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獣人メイちゃん、ストーカーです!  作者: 小林晴幸
2.羊娘からの試練
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幕間:それはまるで運命的な

 王都の襲撃に対する人々の衝撃も落ち着き、復興が始まる頃。

 世界は、新しい年を迎えた。


 本来であれば、『ゲーム』が始まるのは新年になってからだった。

 だがそのことを、当事者達が知ることはない。

 世界の災禍が確かに始まってしまったことを感じ取り、人々は不安と恐怖を抱えて暗い顔をしていた。

 そんな中でも、確かに希望はあるのだと。

 王家は『再生の使徒』が現れたこと、そして世界の異変の原因を調べて解決に当たることを大々的に公表した。

 王城のバルコニーから眼下に集う臣民へと直々に王が言葉を伝える。

 その隣に、しかし『再生の使徒』はいない。

 人々は現れたというのは口先だけではないかと、本当は見つかってなどいないんじゃないかと囁き合った。

 世界を再生に導くことは一刻を争う急務。

 だからこそ『再生の使徒』は既に旅立ったのだと国王は言う。

 内心で大なり小なり疑いを募らせながら、希望に縋るしかない国民達は王の言葉を信じようと自分に言い聞かせるのだった。


 『再生の使徒(リュークさま)』は、確かにいる。

 彼とその仲間達は、他ならぬ国王の命で旅立っていたのだが。



 本来の『シナリオ』では、国王が『再生の使徒』が見つかったと公表する場に同席している筈だった。

 些細なものが多いが、徐々に『シナリオ』との差異は降り積もる。

 それはやがて、より大きな狂いをもたらすのだろうか。

 それとも所謂(いわゆる)『シナリオの強制力』的なナニかによって何らかの修正を受けるのか。

 どちらが未来に待っているのか、それはその時にならなければわからないのだろう。


 もしかすると、やがて人々はその目にすることになるのかもしれない。

 それが何なのか、『本来のシナリオ』のことなど知らなかったとしても。

 何が起こっているのか知る由もなく、結果を受け止めて見つめるしかないのだ。


 『バタフライ効果』という、ひとつの奇跡……あるいは悪夢を。


 ――人々が『運命(めがみ)の悪戯』に直面するまで、あと1年。




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




 新年を祝う人々が陽気に酔いしれ騒ぐ酒場の片隅で。

 騒ぎながらも国王が宣言した言葉への不安を拭いきれずにいる、そんな人々に紛れて3人の少年少女が難しい顔をしていた。

 不安を感じている人々でさえ、今は祝いの時だからと心内の暗さを押し隠しているのに。

 祝い事などそっちのけで、彼らは自分たちの『知識』との齟齬について話し合っていた。


「おかしい。絶対に、おかしい!」

「そーだよなぁ。なんで新年の式典で『主人公』がいないんだよ。あれ、『ゲーム』だったらバルコニーで王様の隣にいたよな? そんで民衆が歓声あげる中、救世主として大々的にお披露目されたよな」

「なんでも何も……やっぱり、時期がずれたせいよね。『ゲーム』よりも『イベント』の開始が早かったせいでタイミングがずれたのよ」

「逃げた『中ボス』を追っかけるために、もう『主人公』旅立ったっていうしな」

「『イベント』が早まった。だから『中ボス』の目撃例の報告も早まった。そんでその情報を頼りに『主人公』が旅立つのも早まった。……なあ、なんで『ゲーム』の序盤も序盤でこんな色々狂ってるんだ? 俺らが動いても、あまり『本編(メインストーリー)』には影響ないはずだろ。そういう風に動いてたんだから」

「やっぱり……私達のあずかり知らないところで動いている、『1人目』と『5人目』の影響だとしか考えられないわ。私達とは別の目的で動いているっては聞いていたけど……こんなに『ストーリー』を狂わせるだなんて、何を考えてるの」

「これはいよいよもって、悠長にはしていられないな」

「ん、どういうことだよ」

「この調子でどんどん『イベント』のタイミングがずれてみろ。色々前倒しにやられたら、俺達が間に合わなくなる(・・・・・・・・)かもしれない」

「え、それ……ヤバくね?」

「ヤバイな。俺達も、急いだほうがいいかもしれない」

「急いだからって、どうにもならないかもしれないけど……うかうかとしていられないのは確かよね」


 人々が浮かれ騒ぐ、酒場の片隅で。

 『前世』の記憶を持つ3人の少年少女は互いに覚悟を込めて頷き合う。

 そうして祝いの空気に全くそぐわぬ様子で席を立つと、急ぎ足に王都を脱した。


「早く、手に入れないとね――神を殺せる、神剣を」


 大きな共通の目的を、その胸に。





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