ワタナベなんてどうだ……
「寝てんじゃねーよ!!」
ハチの巣になり、あまりの激痛で意識がもうろうとした僕を、ミーナ様の踏みつけと共に暴言が出迎えてくれた。
生前、小学校の先生が「暴力はいけません。争いしか暴力は生まないのです」と言っていたが、圧倒的な暴力というのは争いを生まないことをこの世界にきて実感した。
「タナカ大丈夫?」
リリアが「腐食剤」を僕にかけながら優しい言葉をかけてくれた。……泣いてなんかいないもんね!
「ありがとうリリア。ミーナもお疲れさまでした。早速ですが『ナオール草』を採取しに行きましょう」
僕らは奥へと歩を進める。
そこには息をのむ光景が広がっていた。
「わーきれい!!」
「神秘的だな。」
そこには一面雪化粧されたように『ナオール草』が広がっていた。
それに、ホタルみたいなのが飛び回って実に幻想的だ。
小さな小川が流れていて、川のせせらぎがこの幻想的な光景をより際立たせている。
リリアが大はしゃぎだ。ホタルと戯れながら、小川に素足をつけている。
ミーナもニマニマしながら『ナオール草』の雪原を歩いている。
……意外とかわいいとこあるじゃねーか。
んースズキにもちょっと見せてやりたかったな。まあ僕の馬車を守る任務があるから仕方ない……。
「ところでよ。あいつお前の杭で仲間にしねーのか?」
僕が雪原の雰囲気とか関係ねえよぐらいの勢いでアイテムストレージに『ナオール草』を入れているとミーナがそんなことを言ってきた。
『ナオール草』はいい金になんだよなーゲヘヘ
「んーできますけど……」
正直言ってキモイからいらないんだよなー、ゲテモノはスズキがいるからお腹いっぱいだし……。
「強かったし下僕にした方がよくない?これからの冒険で役に立ってくれるよきっと」
リリアも下僕に賛成派らしい……皆サソリ好きなの?
コンソールを見つめていると僕は重要なことに気づいた。
Lv20になってる!
進化できるじゃん。えーと条件は……
「わかりました。あいつ下僕にしましょう。」
『ナオール草』の採取を済ませて、僕たちはスコーピオンキングの死体現場に戻った。
「んじゃーいきますよー」
僕は『不死王の杭』をスコーピオンキングの死体にブッ刺す。
「おお?俺死んだはずじゃ……」
「「「え?」」」
「え?」
3人でハモってしまった。
「あれ?話せるんですか?」
お前「マアアアアアアアア」って言ったてじゃん。
「当たり前じゃねーか。俺上半身人族のそれだぜ?」
何言ってんだこいつ?みたいな顔で僕を見てくる。
どうやら、雰囲気作りで「マアアアアアアアアア」って言ってたみたいだ。
強い魔物出たぞドヤッ!って雰囲気でてたろガハハと笑いながら言い出した。
お、おう……。出てたぞ……?
「まあ、それは置いておいて、とりあえず僕の下僕になったんでよろしくお願いします。」
あん?みたいな顔でにらんでくる。
「俺はそっちの悪魔族の嬢ちゃんと青髪の姉さんに負けたんだ。お前に負けたわけじゃねえ!」
だそうだ。……って言われてもなー
「まあいいじゃない。とりあえず仲間になったんだし名前つけたら?」
ミーナが言う。てかペット感覚なのかなこの人たち……
「そうですね……じゃあ……」
ペッ
スコーピオンキングのおっさんが僕の顔に唾を吐く。
「お前につけられる名前は無ぇ!!」
この野郎……!!
「姉さーんつけてくださいよナ・ま・エ!」
とおっさんがミーナにウインクしだした。きもちわりい……
「そうだな……ワタナベなんてどうだ?」
「あーい!!」
おっさんがめっちゃ嬉しそうに返事した。きめえ。
「ではワタナベ……仲間にしたのには理由があります。」
あん?って顔でワタナベが僕を睨む……こいつ絶対しばく!!
「僕の進化に大型の魔物ゾンビが必要だったんで仲間になってもらいました」
ワタナベが続きを促す。
「というわけで僕と合体というか共同生命みたくなるんでそこんとこ夜露死苦!!」
ワタナベに唾を吐きかけられた……こいつ殺す!
「馬鹿野郎!べらんめえ!俺はソロでやってきたんだ!ボッチに誇りを持ってんだよべらんめえ!!」
ワタナベがいじめられっ子の言い訳みたいなことを言い出した。知らねえよ……。
「ワタナベ。頼む。タナカに力を貸してやってくれ。」
「あーい!姉さん!!」
……まあいいだろう。ミーナはかわいいからな。でも残念ながら僕のですう。
なんやかんやでコンソールの進化ボタンをタッチする。
すると黒いモヤが僕とワタナベを包み込んだ。
黒いモヤがはれるとそこには異質があった。
魔力を含んだ黒い魔鉄でできた天井付きの長方形のでかい籠。
その籠からはでかい悪魔の角のようなものが2本前方に突き出している。
そして手綱をつけられたワタナベの上半身はこれまた黒い魔鉄でできた鎧で包まれ、頭は目の部分だけ覆われていない禍々しい黒い兜をかぶっていた。
進化しました。
”戦車ゾンビ” タナカ Lv1 になりました。
僕は戦車になった。




