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20.誰も今すぐやれとは言ってない ~乗っ取られた夜会~



 なんで、こんなことになったかなー……

 ……遠い目で現実逃避しようとしても仕切れずにいるメイちゃん、15歳。

 現在、夜会会場の真っ只中で……何やら、老若男女様々な人々に取り囲まれているよ?

 本当に、何故こんなことに。


「まあ、ご覧になって? あの方……あのような奇抜なお衣裳で」

「しかも王子殿下や他にも様々な殿方を侍らせるなんて!」

「あらティベリーネ様、あの方の周囲にいらっしゃるのは殿方ばかりではありませんわよ?」

「……お2人とも、お気づきになりませんの? あの方を取り巻いているのは『カード愛好家』の皆様ですわ」

「まあ」

「あら……仰る通りですわね。確かに」

「彼らの崇拝する共通の人物がいらっしゃるでしょう? お噂でしたけれど、本日は『アメジスト・セージ』が招かれると耳にしておりましたもの」

「まあ、あのお噂は本当でしたのね」


 いやいやお嬢様がた、そこで納得なさらないで!?


「あの方が『アメジスト・セージ商会』の長ですのね……わたくしの兄も、あの商会が手掛ける品を愛好しておりますのよ。『アメジスト・セージ』は人前には出ない神秘的な人物だと耳にしておりましたけれど……兄がこの場にいないのが悔やまれますわね。滅多にない機会をどうやら兄は不意にしてしまったようですわ」

「今からでも遅くありませんわよ。マリアンヌ様のお兄様は、確か騎士の方でしょう? 城内警護の任についておいでなら、この場においでいただくことも出来るのではありませんの?」

「些事で任務中に煩わせるな、と兄には言われておりますのよ。ですけれど、そうですかわねぇ……滅多に人前に出ない『アメジスト・セージ』ですものね」


 止めて、そこのお嬢様!

 これ以上、人垣構成員を召喚しないで!


 ――さて、なんでこんなことになったのかというと。

 いやまあ、うん、別に説明するまでもない感じするけどね?

 うん……王子様に話しかけられてたら、気付いたらなんか周囲に人々がにじり寄って来てた。

 どうやらメイちゃんのこの格好……『カード』のレアキャラの扮装(コスプレ)めいた格好のせいで、『カード愛好家』の皆さんの興味関心をガンガン惹いちゃっていたらしく。

 それでも私が感涙一歩手前の状態で感動に打ち震えながら必死にスケッチブックざかざかやってる様子に、声をかけようにもかけられずにいたみたい。

 そこに王子様が声をかけてきて、一気に話題が『カード』に直撃して。

 様子を窺っていた愛好家の皆さんも、ここぞとばかりに参戦して――今に至る。


 そうして私は、この夜会会場の一角で。

 なんかここだけ異様な熱気と不自然な雰囲気に包まれながら、『カード愛好家』の皆さんからの質問攻めにあっていた。


「おお、やはりそのお衣裳は『紫虹晶姫』のもので!? 我が目は確かでありましたか!」

「『カード』の絵札を現実に反映させるとは! そのご衣裳を仕立てた職人も素晴らしい! この再現率……是非ともご紹介いただきたいものですな。何という工房の作ですか?」

「本当に素敵ですわ! 勇ましいものや無骨なものも多くありますけれど、わたくしはやはり華やかな『カード』を好ましく思いますの。わたくしのお友達にも、画集を眺めるような気持ちで『カード』を収集している方が何人もいらっしゃいますのよ。セージ様のおすすめの絵札など、ご一緒に語り合わせていただけたら光栄ですわ」

「アメジスト・セージ殿のお考えはなんとも画期的なものが多くあるようですからな。遊興の道具としてだけでなく絵画的な楽しみも出来る。一粒で何通りもの楽しみが得られるとはなんとも得した気分になれますな」

「一体どのような過程を経て、数々の発明に至ったのか……是非とも逸話を教えていただきたい」

「わたくし、『カード』も好きですけれど他の品々にも興味がありますのよ。『カード』の絵柄の大量生産を可能にしている秘訣も気になりますけれど。セージ様の人脈や手腕についてお話を伺ってみたいと思っておりましたの」


 それはもう、こっちが回答する隙さえなく!

 みんな一斉に次から次へと矢継ぎ早。

 待って、メイちゃん聖徳太子にはなれないから! 仏教徒じゃないし!

 

 貴族の皆さん礼儀どうした。

 一斉に1人に話しかけるってどうなんだろ。

 なんとなく礼儀作法に煩そうな人達ってイメージだったんだけどな……

 自分の対処能力を超えた事態に、何分間も晒されて。


 なんか頭の中で。

 プツッて何かが切れる音がした。


 それが堪忍袋の緒だったのか、血管だったのか他の何かだったのか。

 ちょっと自分でもよくわからないんだけど。

 気が付いたらそれまでのちょっと遠慮して委縮していた自分が嘘みたいにね?

 ずずいって、自分で前に出ていた。

 そして口を開けば出てくる言葉は……


「こんなにたくさんの方に興味を持っていただけて、光栄なことですわ。ですが残念な事に一度に質問をされても、私には体が一つしかありませんもの。すべてにお応えすることなんてできませんわ」

 

 その時、私の頭の中にはロキシーちゃんがいた。

 内なるロキシーちゃんが喋った?

 ううん、違う。

 毎晩、夜遅くまで費やして叩き込まれた、ロキシーちゃんの突貫礼儀作法講座。

 そこで中途半端に学んだ、礼儀に則った言葉遣い?

 その知識が、私の口調を自然とロキシーちゃんを真似するようなものにしていた。

 自分で自分の口からこんな口調で言葉が飛び出すことに、違和感あったけど。

 そして戸惑い困惑していたはずの私はまだ混乱していて。

 勢いに任せて、こんなことを言ってしまった。

 ……それが、この夜会会場を更に混沌へと導くことになろうとは。


「……そうですわね、皆様、私の商会で最も目玉とされている商品をご愛顧いただいているものとお見受けします。何方の質問にお答えするのか、私が選んでは不公平というもの。ですので我が商会が自信をもって皆様にご紹介させていただいている『カードゲーム』……それで何方の質問にお応えすべきか、決めさせていただきたいと思います。そう、カードゲームの勝敗で全てを決めてしまいましょう! 私、この場の方々で上位5位までの成績を収めた方の質問にお答えいたしますわー!」


 いや、なんかさ、みんな『カード』の話がほぼだったから。

 共通話題として最も濃い熱気を纏ってたのが、『カード』だったから。

 ここは場を繋ぐのにも、『カード』のことをメイちゃん推しといた方が話も進むかなって。

 ……うん、自覚以上に混乱していた気がしてならない。 

 っていうか勝者を決めさせておいて、その景品がメイちゃんへの質問権だけってショボいよね。

 ショボ過ぎだよね?

 メイちゃんどんだけ偉いのかって感じになるよね。

 駄目だ。勝負を推進するんなら、もっと豪華な景品付けないと……!


「さ、更に! 当商会では現在、『カード』の正式名称を募集しているところですの。優秀な成績を収めた方はきっと『カード』への愛情が殊更深い方だと思います。上位5名の方は名称の選考会に、わたくしの名で推薦させていただきますわ。加えて毎年発行している非売品の『名鑑』を皆様御存知でしょうか? ご希望のバックナンバーを進呈させていただきます!」


 ノリと勢いだった。やけっぱちになっていたことは否定しない。



 そうして、夜会会場は。

 『カードゲーム』の臨時大会会場へと姿を変えた。


 何故に皆様、懐にデッキを忍ばせてるの?

 どうしてそんなに手際よく、夜会会場でブースを形成し始めちゃうの?

 なんでそんなに早くせっせと小さな机たくさん持ってこれるの? 既に準備してたの?

 なんか妙にめちゃくちゃ手慣れてない?

 なんで家から連れてきた使用人に、物の五分でデッキを届けさせることが出来るのかな?

 っていうか何人かの紳士は明らかに懐から取り出してたよね。

 え? 持参? 夜会の会場にデッキ持参してたの?


 何の戸惑いも、躊躇いも、動揺もなく。

 何故か臨時『カードゲーム』大会が始まろうとしている。

 いや、遠巻きにしている夜会の一般参加者の皆さんからは戸惑いの視線も多かったけどね!

 特に地方から出てきたらしい、ちょっと場の空気から浮いてる貴族の旦那様方が戸惑ってたっぽいけどね!

 場の人数比率的に、何故か『カードゲーム』に臨もうとしている人々よりもまともそうな貴族の人たちの方が浮いているという不思議。

 いやいやいやいや明らかにおかしいのはゲーム参加者(こっち)の方だよね!?

 発起人メイちゃんだけど! お前が言うなって感じだけど!

 でもでも絶対に頭おかしいのはこっちの空気に馴染んでる方々の方だよねー!?


 そうしてそこかしこ、あちこちで試合への参加希望らしい皆さんが配置につく。

 事前に打ち合わせしてた筈はないのに、迷いのない足取りで2人1組、小机を挟んで向かい合う。

 場の中心にいながら戸惑っているメイちゃんの方がおかしいのかと、自問自答するくらい自然に、スムーズに、躊躇いもなく試合の熱気が夜会の華やか優雅な空気を塗り潰す。

 いやいやもうちょっと躊躇おう? っていうか楽師さん達も順応早すぎない?

 さっきまで踊るのに適した軽やかでキラキラした音楽を奏でていた楽師さん達は、気付けば勇壮で熱い曲を奏で始めていた。うん、少年漫画のバトルシーンでBGMにするにはぴったりな感じの。

 いや染まるの早すぎない? 楽師さん達、突発的にそんな夜会に不似合いな曲奏でちゃうの?

 あっという間に会場の空気が早変わりしすぎて、ちょっとついて行けない。


「――それではこれより、臨時ではあるが134回王宮『カード』大会を開催する! この場に『カード』の生みの親である『アメジスト・セージ』殿を招くことができた光栄に感謝! 皆、敬礼!」

「「「敬礼!」」」

「え、あ、えっと……あ、はい。ありがとう、ございます……?」


 場の準備が整ったところを見計らったらしい、王子の開会宣言があって。

 なんでか私が皆さんから一斉に敬礼されて。

 そして続けて、互いに対戦者に礼。流石は貴族、礼儀正しいね?

 うん。ちょっとメイちゃん、ついて行けないんだけどさ。

 一斉に、会場内のそこかしこで熱い声を響かせながら……試合が始まっちゃったよ?



 こうして会場はメイちゃん(というより『カード』)に占拠された。



 うん、確かにメイちゃんが言ったよ?

 一斉に質問されても答えようがないから、質問者を『カード』で決めようって。

 でもね、誰も今すぐこの場でやれとは言ってない。

 一気に塗り替わった会場の空気と熱気に晒されて、居た堪れなくて。

 勝負の決着がついて上位者が5名までに絞り込まれるまで、まだだいぶ時間がかかりそう。

 だからちょっと、現場に留まり続けることが辛くって。

 ……言い出した私には、きっと勝負を最初から最後まで見届ける義務があったと思うけど。


 でも何時間もずっと、ただただ観戦し続ける為だけに留め置かれるのは勘弁願いたい。


 私は、少しの時間だけのつもりで。

 みんなが勝負に熱中しているのを良いことに、息を潜ませ、気配を消して。

 息抜きも肝心、心の中でそう言い訳をしながら、そっと会場を抜け出した。

 どこか人目につかない、目立たない場所……それでいて王宮の奥に迷い込まないよう近い場所。

 考えた末に、私はテラスから仄かな灯りに照らされた庭園へと足を運んだ。

 夜のお庭も、王宮の立派な庭園なら十分に趣があるねー……

 会場の温まった空気で、ちょっと息が詰まっていた。

 清涼感を求めて、私はふらふらと噴水の水しぶきが煌く泉へと――


 ――……パシリと、背後から誰かに腕を掴まれた。

 え、誰!?

 誰かが接近してきていたなんて、全然気づかなかったよ!?

 私はただただ驚いて、咄嗟に離れようとしながら振り向いた。

 腕を掴まれているから、望んだほどには離れられなかったけれど。

 それでも、少しだけ距離を空けて。

 ……元々腕を掴まれるくらい、距離を詰められていたから微々たる距離だったけど。

 相手を見上げて、確認するには充分な距離。

 硝子の灯篭から零れる光は、辛うじて視認を可能にした。

 誰かの顔が見える。

 声もなく私の手を掴んだ、『誰か』の顔が。

 そこにいたのは――


「……つかまえた」


 Oh……?

 め、めぅ? え、うそ。なんで。


 そこにいたのは。

 私の手首を、逃がすまいと掴んでいたのは。

 

 どうしてアナタが私の手を掴んでいらっしゃるんですかねー……?

 さっきまで王女様とくるくるとくるくると、眼福物のダンスを披露していた、はずの。



 リューク様がそこにいた。


 

 もう1度、自分の現状を確認するように視線を動かす。

 間違いなく、リューク様の手が私の手首をつかんでいた。

 つ、つかまっちゃった☆


 ………………なんでこんなことになったのか。

 私の混乱は、加速するばっかりだった。

 





ストーカー対象(リュークさま)があらわれた!

ストーカー(メイちゃん)ストーカー対象(リュークさま)につかまった!

 ――どうする?


  はなす (→誤魔化す)

  たたかう(→殴りかかって気絶を狙う)

  にげる (→カード大会ばっくれ決定)

  とくしゅ (→召喚:誰かたっけて~)

  アイテム(→煙幕:目潰し)

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