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獣人メイちゃん、ストーカーです!  作者: 小林晴幸
3.行商を開始する羊娘
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5.軽症羊マニアと重症ストーカー



 おかしい。


 こんな展開、聞いてない。

 心の準備はかけらも出来てない!


「え? でもメイちゃん、あの人たちを追跡したり観察したり、付きまとったりしたかったんだよね? それに拾ってほしいものがあったんでしょ。それがどこにあるのか、僕知らないし。ほーら、これが世にいう一石二鳥? ちょっと違うか。でも渡りに船ってやつでしょ。ほらほら間近で観察し放題だよ。嬉しい?」

 

 なんでこんなこと提案したの!

 目に非難の色を込めてウィリーを見上げたら、視線の意味に気付いたらしいウィリーが首を傾げる。

 不気味に察しが良すぎる。


 でもね、違うの。

 違うんだよ、ウィリー。

 メイちゃんの旅の目的を知ったウィリー的には、善かれと思ってのことだったのかもしれないけど。

 でもでもだけど、メイちゃんは物陰からこっそり忍んで見守りたい派。

 決して。そう、決して、ストーキング対象の視界に入ったり、見つかったりするポジションは取りたくない。ひっそり、こっそりが良いの。ストーキング対象の気をひきたくないのー!

 一緒にっ……い、一緒に行動するなんて!

 その距離感はメイちゃんのポリシーに反するんだよぅぅーーー!!

 めぇぇええええええ!!


 ……いや、うん。

 思いがけず接触しちゃうことは、これまでにもあったけどさ。

 あれはいわゆる、不可抗力だから。

 意図してやった訳じゃないから。うん。


 でもウィリーの作為で行動を共にするのは、やっぱり何か違うの。

 だからこんなに近くにいて、むねがそわそわうきうきわくわくしないことはないんだけど。


 なるべく近づきすぎないよう、リューク様達の意識に残らないように、注意しよう。


 そう、思ったのに。

 なのに。


 なんで今、私の隣にリューク様がいらっしゃるんだろうね?


 ストーカーにあるまじき距離!

 お巡りさんを呼ばれちゃう!

 毛皮の下で、冷や汗だっらだらだよぉ!?


 教えて、神様!

 私、リューク様の気を引くようなこと、なにかした???


 どうしてこうなったと頭を抱える時間すら与えてもらえないまま、村を出てから早一時間。

 その間、何故か私の超近距離……ぴったり隣にくっついて歩く人がいる。

 それも延々、周囲への警戒を阻害しない範囲で、(わたし)をガン見している人が。


 ――うん、なんでそんなに私のこと凝視してるの、リューク様。


 えっと、え? え……?

 なんだろう、この至近距離は。

 この平和でのんびりした空気の申し子たる白羊なメイちゃんの、一体どこにそんなガン見する程の見どころがあるっていうの……?

 なんなの。一体何を見出しているというの。

 もしや私の正体に……?

 ……いや! いやいやいやいや! まっさかそんなぁ!

 そんな………………うん、そんなはずないよネ。


 道なき森の中をぴょこぴょこ歩きつつ、内心で混乱する自分へ必死に言い聞かせる。

 せっかく。折角……!

 お隣なんていう近い場所にリューク様がいるのに!

 いや、(ちかく)にいることは不本意なんだけれども!

 でもでもそれでも、まじまじ眺めたって咎められない千載一遇のチャンスだよ!?

 だっていうのにリューク様が目を逸らすことなくガン見してくるせいで、むしろメイちゃんが目を逸らさずにはいられない雰囲気だよ!!

 お陰で平静を装いたくても装いきれず、私の頭ん中は冷や汗だらっだらだよ!

 なに!? なんでそんなメイちゃんのことまじまじ見てるの!?

 何か不審な点でもあった!? 我ながら不審な点(※ストーカー)しかないけどね!?


「あの、なんでリュークさんさっきから目が羊さんに釘付けなんですか……?」


 足取りしっかり森の中を歩きながらも、内心は混乱のるつぼ。

 そんな状態だったところ、今の私と全く同じ疑問をサラス君が口にした。

 そして疑問にお答えしたのは、何故かアッシュ君だった。


「あー……リューク、羊好きだもんな。旅暮らしだから荷物にならない範囲でだけど、前からなんか羊グッズとか集めてっし」

「リュークさん、羊さんが好きなんですか? ちょっと、意外です」

「可愛いもの好き、って感じでもねぇっぽいのにな。でもなんか小間物屋とかで羊のデザインのヤツとか、ちょこちょこ見かける度に何かしら買ってるよな」

「……見かける度に、って訳じゃない。それにいうほど頻繁じゃないし、必要なモノしか買ってない」

「確かに必要なもんだけど、羊の絵とかついてたらまずそっちを選ぶだろ」


 頭上で飛び交う、そんな話を聞きつつ。

 メイちゃんはちょっと目を見張っちゃいましたよ!?

 え、リューク様、羊さん好きなの!?

 なにそれ、ちょっとかわいい……


「前に王都の、なんだっけ、あの……変な魔物と戦ったとこ。あのバカでかい、やべぇ鐘があったとこ。あそこでなんか目を逸らした隙に、リュークが一瞬で羊グッズまみれになってたことあんじゃん」

「ああ、あの羊感満載な安眠グッズ……」

「こいつ、ちゃっかり回収してたし」

「……っあそこに置いて行く訳にも、いかないだろう?」

「いや落とし主探せよ……って、落とし物っていうのもなんか違うよな。ホント、誰なんだリュークにアレ巻いてったヤツ」


「ぶ、ぶめぇ!?」


 え、なにいまの情報。

 メイちゃんがお倒れになったリューク様にセットしたクッションやらブランケットやら……メイちゃん愛用のお昼寝グッズ。

 それをリューク様が……え? 今も使われてる?

 なにそれめっちゃ恥ずかしい。


「人聞きの悪いことを言わないでくれ。まるで俺が着服したような……ちゃんと、然るべきところに届けたからな?」

「……あ? けどお前、あの羊柄のブランケット持ってなかったか?」

「王都で、同じブランケットを探しただけだ。……ブランケットに刺繍されていたロゴマーク、王都にもあるショップのものだったからな」

「わざわざ探してきたのかよ」


 ……よーし! 王都のロキシーちゃんに『然るべきところ』とやらに届けられたらしいお昼寝グッズの回収を手紙でお願いするぞー!

 なんだかんだでリューク様とおそろいだー……。


 なんだか色々、精神的に限界が近くなってきた気がする。

 ほんとうにどうして、こうなっているの。

 めぇめぇ内心で泣きながら、それでも目がちらちらリューク様を追ってしまう(ストーカー)の業の深さよ……。

 

「しっかしリュークの羊好きはともかく……こんな羊が道案内ってなんなんだろうな。どんな冗談だよ」

「おや? 不満ですか、アッシュ君。しかし大人しく道案内に従っているじゃないですか」

「だってそれが依頼だし。契約には従うけどよ。けど、マスコットの羊がご案内ってやっぱどう考えてもなんかおかしいだろ」

「冷静に聞くと字面が一気にメルヘンに傾きますね。今のところ、羊さんの足取りに無軌道な感じはしませんし……見ている限り、しっかりとした目的をもって歩いているようですが」

「そこがそもそもおかしいっての。なあ、ラムセス師匠もそう思わねえの」

「確かに、ただの羊が案内役などありえない話だ」


 じっと、私を後方から見据えるラムセス師匠の眼差しを感じた。

 鋭く、観察するような視線だ。

 ひぇっ肝が冷えそう。


「……そもそも服を着ている時点で、獣人を疑うのが普通では?」

「っ!」


 ま、マスコットキャラだからの一点で貫き通した主張を……一蹴するのやめてぇ!!

 怪訝そうに「獣人の方ですか?」って尋ねるスタインさんに、頑なに仮面のような微笑でウィリーが延々「当商会のマスコットです。羊のめーちゃんです。マスコットに中の人など存在しないのです」で押し通したのに!

 ようは「正体は詮索無用!」ってことなんだよぅ!?


 マズイ。

 ここで正体を疑われたら、本格的に今後のストーカー活動に差し障る!


 私は毛皮の下で冷や汗をだっらだら流しながら、さりげなく羊アピールに満ちた仕草でたったかたったか森の中を跳ねまわる。


 め、めーぃちゃんはっひ・つ・じー! ひ・つ・じー! ひ・つ・じぃー!

 めぇめぇひ・つ・じー……あれ、あの曲ってどんな歌詞だったっけ?

 前世の記憶って『ゲーム』のこと以外はいまいち曖昧なんだもんなー……たしか、誰かが歌ってたはずなんだけど………………めーぃちゃんは、ひ・つ・じー……お・い・し・い・なー????

 ……って食われちゃ駄目だよ!?

 

 自分で自分にツッコミを入れちゃうくらいに、動転していて。

 この窮地を切り抜ける為に、今ばかりは心底何か起こってくれないものかと天に願った。

 何かってナニって? それはアレだよ、ハプニングってヤツだよ。

 今ばっかりは、ほんと、今ばっかりは……! 

 誰かの頭上に、金ダライでも振ってこないかなぁ!!


 そんなことを考えていたら、金盥の代わりにナマケモノが降ってきた。


 背中に3本ばかり角を生やして、50㎝くらいの鋭い鉤爪を持った、6本足のナマケモノが。

 うん、こんなナマケモノ自然界にいないって。


「魔物だ!」


 空から降ってきたのはハプニングではなく、魔物の襲撃だった。

 あれでもおっかしいなぁ……このエリアに、こんな魔物いたっけ?

 少なくとも『ゲーム』では見たことのない魔物の姿。

 でもいまのコレは、『現実』だし。

 『ゲーム』じゃ登場しなかった敵が出てくることもあるかと、ひとつ納得。

 うんと頷いて、メイちゃんは。


「めぇぇぇええええええええ!!」


「え、なに!? いきなり羊が猛り始めた!?」

「いけない……戦闘の空気に興奮して!?」

 

 走り始めたメイちゃんに、驚いた顔で引き留めようとするスタインさんやアッシュ君なんて何のその!

 とりあえず樹上から降ってきた第二、第三の魔物(ナマケモノ)を尻目に、保護色を利用して背後からエステラちゃんに忍び寄ろうとしていた、第四の魔物……サイズ1m超の巨大な『カメレオン』に助走をつけてアタックかましといたよ!


「なっ……そっちにも新手だと!?」


 なんかクレイグさんの慌てた声が聞こえた気がするけど、今は気にしている場合じゃない。

 カメレオンのくせに接近戦張ろうなんて無謀なんだよ!

 何悠長に距離詰めてるの、このカメレオン!

 両の前足を揃えて、私は飛び掛かる。

 じゃーんぷ!


「ひ、羊さんがとんだぁぁあああああ!!」

「ジャンプ力すげぇぇええええええ!」


 豪快に、メイちゃんの蹄がカメレオンの額にめり込んだ。


 樹上から襲来するナマケモノたちの相手は、皆さんにお任せした!

 メイちゃんは、この無謀なカメレオンを取り合えず屠る! 踏み潰す!

 がすがす、がすがすとありったけの力と体重を込めて、カメレオンの柔らかい体を固い蹄でスタンピングしまくった。

 エステラちゃんはなぁ、後衛だし防御力が比較的紙なんだぞぉ!

 そんなエステラちゃんの背後を狙うなんて姑息! 姑息なカメレオンめ!

 その体、メイちゃんの蹄模様に染め上げてやるー……!





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