神の子
目が覚めると辺り一面真っ白な世界だった。見渡す限り白白白。ただその白い世界に不相応な6つの黒い球体。黒い球体はぼんやりと揺らめいている。
「---!---!」
「ここはどこだ!誰かいるのか!」そう叫んだはずだが声が出ない……。声を出したくても声にならない。黒い球体に触れようと近づきたくても近づくことができない。近づくための足がないからだ。触れたくても触れることができない。触れるための手がないから……。
何も聞こえない、何も触れない、ただあるのは白い空間と6つの黒い球体だけ……。タナカは何もできずに途方にくれていると聞いたことのある声が響いた。
「やあ。7人の迷える子羊達。ご機嫌いかがかな?」
タナカが意識を失う前、最後に聞いた声だった。
「---!!---!!」
「------!」
「----------!!!」
黒い球体から声にならない声が発せられていることがわかる。一体……?
「はいはい。わかりましたよ。静かにしてね」
気だるそうな声と共に白い空間に黒い豪華な装飾が施された椅子と声の主が現れた。白髪の髪に銀色の瞳、全身に白い衣服を纏う少年。少年は黒い球体達を一別すると口を開く。
「まずは自己紹介から。僕は”統治者”。そうだね……君たちの言葉を借りるなら『神』かな?」
「----!!」
「----!」
「----!!----!?」
『神』を自称する少年……。普段なら厨二病乙。とでも思うだろうがここへ来る前にされたことを思い出すと頭ごなしに否定する気は起きない……。
「まあ君たちが信じようが信じまいが僕にはどうでもいいことだよ。そんなことより僕の要件を伝えるね!」
少年が気だるそうに手を一叩きすると辺り一面の景色が一変する。映し出されたのは戦争の景色。中世の鎧を着た兵士たちの大軍が白兵戦を繰り広げる様子が映し出される。戦火で燃える街。下半身が吹き飛んだ子供を泣きながら抱きかかえる母親。生首を持ち上げ半狂乱で叫ぶ兵士……
パチンッ!
少年が指を鳴らすと映像が移り変わる。今度はさっきよりもう少し近代的な戦争だ。銃のようなものから魔法を発射する兵士。軍艦のような乗り物から極大の火炎魔法が放射される様子。火炎放射器の様なマジックアイテムで村人を燃やす兵士達……
パチン!パチン!
少年が指を鳴らすごとに切り替わる映像。どれも全て時代に差はあるものの惨い戦争のあり様だった。
「僕はもう疲れました。どんなに君達に繁栄して欲しいと願っても君達自身で壊してしまう……」
少年は疲れたような眼差しで虚空を見つめる。
「そして閃いたんです!何も僕がこの星の住民を守る必要はないッて。めんどくさくなったなら代理の役を立てればいい!」
少年は一転して嬉しそうな声音で語る。
「でもこの星の住人はダメです……。命の価値が酷く軽いこの星の住人は偏った統治をしてしまいます。」
今度は一転して落ち込んでしまった。喜怒哀楽が激しい。
「そんな時です。見つけました。地球という星を。日本という国を。戦いを放棄し平和なはずなのに新たな死を生み出した国。『過労死』。こんな言葉初めて聞きました。過労死ですよ!カ・ロ・ウ・シ!病死でもなく、戦死でもなく、老衰でもなく過労死……働き過ぎで死ぬ民族がいるんですよ!この世界のように奴隷制度もないのに!!なんておバカな民族だろう。そしてなんと僕にとって都合のいい民族なんだろう。日本という国を見つけた時心が震えました。これしかねえ!って。」
こんな自称神を名乗るような少年でも驚くくらい『過労死』っておかしい死に方なのか……。
「そんなに働くのが好きなら好きなだけ働かせて上げようと思いました。この世界を統治するっていう仕事を与えてね。」
少年はいたずらを思いついた子供のように笑う。
「皆さんは日本から集められ、この世界に転生した7人です。さしづめ……『神の子』。とでも言っておきましょうか。皆さんには僕の代わりに神をやってもらいます!勿論この世界を破滅させるとかは無しですよ。ですが何をやってもらっても構いません。例えば知恵ある生き物を全て殺しつくし魔物だけの世界にするとか、美男美女以外は全員間引いて美しい者だけの世界にするとかでもOKです。何かしらの生態系さえ築いていればなんでもいいだろうなのです!生命全てを根絶やしにしこの星を死滅させる以外は……ね」
「ですが……」
少年の纏う雰囲気が一変する……
「神は7人もいりません。1人いれば十分なのです。」
神々しい雰囲気を纏っていた少年は消え、悍ましい雰囲気を纏っていく。そして少年の口は次第に三日月形に裂けていく……
「神とは全能です。強き者です。弱き者が強い神になることはできないのです。強さが必要なのです。せめてこの戦いに勝ち残れる程度の強さは…ね。ですので……最後の1人になるまで殺しあってください。最後の一人に神としての力を授けましょう……。」
少年が背筋が凍るような笑顔で微笑むと同時に彼の背中から黒い天使の翼が生え、黒い羽が舞い散った。僕の視界が黒い羽で埋もれていく…。埋もれれば埋もれる程に僕の意識は遠のいていき……そして僕の意識は落ちていった……。
「…………カ」
「…………ナ……カ」
「タナカッ!!」
「ウオッ!!」
目が覚めると僕の後頭部は柔らかい感触で包まれていた。目の前には僕の顔を心配そうに覗き込む金髪紅眼の小さな悪魔。どうやら僕はリリアに膝枕をされているみたいだ。
「びっくりしたよ!!急に死んだ魚みたいな目になって倒れちゃうんだもん。」
リリアが僕の髪を心配そうな手付きで撫でる。恐怖で弛緩していた僕の体から力が抜けていくのがわかる。少し甘い嗅ぎなれているリリアの香り……どうやらあの白い世界から戻ってこれたみたいだ。
そうか僕は気を失っていたのか……それにしてもあの夢……一体……?
「いや、ごめんリリア。急に意識が飛んじゃってね……ゾンビでも気絶することがあるみたいって新発見があったよ」
僕はふざけて誤魔化す。あの夢で感じた恐怖を思い出したくない。あれは救いを与える神なんかじゃない……もっと禍々しい別の何かだった。
「何言ってるのタナカ。ゾンビなんだから気絶するわけないじゃない。」
リリアはまた馬鹿な事言ってと微笑む。
……
正直なところわかってる……あれは夢なんかじゃない……絶対に……。リリアのおかげで和らいだとはいえ、恐怖も怖れもまだ僕の中に残っているのだから。それに……
タナカの手の中には黒い羽が一枚握られていた……。




