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獣人メイちゃん、ストーカーです!  作者: 小林晴幸
2.羊娘からの試練
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10.カットインに隠された事実



 夢の中で正座で円陣を組む、私達。

 内訳は私、セムレイヤ様、火竜将さん(小)。

 なにこの集まり。

 神様があらかた滅んだ世界なのに、ちょっとここだけ神様密度高くない?

 このちっこい火竜将さんを神様にカウントして良いものか、ちょっと悩むけど。

 うん、なんで火竜将さんがここにいるんだろうね?

 というか、(小)ってどういうこと、(小)って。

 哀れにも、まるで子供の喜ぶぬいぐるみみたいなサイズに変貌を遂げてしまった火竜将さん。

 お昼頃まではあんなに厳つくて大きいお姿だったのにね……。

 火竜将さんも自分の姿については思うところがあるのか、がっくりと項垂れている。

 とりあえずなんて声をかければいいのかわかんないから、セムレイヤ様に聞いてみよう!


「セムレイヤ様、火竜将さんに何が起きてこんなことに? 神様ってこんなに早く復活するものなの……?」

『そうですね……いつかは復活を遂げるにしても早すぎます。それに復活したとしても、こんな省エネみたいな姿には通常ならないのですが』

「あ、やっぱりこれ異常事態なんだね」

『考えられる事としては……最期に、イアルゲートがリュークに力を託したことに関係があるのでは、と。おそらく力と一緒に魂の欠片までリュークに渡してしまったのではないでしょうか。いわば、このイアルゲートはこの世に残された残滓……本体ではありませんが、彼の意識がリュークの中に残されてしまった形では』

「うん、それでなんでメイちゃんの夢の中に現れるのかなぁっ?」

 

 あれかな。

 私とリューク様の意識が、奥深いところで繋がってるってヤツなのかな。

 信仰対象と信者の絆っていう、今ひとつ実感しづらいのに、ここぞというところでリューク様に不都合が起きる影響ばっかり引き起こしてるアレなのかなぁ!?

 えっと、でも。

 普段、そんな繋がりが本当にあるのか忘れちゃうくらい、今まで意識できるようなことはなかったのに。

 困惑する私の前で、小型犬サイズの火竜将さんはぷるぷると震えている。

 微妙に潤んだ爬虫類の目で、何故か私をキッと睨み上げてきた。

 

『……若君に我が力が託された時』

「ん?」

『そなたが悪いわけではない。だが……我が力の【目録】を、最後にそなた手掴みしたであろう』

「……めう?」


 あれ?

 なんか嫌な予感。

 火竜将さんの物言いに、何故か冷や汗がたらっと一筋流れるのを感じる。


『そなたが直に接触した直後、そなたに力が渡る寸前に、【目録】は若君様に叩きつけられた。見方を変えれば、これはそなたを(・・・・)経由して(・・・・)力は若君様へと渡ったともいえる』


 あれ、これは、なんというか雲行きが……


『我からそなたへ、そなたから若君様へ。……力の渡る経路として、あの時、この三者の間にパスが繋がれてしまった。我は消滅したが、若君様とそなたの間に力の経路が残っている。どうやら前から存在したらしい、精神的な繋がりを補強する形で……な』

『ああ、やはりそんなことに……』

「いや、セムレイヤ様、納得しちゃうの!? そんなことになるなんてメイちゃん初耳なんですけれども!」

『だが実際、その経路を通る形で我が残滓たる精神体はここに』

「道があったからって不法侵入だよ火竜将さん! 入ってくる前に承諾取ろう!?」

『精神世界でか!? どうやって事前許可を取れというのだ! 無茶をいうな、無茶を。承諾を得る為に接触しておる時点で、既に侵入が完了しておるわ』

「そこはノックするとか」

『ノックできるような扉を設置してから言え、そういうことは』

『精神世界へ侵入される前提で扉を設置する、と……精神世界へ介入できる者など限られているでしょうに』


 といか今までの話の経緯からすると、この火竜将さんはリューク様の中にいるんだよね?

 それがなんでわざわざ、私の夢まで出張してきてるんだろう。

 ここに火竜将さんが来た、その理由がわからない。


「火竜将さんは、どうしてここに来たの?」

『……若君様の精神世界は、我の入り込める余地がなかったのでな。自由に動ける場を探しておったら、ここに繋がる道があったのだ。そなたの精神世界は、なんというか……異常に自由度が高かったのでな。我が小型化したとはいえ実体を伴って顕現できるほどに』

『メイファリナの夢は、色々と特別ですからね……幼い頃から、鍛えられていると言いましょうか』

『そう、それに、我が君の。我が主たるセムレイヤ様の気配があったので!』

「つまり、うろうろしていたら自由に動けそうな場所にセムレイヤ様の気配がしたので、セムレイヤ様に会いに来たんですね」


 私が確認を取るように尋ねると、開き直ったのか火竜将さんは正直に頷いた。

 何してるんだろう、この竜さんは。

 でも気になることがある。

 この火竜将さんは、リューク様に託された力に混じっちゃった残滓だっていう。

 だったら、じゃあ……『ゲーム』にそんな表現はなかったけど、どうだったんだろう?

 火竜将さんの欠片が残っちゃったのは私が介入しちゃったせいで起きたイレギュラー? それとも元から発生しうることだったのかな。

 首を傾げて、そんな素振りがあったかと思い出す。

 でも何かあったかなー……?

 思い出を辿って首を傾げる私に、セムレイヤ様が『お願い』をしてきた。


『メイファリナ、『ゲーム』の……リュークの必殺技で、上映してほしいものがあるのですが』

 

 前世で記憶に焼き付けた、『ゲーム』の光景を夢の中で上映するのはいつものこと。

 セムレイヤ様と一緒に、いつも上映会してたから。

 だけど今、この状況でリクエストされるなんて。

 セムレイヤ様には、何か思い当る節があったのかな?


『なっ……なんだ、この映像は!? 若君様か、これは!?』


 うん、今回は事前情報に乏しいお客さんがいるので、ちょっと騒がしいね。

 気にせず、セムレイヤ様に指定された『必殺技』を上映するんだけど。

 それはリューク様の強化イベント……すべての竜将さんから力を受け取った特典として習得する必殺技で。

 竜の力に由来するからか発動の瞬間に、竜将さん達のカットインが………………


「かっこいいね、竜将さん達のカットインー……」

『そうですねー……』


 その映像が、今となっては証明みたいなもの、なのか。

 私とセムレイヤ様は、今になって気付いた、みたいな心地で。

 つまりはアレだね?

 このカットインが、『リューク様に力を貸す竜将たちの魂』っていう表現だったんだね?

 今になって知った事実に、私は細く長い溜息を吐いた。

 初めて知ったよ、その解釈。

 今までただの演出だと思って、そこまでカットインを気にしていなかったのに。

 そっか、これ、実はそんな意味が隠されていたんだねー……。

 遠い目で上映されるリューク様の雄姿を見守る、私とセムレイヤ様。

 突如始まった上映会を前に、混乱して色々質問してくる火竜将さん。

 セムレイヤ様の時は、ある程度の期間私の夢を覗き見てくれちゃってたから深い説明なしに察してくれたんだけど……改めて事前知識のない火竜将さんに、いったい何と説明したものか。

 ちょっと面倒だな、と思ったのは内緒。

 だって説明しても、理解してもらうのは大変そうだったんだもん。


 私の中にある詳細な『ゲーム』の映像を次々強制的にご覧いただくことで、最終的には納得いただいたんだけど。


 そして、その中で流した光景の一部、『ゲーム』での火竜将さんイベントをお見せした結果、今日起きた情景と変更点が多すぎないかって盛大な講義をいただく羽目になった。

 メイちゃん、大変遺憾です。

 あれは……今日のお昼と『ゲーム』でのイベントが乖離しまくってるのは、火竜将さんにも責任があると思うの。メイちゃん1人だけが責められるのは納得いかない。


『ううむ……しかし、確かに我にも責任の一端があるやもしれぬが。ああ、そうだ! そなた、若君様を昏倒させておっただろう!?』

「人聞き悪いよ火竜将さん! 昏倒までは行ってない! 昏倒までは行ってないよ! 倒しはしちゃったけれども!」

『我はそのことについて物申したいと思っておったのだ! だが……そなたから今までの経緯を聞くに、そなた初犯ではなかろう?』

「ぎく……っ」

 

 何故かものすごく、火竜将さんに責められている!

 でもこの点については、言い訳できない!

 リューク様に物事の流れに身を任せた結果、何故か暴力的な行為に及んでしまう。

 そんな残念な結果に終わってしまった、という事態には仰る通り心当たりがあったので。

 直近だとアレだよね。

 昼間のリューク様に【贈答品目録】を叩きつけたアレもそうだけど。

 ……王都での、夜会の一件。

 『アメジスト・セージ』として参加した時、リューク様に遭遇して倒しちゃったアレ。

 アレを例に挙げられると、全く持って反論しづらい。

 思わず目を泳がせる私に、火竜将さんのじとっとした視線が突き刺さる!


『そなた……若君様は、神だとわかっている様子なのに』

『ふふふふふ……っ メイファリナは元気な子ですからね』

『笑い事ではありませぬぞ、セムレイヤ様。若君様はまだお若く、お生まれになったばかり……未だ世界に、存在の在り様を刻み込まれている中途でしょうに』

「……うん? 今なんか、ちょっと意味の分からない言葉があったような?」


 一体どういうことか、と。

 意味を尋ねてみたらば、どうしてだろう。


 セムレイヤ様に、目を逸らされた。


 私の知る範囲で最も寛容なセムレイヤ様に目を逸らされるとか、余程のことだよ!?

 これは……!? って慄く私に、心底疲れ果てたような声で火竜将さんが教えてくれた。

 曰く、リューク様は神様だから。

 そう、人間やその他の地上に蠢く、下界の雑多な生き物とは文字通り『別次元の存在(イキモノ)』だから。

 この『世界』との関わりも、地上のイキモノよりずっと密接に関わるのだと。

 その存在の法則性やら、何やら、私にはちょっとわからない感じのアレコレがダイレクトに世界と影響し合う、らしい。

 でもお生まれになったばかりだから、今はリューク様っていう存在の在り様が世界に刻まれているところ、なんだって。

 火竜将さんの言い回しがくどくて、よくわからなかったんだけど。

 理解に困っていた私を見かねてか、セムレイヤ様がわかりやすいよう比喩も交えて噛み砕いた説明をしてくれたよ!


 この世界が『世界』っていう製品カタログだとして。

 地上の生き物たちは『製品』以前の『部品』単位の小さな存在扱いだから型番すらカタログには記載されないけど、リューク様は業界最先端の最新商品扱いで、いまカタログの最新版に製品の『仕様情報』を記載するための準備中、みたいな感じらしい。

 うん、とってもわかりやすい!

 わかりやすいけど、神様としてその例えってどうなんだろう!

 なんで自分たちの存在、家電か車かみたいな例え方しちゃうんだろう……たいへん、わかりやすかったけれども!


「それで、その製品カタログにリューク様の仕様情報が記載されているところだとして、そこに私絡みのどんな問題が……? 製品以前の『部品扱い』レベルで存在がちっさなメイちゃんに、カタログの仕様情報とか関わりない気がするんだけれども」

『本来はな。本来、は・な!』

「どうしよう……火竜将さんから妙に念押しされた」

『世界に1度刻まれた『神の在り様』は、訂正ができん。自身にとって不利益な情報を世界にそう(・・)と認識され、刻まれれば撤回不可となってしまう……だというのに、そなたは!』

「えっ しかも今度はなんか盛大に嘆かれ始めた!? え、ちょ、これどういう状況!?」

 

 助けて、解説のセムレイヤさまー!

 状況の説明を求めてセムレイヤ様を見ると、私からは微妙に目を逸らしながら、教えてくれた。

 妙に間を含んだ、躊躇いがちな話し方で。


『その……1度や2度、のことなら問題ないのでしょうが……ええと、毎回、というのも問題ですけれど………………行動と結果に、一定の法則性が発生すると、ですね? 存在がそういうもの、と世界に刻まれてしまう危険性が大変……高く、ありまして』

「お願い。ずぱっとハッキリ言ってください、セムレイヤ様! 死刑宣告は困るけれども!」

『……メイファリナ、私は不可抗力だとわかっていますよ。わかっていますが、その……リューク、を、メイファリナは既に複数回、物理的に倒していますよね? 暴力の結果として』

「うっ いまなんか、心に乙女として致命傷に近い衝撃が。既にやらかした後だから遅いけれども!」

『今のところ、メイファリナの全勝(・・)ですよね。リュークからの反撃、からの敗北は1度もないでしょう? 何度も手合わせに近い状況となり、その度にメイファリナが勝利するか逃亡に成功するか……いずれにしろ、毎回リュークの負け、という状況が発生した』

「そっそんなに言うほど戦ってないもん! 戦ってないもん!! 今のところは!」

『……これからも同じことが続くようであれば、世界に『そういうもの』と認識されてリュークの仕様に『そういうもの』と法則が刻み込まれる恐れがある、とイアルゲートは案じているのです』

「………………参考までに聞くけど、その『そういうもの』って、詳細は……」

『同じことが続くようであれば、世界に刻まれた仕様として『リュークはメイファリナに勝てない』あるいは『メイファリナはリュークが相手であれば無敗』、もしくは『リュークはメイファリナ限定で弱い』などの法則が刻み込まれる可能性があります。そう、世界の法則として』

「めぇええっ!?」

 

 え、ちょっと待って?

 それ、どういうこと!?

 セムレイヤ様のお言葉はたいへんわかりやすい。

 わかりやすいけど……理解したくなさすぎて、メイちゃんの頭がちょっとパンクしそうになった。


 世界の法則としてメイちゃんが世界の救世主様より強くなる可能性とかなんとか……めうぅ。

 セムレイヤ様の言い様だと私とリューク様の間限定で、って事みたいだけど。

 そんな法則刻まれちゃって、この世界って大丈夫なの……!?

 世界とリューク様の未来が、おおいに心配になった。

 




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