご趣味なんじゃないかと心配する意見も出ていたが。それはどうやら杞憂だったようだ。王子の顔は美女と言われるご令嬢を凌駕するくらいに美しいから、色々シャレにならんしよかったな。
王子はティアラ様をいたくお気に召したらしく、めずらしく積極的である。
微笑み、手を取り、跪き……今までのシオン王子ではありえない行動だ。
『いいぞ、やれやれ!』なんて適当に心の中で野次を飛ばしながら見ていたが、ティアラ嬢も満更ではない様子に見える。
なんだか感動すら覚えながら親のような気持ちで二人を見ている時、それは起きた。
ティアラ嬢が、大声を上げた後にシオン王子の頬を叩いたのだ。
……ああ、シオン王子が呆然としてらっしゃる。可哀想になぁ。
ティアラ嬢の様子を見る限り、恥ずかしさが頂点に達してだろうけど。しかし、大勢の前で王族をぶつのはまずい。
案の定というか、周囲の騎士たちがざわめきティアラ嬢を捕えに走る。
けれどその動きを、シオン王子は制した。そして謝る彼女を、穏やかに慰めたのだ。
(私は感動しましたよ、王子。やればできるじゃないですか)
そこはハンカチを差し出すだけではなく、涙の一つも拭いてあげればもっと良かったのだけれど。それを求めるのは酷というものか。恋愛初心者だからなぁ……
まぁ、この二人は上手くいきそうだ。私はそう、楽観していた。
まさかそれが、こんなに拗れるなんて。
――お二人とも、恋愛初心者が過ぎる。
ティアラ様はいくら恥ずかしいからってぽんぽんとシオン王子を殴りすぎだ。もう少し心を落ち着けてくれ。不敬罪でそのうち投獄されるぞ。
王子は王子で、いちいちそれにへこむんじゃない。ティアラ様の様子を見れば、さらにもうひと押しすれば簡単に落ちてくるのはわかるだろうに。どうしてそこで引くのかなーこのへたれ!
しかも婚約破棄をするとか言い出すし、アホなのか。あんたティアラ様に夢中なくせに。後に婚約者になる令嬢が気の毒でしょうが。
婚約破棄後に、散々泣き言を言いながら愚痴るのも目に見えているし……面倒な。
これは私が、一肌脱がねば……
「ティアラ様と二人で、婚約破棄のお話をされてはいかがですか? 陛下と公爵には話を通さず、他のどなたにも秘密にして、王子とティアラ様だけで」
この二人に必要なのは、本音をさらけ出せる話し合いの場だ。
さて、どう転がるかな。私はいい方向に転がると、睨んでいるのだけどね。
短いですがそんなブリッツさんの視点でした!




