称号 社会のクズ
僕はこの場所に見覚えがあった。
前世でほとんどの空き時間を費やしていたあの世界……。
僕にとっては第2の故郷と言ってもいいぐらいだ。それぐらいの時間を費やしてきたし、たくさんの仲間と共に数々の修羅場を潜り抜けてきた。
僕が全プレイヤー中100人もいないと言われていたレア職業『成金ゾンビ』を引き当てたあの思い出深い場所に……。
「ここはもしかして始まりの墓地……?」
『ゾンビーズ』の世界ではここがスタート地点になっている。
全プレイヤーが必ず1度は訪れる場所だ。
すぐ近くに『始まりの森』という何とも適当な名前の森がある。その森を抜けると、最初の都市『ハジマリテ』にたどり着きそこで装備やら何やらを整えるのが鉄板だ。
『始まりの森』『ハジマリテ』。何とも適当な名前付けで、テストプレイの時から絶対変えてないだろうと当時は思った。公式サービスをスタートする前に本来直すのが当たり前だろう……
『ゾンビーズ』の制作会社『テキトウサ』。彼らのネーミングセンスの適当さや、サービス向上しろというユーザーへの塩対応は最早伝説だ……。
インターなネットの某掲示板で相当こき下ろされていたが、一切の対応はなかった。
まぁ、そこが『ゾンビーズ』の魅力でもあって、魅了されていたプレイヤーも多い。皆ドMだ。
因みに『始まりの森』は弱い魔物が出てきて戦い方やアイテムの使い方などを学ぶチュートリアルゾーンになっている。
モンスターと遭遇したら殴るか逃げるかしましょうって説明表記にはさすがに吹いた。
適当な説明しかしないのに、1回出るともう入ることができなくなる…。
ここまで適当だと逆に気持ちいい。
手を横にふると、目の前に見慣れたコンソールが出てきた。
「これまんまゾンビーズじゃん……」
荷車ゾンビ”タナカ” Lv1
職業: 荷車ゾンビ
前世: 金に卑しい庶民
死因: 落とした硬貨を拾いに行き、荷車にひかれ死亡(笑)
スキル: 荷車を引く
硬貨を拾う
魔法: そんな高等なものはお前に使えるはずがない
所持金: 500エーン
アイテム: 汚い財布
悪意を感じる……
ゾンビーズではこの最初の引きがかなり肝心だ。
例えば前世が騎士王だったりすると、最初から上級職 『ゾンビ・オブ・アーサー』になっていて、所持アイテムに聖剣エクスカリバーが入ってたりする……。
「完全に大外れだ……とりあえず例のあれやっとくか……」
僕は隣の墓地を掘り起こした。
実はあまり知られてないが、3個まで始まりの墓に設置されている墓地を掘り起こし、アイテムを奪うことができる。最初の引きでかなりプレイヤー間で差が出てしまうので、外れ枠を引いた人への救済措置だ。因みに職業は変えられない……
まあ、どうでもいいことなんだが、僕が埋まってた墓の墓石には『タナカここに眠っているっぽい』て書いてあった。
さてと
アイテム:木の板、修復の薬、黒真珠、不死王の杭を入手しました。
おおお!これは!!
称号 社会のクズ を手に入れました
おお?
まあいい、不名誉な称号を手に入れてしまったが、大当たりアイテムを手に入れられた。
『不死王の杭』これはやばい。殺した相手の心臓に杭を打ち込むと自分の下僕として使役することができる。しかも自分が止めを刺すという縛り等もない。一撃でもいれ、その対象が死ぬと『不死王の杭』を適用できる。
「初期クラスとアイテムは大外れだったけど『不死王の杭』が引けたなら、何とかなりそうだな…」
……。
何とかじゃダメなんだ……
僕は生前も、何とかなるさ、何とかなるさと周りに流されて生きてきた……
その結末が500円を追ってトラックに轢かれ死亡(笑)だ……
ここは僕が誰よりも知り尽くしている世界『ゾンビーズ』にそっくりだ。
ここでも流されるままに生きていくのか?今までどれだけの時間を費やした。
僕は『成金ゾンビ』を引き当て富と名声を思うがままに手に入れていた。
この世界でも流されて生きていくのか?
答えは『否』だ!!
僕はこの世界でBigなゾンビになってやる!
500円で死ぬ人生なんてもう卒業だ!
新たな決意を胸に、荷車ゾンビ”タナカ”の冒険は始まった
心臓腐ってるけどな……。