扉様
扉。
扉について考えたことはあるかい?
僕はなかった。この世界に来るまでは……。
扉。それは新たな世界に入る兆しと言ってもいい。
立派な家があるとする。
中はどんなつくりになっているのだろう。
家具はどんなものを置いているのだろうか。
そう扉だ。
玄関の扉を開けるまで僕たちの疑問が解決することはない。
美味しそうな料理屋を見つけたとする。
どんな料理が出るのだろう。
どんな雰囲気が広がっているのだろう。
そう扉だ。扉をあけることでしかその疑問は解決しないだろう。
僕らの世界は扉を中心に回っていると言っても過言ではない。
扉なんて簡単に呼ぶのはやめよう。
たったの漢字一文字だ。
僕は今日から”扉様”と呼ぶことにしよう……。
ーー
「タナカ!おっきい扉があるよ!!」
リリアがそんなことを言い出した。
僕たちは昨日に引き続き『ナオール草』を探しつつ、『蟲毒』を進んでいた。
しばらく進むとリリアが扉があると言い出したのだ。
右を見ても左を見ても穴、穴、穴だ。
文明のかけらもない……。
こんなところにそんな近代的な物があるわけないだろう。
リリアも疲れがたまってるのか、少し労わないとな。
そうだ。今日の夜は肩でも揉んであげよう。
そんなことを考えていると普通にあった。
重厚な黒い扉だ。
明らかに異様な雰囲気を放っている。
というか雰囲気に合ってない……
リリア疑ってごめんよ……なんて思いながら扉に近づくと魔法文字が浮かび上がってきた。
えーと何何?
”汝、この扉を開ける勇気があるか?
さすれば、開けてみよ。富、名声、栄光
この扉の向こうには全てがあるだろう
生きて帰れればの話だがな……”
って書いてあった。
うさんくせえー。なんて思ってると
「うさんくせえー」
とミーナがぼやいた。気が合うなっと思ってニヤッと笑ったら殴られた。
スズキ討伐で分かったけど、僕は痛覚がないわけではなく、かなり軽減されてるだけみたいだ。
ミーナに腕燃やされたときはめっちゃ痛かった。
ていうかちょっと漏らした。
そんな僕でもミーナのパンチやキックは痛い。
手加減してくれよう……。
まあいいそれより今は……
「確かに胡散臭いですけど、かなり洞穴を回っても収穫0です。」
多分50個ぐらい洞穴回ったけど未だに『ナオール草』は見つかっていない。
「なので少し冒険した方がいいように思います。このメンバーなら多少の問題が起きてもどうとでもできますからね」
大丈夫だ。俺たちは強い。山〇高校にも勝てる。左手は添えるだけだ……
「チッ!しゃーねえーなー。」
「アルジガイクナラ……ドコマデモ……」
「リリアも頑張るよ!」
皆同意してくれた。何かあったら連帯責任だ!
ゴゴゴゴゴッ
扉を押すとそんな音を鳴らしながら扉は開いていった。
演出凝り過ぎじゃね……?
ーー
キイッ、キイィッ!!
しばらく進むとでっかいサソリがいっぱい出てきた。1.5mくらいある……
きめぇ……
「オラよ!大火炎の槍!!」
「キイイイー」
やっぱりミーナは強いな。圧倒的だった。
リリアの”闇の壁””闇の手”での援護で攻守にスキがない。
素晴らしいチームワークだ。
僕?スーパーサブだよスーパーサブ。
因みにスズキは入り口付近に置いてきた。
「ワレハ……シュジンヲ……マモルシメイガ……」
とか言ってたけど、僕馬車壊されると死んじゃうからって言ったら渋々納得してくれた。
「タナカあそこに何か生えてる!」
リリアに促されて岩陰にあった草を見に行く。
「これは『チョットナオール草』だ!」
『チョットナオール草』。これは『ナオール草』の劣化版で栄養があまりとれなかった未熟な『ナオール草』だ。効果は下位互換だけあって微妙だけどこれがあるってことは……
「悲しそうな顔しないでリリア。これがあるってことはこの洞窟には恐らく『ナオール草』がある可能性が高い」
リリアにそう告げると嬉しそうに笑った。
左耳のピアスもキラリと光る。2000万も嬉しそうだ。
この洞窟はスズキの時と似た感じがするな……
固有スキル”独断と偏見”発動!!
まずあの扉に浮かび上がった魔法文字。魔法文字は魔力を注ぎ特定のパターンで表示させる中級魔法の一つだ。
あれは恐らく扉に触れたら表示するよう設定したのだろう。ということはここには中級魔術を最低でも使えるレベルの魔物がいることになる。
まあうちには野獣系女子がいるから中級程度しか使えないなら問題ないだろう。
次に壁についている魔法灯だ。これは正直少し不安になっている。
仕組みは魔法文字と同じようなもんだ。特定のパターンで発動的な感じだ。誰かが近づいたら点灯するよう設定したのだろう。
ただし、魔法文字とは難易度は一線を隔す。
魔法文字は文字を表示させるだけだが、これは”灯をともす”という実際の現象に左右するものだ。
だから行使する難易度は跳ね上がる。分類するなら上級魔法だ。
上級が使える魔物は厄介な奴ばかりだ。流石に3人がかりでなら負けることはないだろうが”二つ名持ち”はまずい……。
”二つ名持ち”。奴らの危険度は他の魔物の比ではない。
『ゾンビーズ』時代、”腐食の魔女 アナスタシア”という魔物がいた。まあ魔物ッて言っても見た目完全に人だったが……
僕の『ゾンビーズ』時代の職業は成金ゾンビだ。成金ゾンビのストロングポイントは”防御力”だ
財力じゃない……。最強クラスの防御魔法『金の山に埋もれる俺』を使っても奴の腐食攻撃は防げずパージされたのは嫌な思い出だ。
通常とは違った強さを持つ……それが”二つ名持ち”なのだ。
少し不安を持ちながらも奥へと歩を進める。
すると岩が散乱し、壁一面に魔法灯がある広い空間にでた。
空間の奥の方に白いアロエのようなものが一面に咲き茂っている。
「タナカあれって!」
僕が頷くとリリアが嬉しそうに駆け出す。
すると上から大きな何かが降ってきた。
6本の大きな足。黒い体躯。体はサソリのそれだ。そして上半身は大きな斧を両手に持つダンディーなおっさん!!
壁面一面に魔法文字が浮かび上がる!!
「マアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
神話の獣が現れた。




