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獣人メイちゃん、ストーカーです!  作者: 小林晴幸
2.羊娘からの試練
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0.その日、とある島国で2

第二章、はっじまっるよ~☆

長らくお待たせして、すみませんでした!


ただし今回は本編とは異なる時間軸になります。



 その日、とある島国で。


 何気なく手に取った地元の情報誌をぺらりとめくる。

 大きな写真付きで自己主張してくるのは、都合よく近所のケーキ屋さん。

 つやつやと宝石みたいに輝く、季節のフルーツがなんとも素敵。


「――よし」


 私は財布を手に立ち上がった。

 行かねばならない。そんな決意を固く胸に秘めて。

 だけど背後から、私の両肩を掴む人がいるの。


「よし、じゃないだろ」

 

 逆らえない力で、すとんと座らせられる。

 さっきまで寝そべっていたラグの上。

 見上げると、私を苦い顔で見下ろすタケ兄がいた。


「タケにぃー……」

「お前、こんな時間からどこに行くつもりだっての」

「こんな時間って、まだ18時だよ?」


 あれ? タケ兄ってこんなに過保護だったっけ。

 私が夜間外出しても、今まで止められたことはない筈だけど。

 疑問が素直に顔に出て、私は首を傾げた。

 

「最近、夜は物騒なの。知らないのかよ」

「物騒って……猪でも出たの?」


 私が住んでいる地域は、治安が悪いなんて今まで聞いたこともない。

 犯罪とは無縁、なんて言い切るつもりはないけど。

 でも夜に出歩いても問題ないくらいには大丈夫なつもりだった。

 何かあってもご近所さんの耳目があるしね。

 今まで夜の外出に注意を受けたのは、回覧板で猪の目撃情報が回ってきた時くらいだし。

 

「猪じゃないけど……変なイキモノが出るらしいっつう噂、聞いたことない?」

「噂? そんな不確かな情報、タケ兄が気にするなんて珍しい」

「最近、日本各地から情報が寄せられてるんだとよ。夜に謎の生き物が、空を飛んでるって」

「鳥じゃない? あ、でも夜か……フクロウ?」

「それがやたらでかいんだと。シルエットだけだが、鳥っぽくはなかったっても聞くな。この辺でも3日前に見たって話が聞こえてきたし、用心に越したことはないだろ」

「動物園から大きな鳥が逃げ出したに一票」

「俺もそう思うけどな……俺が本当に気にしてるのは、謎のイキモノ自体じゃないんだよ」

「じゃあ何を気にしてるの?」

「目撃情報に踊らされて、イキモノの正体暴くぜ!って調子に乗って夜間に増えるパリピども。特にこの辺は3日前に目撃情報が出たばっかだからな。あわよくばって奴らがうろうろしてる頃合いだ」


 納得した。

 確かにそれは物騒だ。

 全てがそうとは限らないけど、偏見かもしれないけど。

 だけど調子に乗ったパリピという表現に良い予感はしない。


「それじゃなくってもなんか変な情報が回ってるしな」

「変な情報って?」

「なんかなー…………ドラゴン、だと」

「はい?」


「竜を見た、あれはドラゴンだったって主張が幾つか上がってんだと。それで余計に騒いでる夢見がちな奴らがちらほらいるらしいぜ。ツチノコ感覚で」


「ドラゴンって……タケ兄、頭大丈夫?」

「俺が言ったんじゃない。そう言ってる奴がいるんだってよ」

「可哀想に……。違法なお薬キメちゃってる人だったんだね。なんていうんだっけ、アンパン?」

「なあ、そういう言葉どこで覚えてくんの?」

「ギャグマンガ」

「お前の読書傾向が心配だ……」

「単語の意味がわかるタケ兄も人のことは言えないと思うの」


 全く、ドラゴンだなんてタケ兄ったら。

 あ、でも言ってるのはタケ兄じゃなくって別の人なんだっけ?

 まあどっちでもいいや。

 私もドラゴンとか、そういうの嫌いじゃないけど。

 特に愛しちゃってるゲームじゃ重要な要素(キーワード)だけど。

 でもそういうの、現実と混同しちゃうのはダメだと思うな。

 夢を見るのは自由だし、何を信じるのかも個人の自由だけど。

 それでも周囲の人を巻き込むような騒ぎ方はあんまり良いものじゃないから。

 もうちょっと、妄想するにも節度ってものが大事だよね。

 全くドラゴンなんて、誰が言い出したんだか。




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




「どこに行っていたんですか、貴方は」


 微かに怒りのにじむ顔で、長い髪の女が尋ねる。

 尋ねられた方、赤毛の男は鬱陶しそうに舌打ちを零した。

 その態度に女が顔をしかめるが、男は肩をすくめてみせるのみ。


「今日は南の方に行ってきた」

「行ってきた、ではありませんよ……」

「そう眉を吊り上げるな。お前だって食すだろ。ほら、美味だぞ南蛮渡来の黄金色の菓子。しかも蝙蝠マークのあの老舗の。お前も前に美味だと言っていたではないか」

「それは……美味しいのですもの。この国のお菓子」


 方々、人目を気にしながらも気ままに巡って男がしていること。

 それは各地のお土産品(※食品に限る)収集だった。

 誰かに送る為ではない。

 完全に、自分達で消費するために。


「ですがネット通販でもよろしいでしょう? 大概のものは手に入りましょうに……便利なことではありませんの」

「よせよせやめろ。俺はもうキーボードには指1本だって触れたくない。大体お取り寄せよりも直接赴いた方が迅速で確実だ。何より現物を前に吟味する時間が持てる」

「吟味する時間ですか……キーボードを嫌がる気持ちもわからないではありませんけどね」

「俺はそもそも細かい作業に向かん。知っているだろうに。文才だってない。なのになんで俺がお前らよりも長時間、しかも多めにシナリオ作成に携わらなきゃならないのか……俺はもう一生分、アレとは触れ合いを済ませた後だ。もうパソコンの電源ボタンにすら触れたくない」

「そうは言いますが、我らの中では貴方が最も古参。若様に下ったのは、貴方が最初ですもの。でしょう? シナリオライターその2」

「確かにお前らよりも先に、俺が若様に従った。だがな……『終焉』に向かうあの世界で、お前らよりも長くその運命を見つめることになったからとは言っても……文才がない者に、あの仕事量は拷問だろうが」


 深々と重い溜息を吐く、シナリオライターその2。

 その顔はうんざりとした色を隠しもせず、パソコンを見る目は苦々しい。

 それでも彼だってわかっていた。

 自分達がやっていることの重要性、それが避けられない苦役だと。

 情報を発信すると決めた時、その多様な手段と普及率、影響力を鑑みて拠点をこの国に定めたのだから。

 

「本当に成果はあるんだろうな……」

「私達の今までの努力――世に送り出した『ゲーム』の結果ももうすぐ答えが出ます。迫る決戦(イベント)の日に」

「望む結果が出なければ?」

「その時は仕方がありません……もう話し合いで決めたでしょう。私達は何度だって挑戦するしかない。また媒体を変えて別の方面からアプローチするだけです」

「そうだな……できれば、早々に見つかってほしいものだ」


 元々、これは賭けのようなものだった。

 神がいない為か、それとも元来そういうモノとして発生したのか。

 先天的にか後天的にかは知らないが、この世界に生きる『人間』という種族は、彼らからしてみれば特異な特性を有していた。

 その特性をこそ求めて、遠い場所から彼らはやって来たのだが。

 自分達でも知らず、『人間』はその力を使う。

 否、使っているという自覚もなく、他に影響を及ぼすのだ。

 そうやって世界に干渉を広げ、無慈悲に自らの住まう世界を作り替えていった。

 他の世界であれば管理者たる神が調整し、ここまで理不尽に身勝手に世界を好きにはさせなかっただろう。

 だがこの世界に神はいない。

 庇護し、調和を保つように管理する神がいないからこそ、『人間』は自分らの持つ力を全て使い、逞しくしぶとく生き抜いてきた。


 この世界の『人間』が持つ特性、それは。

 ――『運命』に干渉し、変える力。


 他にそんな力をもつイキモノを、彼らは知らない。

 運命への干渉力にも個々で大小違いはあるが、それでも例外なく全ての『人間』がその力を持っている。

 お陰でこの世界の軌跡は混沌に満ち溢れていることこの上ない。

 無軌道で、歪で、『人間』の都合に振り回されて無秩序だ。

 しかしそうやって運命を捻じ曲げる力をこそ、彼らは求めた。


 彼らの世界には、『運命の女神』がいる。

 彼女が敷いた『運命』というレールを破壊できた事例は1つもない。

 『運命』の拘束力から逃れられた者を、彼らは知らない。

 『運命』というものは、神すら縛る。

 それだけの強制力を持っているものであり、抗うことを無駄だと嘲笑う。

 

 変えられない『運命』を変え、捻じ曲げる為に。

 彼らの世界を、救う為に。


 彼らは殊更に強い『運命を変える力』の持ち主を求めた。


 ソレは、この世界にしか存在しない。



 だから、彼らは『シナリオ』を書いた。

 この世界の『人間』に、普及する為に。

 この世界に存在する『誰か』を、『協力者』にする為に。 

 自分達に協力してもらう下地として、知識を与える為に。

 自分達の世界へと、少なからず感情移入してもらう為に。


 そうして地道に費やしてきた活動の結果が、もうすぐ出ようとしている。

 ひとつの目安として、『協力者』を選別する為に彼らが用意した場が。


 『イベント』の場で、どれだけのファンが集まるか。

 その中から協力してくれる、『強い力の持ち主』が見つかることを……彼らは、切に願っていた。

 見つからなかったその時は、また手を変え品を変えて努力を積み上げるだけだと覚悟を決めて。


「そういえば翁は?」

「ご老公は既にその時に備えておいでですよ……他の者を連れて、作業部屋に籠っておいでです」

「は?」

「……今回の試みが上手くいかなかった時の為に、漫画の描き方を研究する、と」

「切り替え早いな、あの爺さん!?」

「今から備えて下さっているご老公には申し訳ありませんが、今度のイベントで私達の苦労が報われることを祈りますわ」

「俺もそれを祈ろう……」



 そうして彼らは賭けに勝ち………………己の力も知らずに生きていた、5人の男女が見出された。





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