総額5000万の女達 後編
「……で、私に用ってなんだ?」
次の日、僕とリリアはあのこじんまりした店に行った。
ミーナと話をしたいのもそうだけど、『不死者の剣』も買いたいことを店長に伝えると午前中だけ貸し切りにしてくれた。
話が分かるぜ!
「ミーナさん……いやミーナ。僕たちと一緒に旅しませんか。旅の目的は先日話した通りです。ミーナの力を貸してください」
リリアのお母さんを助けるため悪魔の村を目指していることはスズキ討伐の時に話してある。
「あー知ってるよ。リリアの母親助けんだろ。でもよ私に何のメリットあるんだよ。それにこの店のこともある……」
確かにそうだ。前世では上司が部下に言うことを聞かせる時、「思いやりが…モラルが…」なんてよく使うがそんなものでは人の心は動かない。
前世での社畜生活で僕はよくそのことを知っている。
「まず、店のことなんですが、店長に許可は頂いています」
僕はミーナの後ろに座っている店長に目配せする。
「ミーナよ。ワシの教えられることは全てお主に伝えた。お主もわかっているじゃろうがお主の鍛冶師の腕は最早わしを超えている……」
ミーナは苦虫をかみつぶしたような顔をする。
「悪魔の村では、特殊な鍛冶の技法を持つものが多くいるという。お主ならそれを吸収してより優れた鍛冶師になれるじゃろう。」
ミーナは少し興味深そうな顔をしだす。
「それにの……。お主の才能をこんなところで埋もれさせたくないんじゃ……お主がワシに義理立てしてくれとるのもようわかってる……もう十分じゃよ。……ありがとうのミーナ」
ミーナは少し考える。やはりまだ悩んでいるのだろう……
だが僕には切り札がある。いくぜ……
「ミーナさん。……旅の仲間になって欲しい理由はもう一つあります。」
緊張する……。漢だ。漢になるんだタナカ!頑張れ僕!!
「僕はミーナさんのこと気になっています!ついてきてくりゃさっい!!」
噛んだ……。
「あー、お前ちょっと寝たからってワタシに惚れちまったか?単純な野郎だな」
ピシッと僕の心に亀裂が入る。クリムゾンスピアで胸をえぐられたみたいだ。
落ち着け……落ち着け僕……
冷静になってみるとミーナの耳は真っ赤だった。……ツンデレ…なのか……?
「だいたいお前リリアのこと好きなんだろ?目の前で浮気とかいい度胸だな」
違う……。昨日の夜ちゃんとリリアとは話し合ったのだ。許可だってもらっている。
「違うよミーナ姉。タナカとはちゃんと話もしてあるよ。ワタシもミーナ姉のこと好きだから……」
ミーナの耳がさらに赤くなる。クリムゾンイアーだ。
僕はとっておきマーク2を取り出した。
ピアスだ。ミーナの髪と同じ色の青い魔石が付いた十字架のピアス。
リリアに聞いたのだが悪魔族は恋人同士になるときにピアスを、結婚する時に指輪をペアで揃えるのがしきたりらしい。人族にこのしきたりがあるのかしらないが……。
その話をきいて僕は深夜のならず者ばかりが集まる闇オークションにいきピアスを競り落とした。
僕の左耳には赤い魔石がついた十字架がついていて、リリアの左耳にも同じものがついている。
その額何と2000万エーン…。ミーナの分とリリアの分で合わせて4000万エーンかかった。
高いだけあって効果がすごい!リリアの赤い魔石には聖耐性の効果があって聖属性ダメージをかなり軽減させる。
ミーナの青い魔石の方は精神軽減だ。混乱魔法や操心魔法なんかからレジストしやすくなる。
「お前!本気か?」
ミーナが顔まで赤くなる。爆発しそうだ……。
「本気です。僕とリリアについてきてください!!」
ここでとっておきマーク3が入る。そう土下座だ。今週3回目だ。ちくしょう……。
「わかったよ。私はお前らについてく……そのよろしくな……。」
僕とリリアは手を取り喜び合う。
「ただ……今日一日待ってくれないか……店長に恩返ししてえ。」
おう……いいともさ。積もる話もあるだろうしそれを邪魔するほど僕はヤボじゃないのさ……
……と忘れてたことがある。『死者の剣』だ。あれを買うためもあってこの店で話したんだった。
土下座に夢中で忘れてたぜ。
「ミーナさん。それとですね。『死者の剣』売ってもらえません?お金は今度はちゃんと払えるんで」
ミーナはあん?と首を傾げた後、すっごい悪そうな顔をした。
嫌な予感がする……
「あーいいともいいとも。」
ミーナは『死者の剣』の値札を取るとペンを取り出し何か書き足した。
「『死者の剣』本日値上げだ。お客さん運がなかったなー」
すると値札には0が一個付け加えられていた。1000万エーンだ。
「いや、ちょっと100万エーンだったじゃないですか!値上げってレベルじゃないですよこれっ!!ぼったくりです!!」
「あ?」
ミーナがヤクザの様な顔をする……
「買わせていただきます」
こうして僕はスズキ討伐の分け前5000万エーン全て使い切った…
いいんだ……満足さ……。金では買えないモノが二つも手に入ったんだから。
ーー
次の日の朝、ミーナと門前に合流すると、店長が見送りに来てくれた。
「店長。世話になったな……」
ミーナが悲しそうに言う。
「いーんじゃよ。それとなミーナ。ワシはいつでもあの店にいるし、あの店はお主の家じゃ。いつでも帰ってこい。ミーナ。お主はワシの娘じゃ。」
ミーナが空を見上げる。泣きそうになってる……泣いてもいいんだぜ…?
「それとの、タナカ殿よ。ワシはこう見えても結構な金持ちでの……冒険者の100や200簡単に動かせるのじゃ。ミーナにあまり不誠実なことをすればどうなるか……わかるの?」
超釘刺された。目がマジだった……。怖ぇー
「勿論です。神に誓います」
ゾンビだけどな。
店長は男らしく笑った。
色々あったが思い出深い街になった。
『サブカルチャー』そんな適当な名前でいい街じゃない……
僕の恋人ができた街だ。……そうだ僕が名前を付けてやろう。そうしよう……
『ドゲザイッパイスール』なんてどうだろう?いい名前じゃないか!この街にピッタリだ!素晴らしい!
ーーこうして僕らは『ドゲザイッパイスール』を後にした。
さあ悪魔の村へリリアの母親を助けに行こう
1章完……2章へ続く……
読んでくださりありがとうございました。
お疲れさまでした。
いかがだったでしょうか。ここで一応1章は終わります。
今後も皆さんのお暇を潰せるような面白い作品になっていくよう頑張りますのでよろしくお願いします。