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獣人メイちゃん、ストーカーです!  作者: 小林晴幸
3.行商を開始する羊娘
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1.テスターという名の実験台



 王都を旅立ってから、なんやかやと予定にないアレコレもあったけど。

 主に、幼馴染との意味不明な理由での決別とかあったけど!

 ……なんであの2人、あんなにリューク様の顔面に取り返しのつかない落書きすることに固執してたんだろ。メイちゃん、わかんない。

 まあ、2人の考えることは、あの2人にしかわからないよね!

 わからないことは考えるだけ無駄だし、脇に置いておこう!

 それより何よりさておいて、私はいま、現在!

 とってもテンション上がる現場に来ておりまっす!

 どこだと思う? ねね、どこだと思う?

 えへへ……なんと、なんとね?


 『ゲーム』でリューク様達が王都を旅立ってから初めて訪れる村……つまりはメインシナリオに沿ったイベントが発生する第二ポイントに来ている訳です!

 やったねメイちゃん、メインイベントに遭遇までもう秒読みだよ!


 あ、ちなみに王都が第一ポイントだよっ?

 火竜将さんはメインシナリオじゃなくってサブシナリオ案件だからね!


 例によって例の如く、リューク様達よりも早々と旅籠を立って道を急ぎ、先回りに成功した私()

 ……そう、『私達』。

 うん。つまり、私単独じゃない訳だけど。


「ところでなんで3人も私と一緒に来てるの?」

「今更っ!?」

「いや、今まではちょっとリューク様達の先回りすることしか考えてなかったっていうか……道を急ぐの優先して、ちょっと疑問は後回しにしてたから」

「僕らの行商用馬車使い倒しておいて、そんなこと言うんだ? 流石だね、メイちゃん」


 うん、なんで「さすがメイちゃん」って頷いてるの。ルイ君。

 アドルフ君も唖然とした顔で私を凝視するのやめようよ。

 ウィリーはなんかお腹抱えて笑ってるし。

 なんかその反応、メイちゃんがとんでもないこと言いだしたみたいだよ。


 ……つまり、そういうことで。

 私は先日、リューク様達のお部屋に乱入した『落書き阻止事件』以来、何故かウィリー達3人と行動を共にしていた。

 いや、行動を共にっていうか、何故か3人が私について来ているだけなんだけど。

 どこに行って何をするのも、メイちゃん次第っていわれたし。


「だからさ、僕らってロキシーにメイちゃんのサポート命じられた訳じゃないか。だったら僕らの舵取りもメイちゃん次第だよね。ただただメイちゃんのやりたいまま、その手助けをするだけだよ」

「わーお、メイちゃんロキシーちゃんに愛されてるー」

「その方が自由な発想が爆発暴走起こして新たな商機や商売アイデア発生する可能性が否めないって言ってたし。そうなった時、発生したアイデアやら機会やらを取りこぼさず回収する係が必要でしょ?」

「愛ではなく打算による放流だったかー」

「僕らはメイちゃんを助けつつ、商売チャンスが発生した際にはすかさずソレを拾い上げて広げるのが隠された本当の任務ってワケ」

「ウィリーは元々そうだったけど……ルイ君まで、立派な商売人になっちゃって」

「僕は純粋な商売人っていうよりも、根回しとか色々……販路を広げる予定地に赴いての現地調査とかさせられてるけどね。あ、でもこういうのも商売の一環……?」

「俺は単純に護衛役メインの肉体労働者だから商人って訳じゃないぜ。メイちゃん」

「つまり現在、私は商人、調査員、護衛と行動を共にしている訳なんだね……?」


 わー……販路広がりそーう。

 ロキシーちゃんには出立時、ついでに行商して来いって言われてたけど。

 これは……マジで行商がはかどりそうだねぇ。

 というか、同乗させてもらったウィリーの馬車、本気の行商用だし。

 たくさんごちゃごちゃ色々と、うちの商会の商品が積み込まれてるもん。


「……あれ? これって」


 馬車の中に積み込まれたアレコレを、改めて見回していたら。

 ふと目に入ったのは、錠剤がぎっしり詰まった大きめのガラス瓶。

 600mlくらい入りそうな瓶には、それぞれに色が違う錠剤が入っている。

 サプリメントかな……? 一瞬、そう思った。

 赤と青、ピンクと紫。その錠剤の形は、何故かデフォルメされた動物の形。

 赤い錠剤はうさぎさん、青い錠剤は狼さん。ピンクは羊で、紫はにゃんこ。

 あ、薬嫌いなお子さんにも喜ばれそう。

 実家の妹も、お薬苦手って涙目になってたけど、こういうのなら楽しく服用できるんじゃないかな!


 ……ん? 瓶のラベル、回復薬改(サンプル)って……?


「ウィリー、これって」

「あ、見つかちゃったね。後で驚かせようと思ってたのに」

「いや、驚きはともかくこれって」

「前々から提案してたじゃん、メイちゃんだって。……うちの売れ筋商品の回復薬、液体だから連続使用が厳しいって。水っ腹になるから」

「言ってたね! 言ってたけどね! ちょっと改良早すぎない???」

 

 あっれー……? 私の記憶だと、メイちゃんがそれ言ったの二か月前くらいだったと思うんだけど。

 お薬ってそんな早く液状から固形に進化遂げちゃうもの?


「前々から実はそういう意見あったんだよね。薬をよく使う戦闘職のリピーターとか、商会内の護衛とかから。戦闘中の連続使用が厳しいってさ」

「アドルフなんかは切実だよね。体感してるし」

「俺だって嫌だし。液体がぶ飲みして命を懸けた激しい戦闘とか、腹痛起こすわ! 絶対、途中で吐くぜ! 護衛がメインって言っても、俺だって厳しい戦闘が無い訳じゃないんだぜ。地方じゃ荷を狙った山賊とか出てくるし。そん時、一定量を呑まないと効果がないなんて言われて戦闘中に液体をずずいっと差し出される、あの恐ろしさ……もう絶対嫌だって思ったね」

「お、おおう……メイちゃん、あんまり怪我しないもんねぇ。回復薬(液)もあんまり使ったこと無くって、問題点に気付いたの数か月前なんだよね。ごめんね、アドルフ君。もっと早く気付いて提案すれば良かったね」

「まあ、そんな感じで現場の苦しい意見を吸い上げて、こうして改良版が生まれたってこと。錠剤タイプなら水っ腹にはなんないでしょ」

「……喉に詰まらせる危険はあるけどね! 何しろ現場じゃ、激しく動き回りながらの摂取だから」

「駄目じゃん! 駄目じゃん、それ!」

「どんな薬にも一長一短あるものなんだよ、メイちゃん! そこはもう、現場で調整してもらうしかないね。誰かと組んで戦って、薬を飲む一瞬だけ相方に時間を稼いでもらうとか、さ。錠剤なら呑むのはまさに一瞬で済むし」

「まだこれサンプルだし、当面はテスターに回す予定だしね。そこでまた改良案が出たら対応するとして、正式に販売が決まっても当面は液体タイプと錠剤タイプ、並べて売る予定だし。そこはもう、消費者側の好みに合わせて買ってね☆ってことで」

「へえ、テスター? ……うん、もちろんテストは必要だろうけど。それがなんで此処に?」

「えへっ☆」


 ウィリーが、なんか可愛らしく笑った。

 なんでだろうね、すごく、胡散臭い。明らかに作り笑顔だし!


「話題の『再生の使徒』様ご一行にテスターしてもらおうと思って」

「ウィリーっ!?」


 付き合いの長い商売人の言いだした、とんでもない発言に。

 メイちゃんは思わず悲鳴みたいな声出しちゃったよ!


「め、め、めぇっ!? どういうつもりなの、ウィリー君!」

「いやいやほら、『再生の使徒』様なら激動の戦闘続きな毎日を送ることはほぼ確定だし、知名度バツグンだし。そこでご意見貰って改良したら、薬にも箔付くし?」

「ウィリー君、なんて打算的な!? って、まだテスト段階の薬をリューク様達に飲ませる気?! それで戦闘中に体調ぶっ壊れたらどうするの!」

「大丈夫、身体に悪いものは……うん、入ってない!」

「その間は一体!?」

「大丈夫、大丈夫だって! 開発部門のでっかい保証付き! 万が一何かあってもちょっと胃もたれしたみたいな気持ち悪さがやってくるだけだし」

「それ、戦闘中に起こったらヤバイよね!? 戦いはちょっとのことが命取りなんだよ!」

「そん時はメイちゃんがフォローしよう! ほら、リューク様達の後を追っかけ倒すつもりなんでしょ? ついでにピンチは助けちゃう気満々でしょ!?」

「目立つ形で、表立って接触する気はないってメイちゃん言ったよね!? 今みたいに先回りとかしてることもあるし、四六時中、背後をつけ回してる訳じゃないし!」

「大丈夫、本当に何かあるのは万が一。ほぼほぼ何も起きないハズだって開発部言ってたし」

「その開発部ってどこにあるの? ちょっとメイちゃん、〆てきた方が良い気がする」


 なんだか、色々と、聞き捨てならないことはあったけど。

 外部の人にテスター依頼する前段階で、最低限のテストは終わってるってことで。

 回復性能そのものには問題がないってアドルフ君も頷いてた。

 ……なんかウィリーとかルイ君とかは場合によっては必要な嘘もさらって吐きそうだし、いまいち言葉の信頼性っていうか重みっていうか、そういうところに不安が募る。

 その点、アドルフ君は嘘が苦手っていうか下手だもんね!

 こういう時、100の嘘を重ねられるよりもアドルフ君の裏表のない保証ひとつに信頼が置ける。

 

 何より、戦闘に役立つことは間違いないんだよ。

 錠剤タイプの回復薬。


 これもリューク様達の旅の一助。

 『ゲーム』に出てきた回復アイテム程の使い勝手は、ちょっと実現不可能だろうけど。

 現実をよりそれに近づけることが、きっとリューク様達の役に立つから。


 結局、私はウィリーのテスター依頼について了承した。

 意気揚々と、ウィリーは早速とばかりに馬車を飛び出す。

 なんでも村長さんのところに、露店を出す許可をもらいに行くんだとか。


「この村はショバ代なくても許可もらえるんだよね、確か」

「ああ。ここは王都に近すぎるからな。余計な金をとると行商人が王都に流れて立ち寄ってくれなくなる、絶妙な距離感だ」

「めー……ショバ代とかあるんだ。村長さんにも許可をもらいに行くんだねぇ。私、1人で行商!ってなってたらそれ思い至らなくって勝手に露店開いてたかも……」


 そういう意味でも、ウィリー達は私のサポートとしてつけられたのかな?

 行商初心者の私にはわからない、暗黙の了解を心得てるだろうから。

 これはリューク様達にばっかりかかりきりになってる訳にもいかないかも……お勉強しなきゃ、かなぁ。

 

 ちょっとだけ、しょんぼり肩が落ちる。

 ああ、もうすぐリューク様達が村に来るのに。

 テンション上げて、心の準備を整えないと……


 気分を変えよう、そう思ったら、うずっとした。

 リューク様達が村に到着するまで、推定あと3時間。

 まだまだ、十分に時間はあるよね?


 ここは、『ゲーム』にも出てきたメインシナリオに絡む村。

 あちこちじっくり、見て眺めたい気持ちは誤魔化せない。


「行商の準備って、何すればいいのかな」

「あ、ウィリーが許可貰ってくればそれで大体終わりかな。この馬車、幌の一部が開ける構造になってるのわかる? 馬車をそのまま屋台代わりに使えるようになってるんだ」

「えっとえっと、じゃあもしかして、時間ってあるのかな? 時間があるなら、ちょっとその辺、くるっと村一周、見て回りたいかなぁ~……なんて」

「大丈夫だよ」


 にこり、ルイ君が微笑む。

 にこやかに手を振って、「いってらっしゃい」とのお言葉までくれて。


 私は、うきうきした気分を抑えきれずに、馬車を飛び出した。

 許された時間は、3時間弱。

 村の見物に出発ー!






ちなみに薬の効能は、

うさぎさん:魔力(MP)回復

狼さん  :体力(HP)回復

にゃんこ :毒・麻痺回復

ひつじさん:一時的な弱い身体能力強化(ドーピング)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 毒麻痺回復がまさかの不穏さしかないにゃんこという
[一言] 待ってた!楽しく読ませてもらってます。
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