タナカ神死す
祭り。
その語源は来期の農作物の収穫や災害からの庇護を求めるため、神を讃え祀ることが所以となったとされている。
果たして君達は祭りの神聖さを本当に分かっているだろうか?
いいや、わかっていない。断言できる。
何を隠そう僕も生前、祭りなんてものは国や地方行政が経済を円滑に回すための一つの策ぐらいに思っていた。
例えばクリスマス。これはキリストの生誕祭だ。
僕は無宗教だ。なのにキリストの生誕を祝っている。
なんなら肉を食わない宗派なはずなのにクリスマスに焼き肉を食べたことさえある。
牛・豚・鳥。余さず食べた。何なら部位も結構な種類を食べた。
つまりだ……神聖な信仰心など当の昔に忘れ去られ、自分たちに都合のいい部分だけを取り入れたに過ぎない。
僕はこの世界に来て祭りの真の意味と偉大さを知ることとなった……。
ーー
夜空に向かって赤く燃え上がる炎。その炎の周りには木材が規則正しく組み上げられている。所謂キャンプファイヤーだ。
そしてその炎を囲むように踊る悪魔族たち。誰もかれもが澄んだ瞳をしており、自分たちが神の庇護下にいることを確信し、自信をもった目だ。
その集まりの一角には一際目立つ異質があった。
豪華な赤い絨毯。高級そうな年季が入り味が出ている木製のテーブル。その上に山のように供えられた果物やパン。この貧乏な村のどこからこんなものが出せるのかと言いたくなるような物資が僕の前に備えられている。
やあ僕はタナカ。今祀られている。
”試練の大樹”を踏破し、村に病気をばらまいた元凶、感染龍インフルとバイキーンを退治し、村へ戻ると僕は神になっていた。
全ての元凶はワタナベだ。彼の本名は”神獣 キングスコーピオン ワタナベ”。キングスコーピオン、ワタナベ。この二つは問題ない。まあ大したことない名前だ。モブみたいな雰囲気さえある。だがしかし、最後の一つが問題だった……。
”神獣”……。この部分を聞き、村人達は盛大に勘違いをした。神が創り出した獣。そして村を1年程襲い続け打つ手がなかった病魔を振り払った御業。そして、”試練の大樹”で手に入れた財宝を少し身に着けて豪華な雰囲気になっていた僕の姿……。彼らは僕を神だと言い始めた。
勿論否定した。この格好は”試練の大樹”で手に入れた財宝で成金貴族ごっこをしていただけだと。神獣とかいってるそこのサソリはすぐ道端に唾を吐くぐらいしか芸のない品のない生き物で、何なら今ゾンビ化していると。村を救ったのもリリア達を助けるついでで狙ってやったことではないと……。
逆に勘違いをさらに加速させた。神の御業を起こしながらもなんという謙虚さだ!とか、見たことのない高価な財宝を身に着けて置きながら成金貴族のフリをして村人を気遣う慈愛の精神をお持ちだ!とか……。
もう止められなかった。手は尽くした……。やれることは全てやったさ。
リリアが別にいーじゃん悪い事じゃないんだしって言ったのに便乗したわけではない……。
ミーナがタダで食料手に入るなんて最高だろ!って言ったのに心動かされたわけではない……。
というわけで、なし崩し的に今神格化されて『タナカ神』なんて呼ばれているわけだが。僕の御業への礼として祭りが開かれた。『邪神祭り』というらしい……。悪魔族っぽい……。
「お楽しみいただけていますか?」
僕が夜空を見上げ『星は偉大だ……』なんて意味深なことをつぶやいていたらダルマンが話しかけてきた。
「村を救っていただき、ありがとうございます。リリアの件といい今回のことと言い、感謝の念が堪えません……本当に深く感謝申し上げます。」
ダルマンは感極まった表情で僕に頭を下げる。いや気にすんなよパピー。リリアのパピーに好印象をもってもらえて僕も嬉しいよ。よーし少し調子に乗ってみるか……
「頭をあげてくださいお父さん。リリアの為に動くのは当然のことです。そしてリリアの村やご家族を助けるのは当たり前じゃないですかお父さん」
「あなたのお父さんではありません。」
さっきまでの表情が嘘のように真顔になった。
「あら、あなたいいじゃないですか……私はお母さんと呼んでくださって結構ですよ。それと今回救っていただきありがとうございました。」
僕が顔を引きつらせていると、白い着物を着た黒髪紅眼の妙齢の美女が助け舟を出してくれた。そうリリアの母親のナターシャだ。マミーだ。
「タナカ神様には感謝しているが、これとそれは別の問題……」
「あなた!……」
「タナカ神様。私のことは父と呼んでください。」
ダルマンはナターシャに一睨みされると手のひらを返した。瞬殺かよ……。
瞬殺されたダルマンは言いづらそうに口を開いた。
「タナカ神様。誠に言いづらいのですが……今後のご予定が決まっていないのなら1度首都の方へ出向いてくださりませんか?会っていただきたい人物がいるのです……」
そう言うと、僕に白い封筒を手渡す。
「それを首都にいき城の門番にでも見せれば話は通ると思いますのでよろしくお願いします」
そう僕に告げると、ダルマンは足早に去っていった。詳細をもう少し聞きたかったが……。
まあ、娘を取られた相手とあんまり話したくないのが父親心か……。ここはそっとしといておこう。
「すいません。根は悪い人じゃないんですけど……。あの人はリリアを本当にかわいがっていましたので……村から居なくなったときはそれはもう大変だったんですよ……村長という立場上、村を離れてリリアを探しに行けるはずもなく、娘を放置するなんて父親失格だという気持ちと板挟みになってかなりやつれてしまったのですよ」
そうだったのか……。村がこんな状態だったのなら放置なんてできようもないしな……。可哀そうに。
「ですのであの人に代わって本当に本当に感謝申し上げます」
そう言って、ナターシャは僕の手を握り涙をこぼした。
ーー
宴もたけなわとなり、僕はダルマンから間借りしている一室で横になっているとリリアが飛び込んできた。
僕は体を起こしリリアと一緒にベッドに腰掛ける。
「タナカ……。村を救ってくれてありがとう。それと私のことも……」
リリアははにかみながら照れ臭そうに僕に告げる。
「いいっていいって……。僕がリリアを助けるのは当たり前のことだろう?」
僕とリリアは自然と見つめあう。そしてリリアが目をつぶった。
僕はリリアの肩に手を優しく添え唇へ顔を近づける。そしてリリアの柔らかそうな唇へと僕の唇が触れ……
……ない。え?
『お楽しみの最中悪いね』
体が全く動かせないため眼球だけ声のする方へ向ける。
そこには白い神々しい衣服を纏った少年が立っていた。
『神様になったところ悪いんだけど、死んでみようか』
全く悪びれもせず少年は僕にそう告げる。そして虚空から白いロッドを取り出すと僕に突き付けた。
『はい、さようなら。』
次の瞬間僕の意識は闇に包まれていく。1度味わったことがあるこの感覚。なにかが終わっていくこの感じ。
そして……
僕は意識は闇に落ちた。
2章完。3章へ続く……
読んでくださってありがとうございます。
お疲れ様です。
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今後も皆様のお暇を潰せる楽しい作品になっていけるよう頑張りますのでよろしくお願いします。




