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獣人メイちゃん、ストーカーです!  作者: 小林晴幸
3.行商を開始する羊娘
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4.アメジスト・セージ商会急造マスコット『ひつじのめーちゃん』



 『再生の使徒』ご一行様を、ひとしきり羞恥に悶えさせた後。

 販売を差し止められないのかっていうアッシュ君やサラス君といった顔を真っ赤にした子達の抗議を飄々と言い包めて、易々いなすウィリーの口八丁ぶりは流石だったよ……。

 ちなみにリューク様は言葉も出ない様子で顔を覆ってしゃがみこんでいた。うん、ごめん。

 だけどなんか、ラムセス師匠とスタインさんだけは何となくまんざらでもなさそうな……。

 いきなり心構えもないところにウィリーの投下したネタに、悲喜交々って感じのご一行。

 うん、傍目に中々なカオスだったよ……。

 その様子は、なんというか。

 完璧に、ウィリーに主導権を握られていた。


 そして純情(?)なリューク様達の心を搔き乱してペース握りまくったウィリーが、頃合いと言わんばかりに更なる話題を投下した。


「ところで『再生の使徒』様がた、ちょっとバイトしません?」

「はっ?」

 

 驚いた様子で、リューク様が顔をあげる。

 いきなり何を言いだすのかと、唖然とした顔で。

 話題が急に方向転換して、頭が追い付いていないみたい。

 そこに畳みかけろ! とばかり、ウィリーが鉄壁の笑顔でさらっと言葉を紡ぐ。


「うちの商会からの正式な依頼だと考えてもらって結構ですよ。依頼料もきっちり払いますし、契約書だって書くよ! 内容は簡単なお使い……っていうか、こちらの提示する情報を元にとある物を拾ってきてほしいんだよね」

「なん、なんだ『とある物』って……そこを曖昧にぼかされて、頷けるとでも?」

「いやぁ詳しい説明は今からしますけど、ね? 僕の方でも詳しく把握してる訳じゃないんで、それがどんなモノとは言明できないんですよ」

「おい、なんか胡散臭いな。大丈夫かよ!」

「そこは、それ。僕も商会の名前を出しての依頼ですし、怪しい話って訳じゃありませんから信頼していただきたいですねー」

「……詳細は?」

「なに、簡単です。


――『流れ星の欠片』、それを拾ってきてほしいんです」


 ぴくんっと。

 ウィリーの話の持っていき様が全然わからなくって、さっきから話を聞く一方だった私。

 だけどここで、思わず顔をあげずにいられなかった。

 それってもしかしてウィリー?

 さっき、メイちゃんが相談したアレなのかな……?

 え? さっき『金の力』でどうにかするって言ってたけど……もしかしてお金を払って『依頼』って形でリューク様達に拾いに行かせようってこと!?


 思いもよらない発想だった。

 というか、全然予想してなかった流れに、メイちゃんポカーンってしちゃったんだけど。

 話のもっていき方に、リューク様達も怪訝なお顔しちゃってるよ!

 そりゃいきなり『流れ星』とか言われてもワケわかんないよね……。


「流れ星って……そんなに手に入れようがないだろ。流石に空を走る星を捕まえるなんて、リュークにだっても無理だって」

「いや、待った。アッシュ、この人は『拾ってきて』って言った」


 『流れ星』って言葉に、即座に無理だと判断したアッシュ君。

 無茶ぶりしてきたウィリーに咎めるような目を向けていたけれど、そこに割って入ったのはリューク様だった。

 って、お、おおう! リューク様が喋った!

 わ、わぁあ今日初めてお声聞いた気がする!!

 改めて聞いて思うけど、やっぱり、なんていうかその、すごく。

 すっごく、良いお声、だ……!

 そのお声を聴く時って、非常時や予想外のタイミングばっかりだったから噛みしめる余裕なんてなかったけど……改めて、こうして聞くと、本当に『前世のゲーム』そのまんまのお声……っ!

 他のスタインさんとかサラス君とか、印象は似てるけど、『ゲーム』と同じ声と断言するにはちょっと自信がない。でもリューク様のお声だけは何の躊躇いも不安もなく『全く同じ!』って断言できるんだから……余程、『ゲームのリューク様』のお声が記憶に焼き付いてたんだろうなぁ。

 こうして落ち着いて聞くと、本当に聞き入っちゃう……。

 リューク様はお声にうっとり聞き惚れる羊がこんなところに隠れてるなんて、思いもしないんだろうなぁ。

 ウィリーを相手に、発言の真意を測ろうと言葉を重ねる。

 

「流れ星というのは……もしかして、『隕石』のこと、か?」

「隕石? 隕石ってなんだっけ……あ、前にリュークの先生が言ってた……地面に落っこちた、お星さまのかけら?」

「お? リュークもエステラも、インセキってなんだよ」

「アッシュは知らないか……時折、空の星が地に落ちることがある。それを隕石というんだ。トーラス先生が教えてくれた」

「ほ、星って落っこちるのか!? 全部!? お空から落っこちてくるってのか!?」

「安心しろ。そうそう簡単には落ちてこないから」

「アッシュ……お空のお星さまが全部落っこちちゃうんなら、もっと早く落っこちてるんじゃないかな」


 め、めえ! うわぁうわぁうわあ!! すごい、すごいすごい完全にプライベートな会話だ! すっごく幼馴染っぽい会話してる! リューク様とエステラちゃんとアッシュ君が!

 めえめえ目を輝かせながら、思わずじっくり見つめちゃうよ!

 うきうきわくわく胸を弾ませながら凝視している目の前で、彼らの会話は進んでいく。


「でも隕石を拾ってくる、というのは難しくありませんか。いつ、どこで落ちてくるとも知れぬものです。それともアメジスト・セージ商会の方々は何か情報を握っていらっしゃると?」

「そーですねぇ、こう言えばわかりやすいかな。あの『王都が魔物に襲われた日』、空の低い所を一直線に突っ切っていく『流れ星』がこの村近辺で目撃された、って言えばね」

「「「!!」」」

 

 含みのあるウィリーの言葉に、主人公御一行様がハッと息を呑む。

 きっと、意味深な言葉の差す意味が分かったんだと思う。

 そう、王都が魔物に襲撃された時。

 空を一直線に突っ切る『流れ星一号(ラヴェントゥーラさん)』が此処で目撃されたんだって。

 そんなことウィリーの知ったこっちゃないだろうし、そもそも今日この村に着いたばっかりで露店の準備だ出店許可だと店開きに勤しんでいたウィリーが中ボスの目撃情報なんて入手してるはずはない、んだけど。

 さっきメイちゃんからの相談内容を、さも事前に情報を握っていましたよ、みたいな顔で平然とぺらっぺら利用して畳みかける!

 さすがはウィリー君! 面の皮の厚さと胆力には目を見張るものがある!


「さっき、あなた方を支援するって言ったでしょう。それには情報面での支援も含まれます。僕らは行商人、情報には強いんですよ」

「つまり、我々に有益な情報を集めて下さる、と……?」

「これもサービスの一環ということで。まあ、もちろん完全にただとは言いませんけど」

「見返りに何を……?」

「なぁに、簡単だよ。こっちが提供する情報の中には、僕らにとっても良い情報があるかもしれない。そんな時に、ちょっとばかり協力してもらえたら大助かり! そんな感じ」

「協力……? 何を、協力してほしいんだ」

「はは。とりあえず、協力第一号はさっき言った奴かな。『流れ星』を拾ってきてほしい、てね。つまりはあの空を突っ切ってった王都襲撃事件の重要参考に……の、落っことしていったっぽい遺留品を回収してきてほしいってこと。探しに行ってもらう代わりに依頼料を払うし、拾ってきてもらったブツが商会にとって興味深い物だったら買いとらせてもらいたいし。ああ、もちろん、見つかった遺留品が『再生の使徒』様達にとって意味のある物だったら控えますよ。何しろ僕らの商会は、滅多にないボスのお願いで『再生の使徒』様贔屓なんだからね! 便宜も図るし融通も利かせるのでご心配なく!」

「いや、むしろそこまで好待遇受けると逆に心配になってくるんだが……商人相手に借りを作りすぎると、後が怖いし……」

「でしたら僕らにとって一番諸手を挙げて万々歳な見返りを求めちゃいましょう。ほら、そうすれば貸し借りなし、互いに幸せラブ&ピース」

「え、なんか胡散臭いこと言いだしたんだけど、この商人!」

「なになに簡単、そう、とっても簡単なことデスよー! 新しいお仲間が増える度、何かの節目節目の折、『再生の使徒』様たちのカード作って売って、良いですか?」


 何しろそれが、当商会の一番の利益なので!

 最大の売れ筋商品に関わる契約なんで、それを確約してもらえるなら支援も最大限をお約束!

 そう言って微笑むウィリーの顔は、何年も友達を続けているメイちゃんの目から見ても超絶胡散臭い物でした。めえ。


 


 でも。でもでも。

 なんで、こうなった。


 あの後。

 超胡散臭いウィリーの顔に、アッシュ君を筆頭にした青少年の皆々様がめっちゃ腰の引けてる状態で、交渉が進み。

 結局は『再生の使徒』様ご一行でラヴェントゥーラさんの遺留品を拾いにってもらうことになったんだけど。

 当然だけど、探しに行くにしても当てなく彷徨う訳にはいかない。

 依頼を出した側の当然の義務として、ある程度の場所を特定……までは行かなくても、当たりくらいはつけて探索範囲を指定しなくっちゃいけないんだけど。


 メイちゃんから話を聞いただけのウィリーは、当然ながら探索範囲の指定なんて不可能だった。


 でも、場所の特定ができない代わりに。

 ……頼んでおきながら場所がわからないなんて怪しさしかない状況を回避する為、だったんだろうけれど。

 ウィリーは地図を最初から脇に避けて、『案内係』をつけると(のたま)った。


 何故か、カウンターの陰に隠れていた、メイちゃんの両脇に手を差し入れて持ち上げながら。


 そうしてウィリー君は、私を露店のカウンターに乗せた。

 思わずメイちゃん、「えっ!?」ってなったよ。声には出さなかったけど!

 リューク様達が目の前にいたから、全力で驚きの声が出そうになるのを我慢したんだけど!

 だけどこの時、私は何となく悟っていた。

 ウィリーに売られた、という単語が頭の中で踊っていたから。

 いや、まあ、『売られた』っていうとちょっと正しくないんだけど。


 要はウィリーのヤツ、自分が場所を知らないから場所を知っていそうな別の誰か……つまりは私、メイちゃんを目的地までの案内役ってことにしたんだよ!

 メイちゃん、いまめっちゃ羊なのに! ただの羊さんのふりしてたのに!!


 怒涛の如く内心で嵐が吹き荒れ、思いっきり困惑と混乱でいっぱいな私のことなんて、知らない顔で。

 ウィリーはしれっとした顔で、言い切った。


「当商会のイメージマスコットキャラ、『羊のめーちゃん』!! 目的地までは、この子がご案内するよ!

!」


 ちなみにアメジスト・セージ商会に、『マスコットキャラ』は存在しない。

 

 マスコットだけでも、作ろうかって今度ロキシーちゃんに提案してみようかな。

 ぼんやりそんなことを考えつつ、私は遠くへ視線を逸らすしかなかった。

 それが現実逃避だなんてこと、ちゃんとわかってるよぅ。めえ。




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