天国へ逝きました
僕は今天国にいる。
左には天使ミーナが、そして右には天使リリアがお休みになられている。
僕は使徒。そう使徒なんだ。
神のご意思をこの世界に伝え、世界の暗雲を晴らす使命を承った使徒に違いない。
メシアだ。そう救世主だ。
神のご意思を伝える使徒。救世主ゾンビだ。
ーー
ミーナは浴びるように酒を飲み、酒場で眠りだしてしまった。
幸せそうな顔だ。天使みたいだ。
起きると悪魔にジョブチェンジするが……。
リリアも爆睡している。リリアはお酒を初めて飲んだらしい。
リンゴで作ったリンゴ酒。これを飲んだリリアは
「おいしい!!おかわり!」
酒豪もびっくりのハイペースで飲み続け撃沈した。
「止めておくべきだった……」
2人が潰れたことにより、会計は強制的に僕になったわけだが……
リリアはともかく、ミーナは家がわからない……
ミーナの働く店に行ったが、明かりが消えてドアにも鍵がかかっていた。
仕方ない……僕のとってる高級宿に連れていくか……
先に言っておくが、これはお持ち帰りではない。
断じて!!これは善意だ。善行と言ってもいい。
ボランティアゾンビだ。
リリアをベッドに寝かせ、僕のベッドにミーナを寝かせる。
そして僕は今日手に入れた財宝をソファに座りながら愛でるのだ。グフフフフ
僕がエメラルドの指輪をはめ、銀の十字架でエクソシストごっこをしているとミーナが起きた。
「頭痛い~。死ぬ~」
僕は水をコップにいれ、ミーナに手渡す。
「わりいな。介抱してくれたのか」
「ミーナの働く武器屋にも行ったんだけど閉まっててね。僕たちの泊まってる宿に連れてきたんだ」
決して、泥酔したからお持ち帰りしたんではありませんよアピールをけん制で入れとく。
「私な。昔冒険者やってたんだ……」
そういうと、ポツリポツリとミーナは語り始めた。
ウェポンマスターの固有スキル。それは1種類の武器に特化することで、その武器の性能を最大限まで使いこなせるようになる強スキルだ。
幼くしてこのスキルが発現したミーナは、10歳にしてCランク冒険者のクエストを単騎で達成し、それはもう引っ張りだこになったそうだ。
パーティに加入することはなかったそうだが、誘われたらいくつかのパーティに臨時で加入し、クエストをこなしていたらしい。
とある町で、メデューサバジリスク討伐の依頼があったそうだ。
メデューサバジリスク。石化の魔眼を使ってくるバジリスクで、大蛇種の魔物の中では最上位クラスだ。
そんな依頼を受ける程の冒険者ならミーナは相当ハイレベルな冒険者だったのだろう。
当時、その街で何度かクエストを一緒にこなしたパーティに誘われミーナは依頼を受けることにしたらしい。
その依頼は3つのパーティ合同での討伐だった。所謂レイドだ。
その街でも最強クラスの3パーティだったので、楽勝ムードがあったらしい。
しかし……メデューサバジリスクは強かった。
パーティは2つ全滅、ミーナの参加したパーティも満身創痍で全滅も時間の問題だった
獲物の粉塵、魔物の好む匂いを発する粉で魔物の注意を引き付ける時に使う。
ミーナのパーティは魔物の粉塵をミーナにぶつけ、逃走してしまった。
1人取り残されるミーナ。死を覚悟でメデューサバジリスクと対峙する
……結論から言うとミーナは生き残った。
『聖獅子の神槍』。全ての攻撃に聖属性をプラスし、持ち主の代わりに1度だけ死から身代わりになる。身代わりが発動すると即座に砕け散ってしまう。
「石化の魔眼を受けた私を救ってくれたのは『聖獅子の神槍』だった。」
『聖獅子の神槍』は砕けなかった。身代わりとなり、最後までミーナと戦い、メデューサバジリスクを倒すと砕けたらしい。
その後ミーナは冒険者を辞め、故郷のこの町で鍛冶師になり、あの店の店長に弟子入りしたらしい。
「私はあいつを直してやりたい。誰も私を助けてくれなかったがあいつだけは最後まで私と戦ってくれた」
「だから私もあいつを助けてやりたくてな。それで鍛冶師になったんだ」
なるほど……
『聖獅子の神槍』は神器だ。アイテムや武器のランクは下から、コモン、アンコモン、レア、伝説、聖遺物、神器となっており、最上位だ。
直すには最高クラスの鍛冶スキルがいる……
話し終わると、ミーナは僕を見つめてくる。
あれ?なんか怒ってねえ…?
「おい、女が過去を語って落ち込んでるときに慰めんのが男だろ?このヘタレゾンビが」
そういうと、僕の首ねっこを掴み、ベッドに投げとばしマウントをとられる。
ヒイィ!殴らないで!ごめんなさいごめんなさい!!
「はじめんぞ」
へ?何を……?
や、やめ、イヤアアアアアアアアア!
その後、起きてきたリリアが「私のタナカになにするの!」と乱入し
リリアとミーナに蹂躙された。
僕は天国へ逝った……。