誰も得をしない……
「ヒィーヒッヒ、やれ!インフル!」
バイキーンは感染龍インフルに飛び乗ると叫ぶ。
すると感染龍インフルが大きく羽ばたいた!突風がタナカとワタナベを襲う!
「ドワアアアアアッ!!」
「小僧掴まれ!!」
ワタナベは尻尾を地面へと突き刺し、自分を固定する。そして僕を掴んだ。
危ないところだった。助かる。ここは外へと吹き抜けになっている広間だ。
落ちれば地面へと一直線。いくらゾンビでもHPの許容限界を超えてしまえば死んでしまう……。
「ヒィーヒー!しぶといなゴミ共。ならこれはどうだ?やれ!インフル!!」
イヤらしい笑みをバイキーンは浮かべながら、感染龍に命令を下す。
感染龍は大きく口を開き息を吸い込む!
まずい!龍の代名詞”吐息”だ。くる!!
『ファ、ファ、ファークッション!!』
「「ウワアアアアアアッ!!」」
先程の突風よりも数倍強力な突風が僕とワタナベを襲う!
というか”吐息”じゃないのかよっ!くしゃみって……予想外だわ!!
僕はアイテムストレージからアイテムを取り出す。
”蜘蛛族の糸”
『蟲毒』に生息する蜘蛛族から手に入る粘着性の糸だ。
この糸は粘着性があるだけでなく、頑丈なことでも有名だ。本来は加工して”蜘蛛玉”や”投摘網”等の捕獲用アイテムにして使うものだ。
僕は”蜘蛛族の糸”を自分とワタナベの体に付け、近場の地面から生える太い紫色の木に貼り付けた。
「助かったぜ小僧!!」
なーに気にするな。後で金をもらうからさ。そんないやらしい事を考えていると、バイキーンが喋りだした。
「なかなかやるじゃないか。お前らあの村にいって平気ということは毒耐性持ちだろう。ヒィーヒッヒ!俺は無駄なことはしねえ!頭がいいからなヒィーヒー」
ヒーヒー言いながらバイキーンは笑い出した。
ちくしょう……ばれていたか。あいつの言う通り僕もワタナベも種族柄毒無効だ。
その事実を知らずに、毒攻撃をわざと食らい、死んだふりをし、近づいてきたところをブスリと殺ってやろうと思っていたんだがその手は食わなさそうだ……。
主人公らしくないって?ありがとう最高の誉め言葉さ。メシウマだぜぇ!!
「さてと、どうしましょうか……」
僕は何か奥の手を隠し持っている雰囲気を出しながら、無駄に自信のある声音で喋り、バイキーンを見つめる。
バイキーンはたじろぐ……。どうやら打つ手がなく考え込んでいるみたいだ。僕の牽制が効いているな。
ふむ……。実のところこちらに手はない。
そしてあちらには手がある。というか単純な話なのだが、特殊攻撃が通じないなら肉弾戦で行けばいいのだ。
いくら僕が3次職に進化したゾンビで、いくらワタナベが二つ名持ちの魔物だといっても、龍種の巨体に近接戦闘で勝てるはずがない。
近接に持ち込んで僕たち2人を外にたたき出して、地面へとフリーフォールさせればバイキーンの勝ちだ。
あいつ全然頭良くねえな……
僕が必死に活路を考えつつ、バイキーンを見つめているとバイキーンが動き出した。
「ヒィーヒッヒ!思いついたぜ!近接戦闘でお前らをここから叩き落してやる。俺は頭がいいからな……やれ!インフル!!奴らを血祭りにあげろ!!」
『キジャアアアアア!!』
感染龍インフルが咆哮を上げ、僕とワタナベに突っ込んでくる。
いやお前全然頭良くないから。僕割とお前の自己紹介してるぐらいから、やばいなあれって思ってたから!!
僕が心の中で罵倒していると感染龍の尻尾が目の前に……
「小僧!!ボーッとしてんじゃねえ!!」
ワタナベが僕を担ぎ上げ飛び跳ねる!
なんとか、感染龍の尻尾薙ぎ払いを回避できた。助かったぜ!!ワタナベ!!
着地と同時に僕は叫ぶ!!
「ワタナベ!!足だ!!足を狙うぞ!!」
僕とワタナベは散り散りに走り出す。
僕の『死者の剣』での腐食攻撃、ワタナベの膂力での斧攻撃。いくら龍種でも足という部位ぐらいなら破壊できるはずだ!
足さえ壊せばただの的。チェックメイトだバイキン男め!!
「悪魔の力よ我を守護したまえ!反射魔法”悪魔の鏡”」
ガキッ!
「オワッ」
「ナンダッ」
僕とワタナベの斬撃が跳ね返された。切りつける度僕らの斬撃が跳ね返り、僕らがダメージを負う!
「ヒィーヒッヒ!お前らが足を狙ってくるのはお見通しよ!!俺は頭がいいからな」
ちくしょう!!読まれていたか。
あいつが頭がいいからなのか、僕がバカだからなのかはわからないが……なんにせよ追い込まれた!!
クッ!!どうする……
「マアアアアアアアッハリ!!」
無数の毒針が感染龍とバイキーンを襲う!
「俺が時間を稼ぐ!!お前はこいつを倒す策を考えろ!!俺たちのパーティーリーダーだろ!!」
ワタナベが咆哮をあげ感染龍に突貫する!ワタナベ……
一瞬ワタナベを置いて逃げようかと思ったがいくら僕でもそんなことはしない。
そうだ僕はパーティーリーダーだ。そしてリリアとミーナの命がかかっているんだ!!
固有スキル発動!!”加速するタナカの思考”
ポイント1 僕たちの攻撃で奴らに通じるのは僕の腐食攻撃とワタナベの膂力
ポイント2 奴らは今地面へ降りて、龍種の利点である空中戦が消えている
ポイント3 ”悪魔の鏡”は広範囲を守れる魔法ではなく、それをバイキーンは感染龍の足に使っている
ポイント1×ポイント2×ポイント3=解!!
……謎は全て溶けた
「ワタナベッ!!僕を空中へと打ち上げてください!!」
「応ッ!分かったぜ!!」
僕はワタナベの元へ走り出す。
ワタナベは斧を投げ捨て、腰を落とし、両手を体の前で合わし、腕を伸ばす。
フッ!フッ!僕とワタナベの呼吸が同調する……
僕はワタナベの腕へ飛び乗るとワタナベは僕を力いっぱい空中へと打ち上げる。
その姿はまさにバレーのトス……
「「フッ!」」
僕は感染龍の体躯を超え、感染龍の背に乗るバイキーンを見下ろす。
空中へと飛び上がった僕は体を丸め『不死者の剣』を前へと突き出す。
その姿はまさにバレーのボール……
「「フッ!」」
ワタナベはサソリの脚力を活かし僕と同じ高度まで飛び上がった。
ワタナベは大きく腕を振り上げる。ビキビキと胸筋と腕の筋肉が膨らみ全力を放つ準備が整う。
その姿はまさにバレーのスパイク……
「「いくぜ!!」」
2人の声が重なり、ワタナベの腕が僕の体へと振り下ろされた
協力スキル!!”血と汗と涙の結晶”
僕の体は風を置き去りにする速度でバイキーンへと迫る。そして……
「ヒイイイイイイイイイイイイ!!」
『ギジャアアアアアアアアウウウウ!!』
僕の体はバイキーンをそのまま突き抜け、留まることなく感染龍すらも貫いた。
バイキーンは上半身と下半身が真っ二つに分かれ、風穴の空いた感染龍は生気を失ったように地面へと沈んでいった……
ズシーン……
「オワアアアッ」
空から落ちてきたワタナベが地面に激突する寸前に僕は素早く体をすりこませる。
「グエッ」
「ブホッ」
僕の体がクッションの役目を果たし、ワタナベが地面へと直撃することは避けられたようだ。
「助かったぜ」
「ああ」
僕の体の上に乗るおっさんサソリ。強敵を倒したことで体に熱がこもっているのだろう。
熱い視線で見つめあう二人。そして……
懐かしい音が響き渡り僕の目の前に、おなじみの文字が表示された。
称号 誰も得をしない…… を獲得しました。




