結婚
汝タナカは、この者ワタナベを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?
「あ、ああ。ち、誓うよ……。」
汝ワタナベは、この者タナカを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?
「お、おう。ち、誓うぜ……。」
皆さん、お二人の上に神の祝福を願い、結婚の絆によって結ばれた このお二人を神が慈しみ深く守り、助けてくださるよう祈りましょう。
では、誓いのキスを……
毛むくじゃらの分厚い胸板。
気品のかけらもない唇が僕に近づいてくる。
そして……
ーー
話は2日前に遡る……
「姉御が倒れたぁ~?」
ワタナベが冗談だろ?みたいな顔で言う。後でミーナに言いつけておこう。
朝起きると、ミーナとリリアが倒れてしまった。
顔は赤く、熱があるようだ。節々が痛く、起き上がる力もないみたいだ。
どうやら、スズキも倒れてしまったらしい。症状もリリア達と同じだ。
昨日『ナオール草』を煎じて飲ませた村人達もぶり返してしまったらしい。
僕たちで無事なのは僕とワタナベだけだ……。
「一体どういうことなんでしょう……」
『ナオール草』は高級薬草だ。レアリティで言うならレア。
一草50万エーンの効果は伊達じゃなく、状態異常全回復+体力小回復するなかなかの逸品なはずなのだが……。
リリア達に飲ませると、状態は緩和するが完治はしない。
安静にしていないとだめだ。心配だ……。
「実は1年前ほどからこのような状態なのです……」
僕とワタナベがどうすればいいかわからなくなっているとダルマンが話しかけてきた。
何でも、半年ほど前に村に治癒術士が訪ねてきたことがあったそうだ。
その時も、一時的には緩和するが完治させることができなかったそうだ。
「『ナオール草』ならもしかしてと思いましたが……」
ダルマンは残念そうな顔をする。
「以前から流行っていた病というわけではないのですね?ここ1年ほどで村の周囲で変わったことはありませんでした?」
僕は尋ねる。
「特にかわったことと言えばリリアが出て行ってしまったことぐらいですが……。」
「……!そういえば人面大樹の方になんだか見慣れぬ魔物と見知らぬ悪魔族がいたと報告があったことがあります。」
この辺りの悪魔族はこの村の住人ぐらいで、めったに来客などないらしく、村人から報告があったそうだ。
その悪魔族が村に何かを仕掛けてきたこともなく、立ち寄りもしなかったため特に話題にもならなかったらしいが……
「話を聞く限り、その悪魔族がこの辺りに現れた時期と病が流行りだした時期が重なります……。何かその悪魔族が知っている、もしくは関与している気がするので僕が話を聞いてまいります」
人が滅多に立ち寄らない村に見慣れない悪魔族が現れ病気が流行る。怪しすぎる。
そうは思わないかねワト〇ン君。
「なら俺もいくぜぇ!」
ワタナベがしゃしゃりでてきた。
「仲間が倒れてる時動かない奴は漢じゃねぇ!」
ワタナベが主人公のようなことを言い出した。主役は僕だぞ!!
僕はワタナベに首根っこを掴まれ、戦車に投げ込まれた。
まだ場所聞いてねえよ!!
ーー
ワタナベが場所を聞いてないのに飛び出し、迷子になって村に戻るハプニングがあったが無事、目的地までたどり着くことができた。
悪魔の人面大樹。通称”ウザ大木”
紫色のトレントみたいな生き物だ。ただ恐ろしくでかい。
でかすぎて上の方が雲を突き抜けている……。
こいつの噂は生前ネットで情報だけ知っていた。何でもとにかうざいらしく、”ウザ大木”なんて愛称がつけられていたが……
「あのーすみません!この辺りで魔物を連れた悪魔族を見ませんでしたか?」
僕はウザ大木に話しかける。
「やあやあやあそいつならボークの中にいるぷー。木の実をたくさんくれたから入れてあげたんだぷー」
急に眼が開き、流暢に喋りだした。てか喋る木ってめっちゃキモイな。
「僕たちはその人に用がありまして、中に入れてもらえませんかー?」
初見だしな、ここは下手に出ておこう
「プププのプーやなこった。ただじゃ嫌さー。ぷ。」
こいつ下手に出ると調子に乗るやつだ!うぜえ……
「ぷーぷーうるせえキモ大樹!いいから中に入れろ!!」
ワタナベが速攻でキレる。まあ気持ちはわかるけどさ……
「お前生意気だぷー。……!ぷ。いいこと思いついたプー。仕方ないなーボークは寛大だからいれてあげるぷー」
お。案外いける感じか?結構拍子抜けだな。
「じゃあ逝くぷー。そーれぷー」
ウザ大木の口から長い舌が出てきた。きめえ!!
「「ウワアアアアアアアアアアア!!」」
僕たちはウザ大木に飲み込まれた。
「難易度MAX、絆試しコース……ぷ」
ーー
「ウゲッ」
「デフッ」
飲み込まれるとそこには生前見たことのある景色が広がっていた。
1本の赤い絨毯が引かれた道。その道を挟むように長い木製のベンチがずらりと並ぶ。
その道の先には金色の鐘。祈りを捧げる少女の絵がガラスに描かれている。
そして鐘の前には一人の男が神父服を纏って立っていた。
てかいい加減僕の上から降りろキモサソリ!!
「ようこそ!難易度MAX『絆』の試練へ!」
ワアアアアア、ピューピュー、パチパチ
どこからともなく歓声が聞こえる
今、難易度MAXって言わなかった?あのうざぷー野郎!!
「ここでは挑戦者の絆が試されます!!協力しお互いのいいところを引き出しあわなければなりません!」
神父服の男が熱弁してくる。よく見るとゴーレムっぽいな……
「何か質問がありますか?」
質問OKなのか。じゃあ……
「えーと、僕らは人探しできたんですが、この試練をクリアしたら会えるのですか?」
「そのお方がどちらにいるか存じませんが、試練をクリアすると扉が開きます。そしてその扉から次のステージへワープできるのです。ですので全ての試練をクリアすればどこかでそのお方と会えることでしょう」
神父服の男もといゴーレムがめんどくさそうに答えた。
質問OKって言ったじゃんかよー
「簡単じゃねえか。とにかく片っ端からクリアすりゃ、その悪魔族にたどり着けんだろ?ならさっさとクリアしちまおうぜ!!」
ワタナベのやる気がMAXだ。お前ミーナ関係になるとやる気スイッチ入るよな。
「その意気やよし!では早速ファーストステージを始めましょう。ファーストステージのテーマ……それは……『結婚』です!!」
「え?」
「は?」
「『結婚』それは絆を試すうえで最も必要な行為です。愛がなければ絆も芽生えない。そして絆がなければまた愛も芽生えないのです」
神父ゴーレムが語りだした。何言ってんの?
「お二人には『結婚』してもらいます!」
そして現在に至るわけだ……
ワタナベの唇が近づいてくる……
あーやっぱり無理だああああああああ
「ギャアアアアア」
僕はワタナベを突き飛ばす
「てっめ!!俺だって嫌に決まってんだろーが!ミーナの姉御の為だ」
ワタナベが突き飛ばされつつ僕を怒る。
「貴様ら……冒涜者か……?」
僕とワタナベがギャーギャー口論をしていると、神父ゴーレムが呟く。なんか小刻みに震えてるような……
「愛の冒涜者め……」
神父ゴーレムがみるみる大きくなり、顔が鬼の形相になっていく……。
……え?
「冒涜者共……鉄槌を下す!!」
神父ゴーレムの口からは牙が生え、手にはハリセンボンになっている十字架握られていた。
「「イヤアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」




