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10.離脱者には鉄槌……蹄を!(ストーカー同盟)



 ラヴェントゥーラは、今回の魔物の襲撃を指揮しているだろう、古代神ノアに仕える中級神。

 彼は、メイちゃんと『同類』――『前世』の記憶を持つ前世系だ。

 だから、『ゲーム』の知識がある筈なんだよ。


 つまりは、今回の襲撃……故意に、襲撃のタイミングを早めたってことだよね?


 『ゲーム本編第1章』で発生する王都への魔物襲撃事件。

 ……開始早々に発生するイベントの諸々を、意図的に崩壊させようとしたってことだよね?

 そのせいでリューク様達の道行に、危険物(ミヒャルト)が混入されちゃったんだよ!?

 あの危険な思想の持ち主がリューク様達にどんな影響を与えるか……考えるとこわい!


 これはもう……ラヴェントゥーラ神はメイちゃんに喧嘩を売っているものと考えて良いよね?

 だってあの神、私がどれだけ『ゲーム』を愛しているのか少しは知っていた筈なんだから。

 

 だから。


 ボコボコにしてやろうと思うの。


 出来るか出来ないかじゃない、やるの。

 再起不能にしてやることは無理だろうけど、メイちゃんの無念を思い知らせてやるの。

 再起不能に出来たとしても、それはそれでシナリオが崩壊するからやらないけどね。

 今後に支障のない程度にガンガンやってやるの!

 この苛立ちと悲しさと不安と切なさ、鬱憤腹立ち全部を込めて。

 人はそれを八つ当たりって言うよ! だけどそんなこと、メイちゃん気にしない。

 腹立ちをぶつけられても仕方がないだけのことをやったんだもん!

 それが嫌なら、ラヴェントゥーラ神はメイちゃんが納得できるだけの理由を提示すべきだと思うよ。たくさんの理屈を並べられたとして、そこにメイちゃんが納得できる理由があれば、だけどね!


 使命(ストーキング)を邪魔された(ストーカー)(いかり)……体で受け止めてもらうからね!


 そうと決めたら、善は急げと昔の人は言いました!

 メイちゃんも、さっさとラヴェントゥーラ神を半殺しにしてこようと思う。

 さっさと済ませて、リューク様達の観察(ストーキング)を再開できるように!

 魔物捕獲要員(スタインさん)が参戦しちゃったから、本当に急がなくっちゃ。

 戦闘回避の効率が上がるから、ぼやぼやしてたらリューク様達がボスのとこまで来ちゃう!

 手段を選んでいられる猶予もなかったから、私は全力で。


 邪道な手段に走りました。


 この博物館でボスが待ち受けてる場所って、東館屋上手前の部屋なんだよね。

 うん、つまり東館1階から順に攻略するより、屋上からのが近いっていう。

 リューク様達は地道に、そして律儀に順路通りに進んでるみたいだけどね?

 ぶっちゃけ、屋根伝いに行った方が早いと思うの。


 私がそう思うのも、いま張り付いてる場所が『西館の外壁』だからかもしれないけど。

 建物の中を進んだら地下から湧き出してきた魔物に襲われることを考えても、その対応で時間をロスするより、建物の外側伝って行った方が効率良いと思うんだ。

 建物の壁に張り付いたり、屋根の上を走れるだけの技術があれば、だけど。

 勿論メイちゃんには、それが可能なだけの技量があるよ!

 円滑なストーキングライフの為に身に着けたから!

 リューク様達の姿を見下ろしていた天窓から身を離し、するするするーっと壁を移動する。

 すぐそこに、東館へと通じる渡り廊下がある。

 私は渡り廊下の屋上を一直線に駆け抜けた。

 遮るものが何もないから東館まで直ぐだったよ。

 何の障害もないって良いね!

 本当はこの壁とか屋上とか屋根の上っていう条件がそもそもからして障害だろうけど!

 だけど障害っていうのは、乗り越えるためにあるらしいよ?

 有難いそのお言葉通り、メイちゃんも乗り越え(物理)させていただきましょーう!

 

 私は走りながら、勢いをつけて。

 手に持っていた竹槍を、投げた。

 

 東館の外壁はレンガ造り。

 本来なら竹槍がぶっ刺さるなんてことはないんだろうけどね?

 メイちゃんの竹槍は、内部にセムレイヤ様(竜神)の鬣を仕込んだ特別製です!

 竜神様の不思議パワーで岩盤だろうが貫くよ!

 国が管理している博物館です。

 わざと破壊行為を働くのはちょっと抵抗があるけれど……

 どうせ内部では魔物が暴れるだけ暴れている。

 どっちにしても補修工事は必要だろうし、壁に穴をあける分の修繕費を寄付しようと思う。

 弁償すれば良いって問題じゃないだろうけど、後でお金出して修繕してもらうから許してね。

 大丈夫。メイちゃん、お金持ち。

 自分で総資産を把握してない位には、お金持ち。

 だってロキシーちゃんが稼いでるから!

 

 投げた槍はサクッと東館にぶっ刺さった。

 柄と繋がるワイヤーは、右手に巻き付けたまま。

 私はそれを引き寄せながら自分でも大きく踏み切る。

 その勢いで……じゃーんぷ!

 思いっきり跳び上がって、外壁に刺さった竹槍の高さまで。

 そのまま竹槍に着地、しなりを利用して更にじゃーーんぷ!!


 流石、私の愛槍。よくしなる。


 メイちゃん、ここにだけは拘るだけ拘ったから!

 槍にする竹材、立派な竹として地面に生えてる時点から吟味に吟味を重ねましたから!

 厳しい審査で選び抜いただけあって、私の竹槍は強靭でしなやか。

 軽やかな着地と共に、ワイヤーを使って引き寄せた竹槍は私の手に。

 こうして私は、正しい道順を完全無視する形で、あっという間に辿り着いた。


 降り立ったのは東館の屋上。

 目論見通りの屋上だよ!

 広い開けた空間の先には、巨大なナニかが無理やりに押し入ったんだろうなあって感じに破壊の痕跡が残る出入り口。東館の中に繋がるドアがあそこにはあったんだけどなぁ、構造の位置関係的に。だけどそこは、今ではとっても開放感たっぷりな……大穴が空いている。


 その大穴の向こうに、こっちに背を向ける形で立つ影が見えた。


 あそこは第1章ボス戦の舞台『ボスの間』……の、隣の部屋。

 影の正体はリューク様を文字通り待ち受ける、ラヴェントゥーラ神とボス役の魔物。

 『ゲーム』では窓をぶち破って現れる彼らは……窓をぶち破る為に、待機中らしい。

 ……リューク様達がやってくる方向に注目しているから、私の目からはとっても無防備な背中が曝されているようにしか見えない。

 うん、これ狙っちゃって良いよね?


 私はそっと軽く足元を確かめてから、助走を開始した。

 一歩、二歩、三歩……そして振りかぶる竹槍。

 脳裏に思い描くのは、前世の記憶でうっすら見た覚えがあるような気がしなくもない棒幅跳び(フィーエルヤッペン)のフォーム! だけどアレよりも、もっと鋭く! 例えるならば弾丸のように……!

 竹槍を床に打ち付け、反動と助走の勢いを利用して。


 跳んだ。

 

 例えるなら裏口から入り込むような形で、背後から。

 これもひとつの奇襲(ふいうち)なのかな。

 今はメイちゃん、全く隠れる気ないけど。


「 メイちゃん、参上ぉぉーうっ!! 」

「おふぅっ」


 10年間楽しみに、楽しみにしていた『ゲーム』の『イベント』。

 それを狂わされて、凄く凄く思うトコロがあったから。

 不可抗力や意図せずなら兎も角、わざとやっちゃうなんて!

 とってもお腹立ちだったので、部屋に飛び込むついでに背後からラヴェントゥーラ神の肩甲骨の間に両足揃えて跳び蹴りかましておいた。


 いきなりの後背から、強い衝撃を喰らえ。

 ……あれ? だけどなんだか思ったより、随分と軽い手ごt……足応え?


 相手が神様だからなのか、人を相手にした時の感触に比べて強い違和感。

 だけどその軽さが、私の想定以上の衝撃を攻撃に+させたみたい。

 不意打ち上等で放った飛び蹴りは、後ろからの攻撃など全く意識せずに油断していたラヴェントゥーラにたたらを踏ませ、つんのめるという表現を体現させて。

 前方へ倒れそうに傾いた体にすかさず体を捻って回し蹴りを放ち、ラヴェントゥーラ神はべちゃっと倒れ込む。相手が大勢を崩した瞬間を逃す程、今のメイちゃんは慈悲深くない。

 自分で言うのもなんだけど、私の攻撃は多分、割と目まぐるしい。

 介入の隙を見つけられず、ラヴェントゥーラが連れてきていたボスモンスターが戸惑っている内に追撃しない手はないよね。是非ともバンバン隙をついちゃえ。

 速攻、畳みかけよう。

 喰らえ渾身の膝落とし(ニードロップ)


 まさか相手は神だし。

 このくらいで死にはしないだろうと、遠慮も手加減も無用の全力で。

 後ろ首に、落下の速度を乗せて膝を落とした。


「ぐぶっ!?」


 やっぱりこの程度じゃ大したダメージは負わないみたい。

 膝落としを受けて海老みたいに跳ねたラヴェントゥーラ神は、意識を落としすらせず。

 首の上に膝立ち状態のメイちゃんを撥ね退け、一気にこちらと距離を取った。

 常人が相手なら結構な打撃を受けておかしくない攻撃の連続も、相手が神じゃあまり効果はなかったのかも。悔しい話だけど、ラヴェントゥーラは(いささ)かも体を損ねた様子なくむくっと立ち上がる。

 警戒と混乱と、何故か若干の狂人を見るような目をこちらに向けるラヴェントゥーラ神。

 相手が私と知り、今にも襲い掛かろうとしていたボスモンスターを制止する。

 それは私に危害を加えないように配慮したのか、それとも違うのか。

 リューク様にぶつける筈の魔物が、私相手に消耗したら嫌だったのかもしれない。


「……っ一体どこから湧いて出た」

「湧いて出るなんて無理だよ。普通に、ふっつぅーに、壁をよじよじ移動して、渡り廊下の屋根の上走って、屋上までジャンプしてここまで来たよ!」

「ジャンプで屋上までってあなたピンポン玉か何かなんですか!?」 

「そんなつもりは全くないけど、地元じゃ何故か一部の賞金稼ぎに『ピンボールラム』って呼ばれてるよー……?」

「というかまた貴女ですか! 貴女なんですか! なんで貴女なんですか!? わざわざ襲撃時期をずらしたというのにどうして此処に!?」

「やっぱわざとかこの野郎」

 

 うふふふふー?

 あははははー?

 『ゲーム』関連のあれこれに対するメイちゃんの執念ともいえる情熱をいくらかは知っているはずなのに、この暴挙。しかも今の物言い、敢えて私の介入……する気は本来なかったけど、関わることを避けようとしたって風にも聞こえるよ? 私の気のせい?

 ……気のせいじゃないよね?

 つまり私に喧嘩を売っていたんだね。


「ラヴェントゥーラさん酷い! どうして!? 私達、同じストーカー同盟として頑張ろうって約束したのに!」

「そんな同盟そもそも加入したつもりは毛頭ないんだが!? こっちはこっちなりの理由……消滅回避の為に助力をする、とは約束したような気も致しますが」

「メイちゃんとの協力体制すなわちストーカー同盟だよ! そこはイコールで結ばれてるんだよ!」

「こちらに拒否権はないので!? ……そうですね。やはりけじめとして、貴女には先に別れを告げておくべきだったのでしょう」

「え?」

「判り易く言いましょう。私はストーカー同盟を脱退する」

「却下」

「一言で即否定!?」

「同盟No.1、トップの権限で脱退申請を棄却します」

「1度入ったら出られないとでも!? 悪質すぎる、ストーカー同盟! セムレイヤ様は別れを告げたら理解を示して下さったのに!」


 ……いま、なんか聞き捨てならないことを言ったよね?

 え? セムレイヤ様、ラヴェントゥーラの離反を知ってたんですか?

 ちょっとスルー出来なかったので、私はこの騒動が終息した後にセムレイヤ様に問いかけた。

 その時、セムレイヤ様との会話は以下な感じだった。


『――セムレイヤ様、セムレイヤ様ー?』

『どうしました? メイファリナ・バロメッツ』

『ラヴェントゥーラさんんがストーカー同盟抜けるって言ってるんですけど、どう思います?』

『ああ、そのことですか……私も少々考えたのですが、メイファリナ。


 やることなすこと些細な偶然の不幸で全て台無しにしてしまう。

 ……そんな呪いにかかっている彼を身の内に置いておくのは、考えた方がいいのではないかと』


 ああ、ドジッ子の呪い。


 確かにあんな呪いを……やることなすことつまらない失敗で台無しにしてしまうという嫌な呪いを背負った神様を仲間に留めておくメリットって……。確実に、こっちの足を引っ張るよね。

 懐に爆弾、とまではいかないけどネズミ花火を抱えていつ着火されるかわからないみたいなイメージが脳裏を過ぎった。

 それくらいなら敵側に戻ってもらった方が良いというセムレイヤ様の判断も納得だ。

 多分、運命を知っているラヴェントゥーラさんは地味に運命を変えようと足掻くだろう。

 でもそのことが逆に、ドジッ子の呪いで跳ね返ってラヴェントゥーラさんの失敗を招く。

 つまりこれまた地味に敵陣営への嫌がらせになる、と……

 だけど、でもでも。


「でも、ラヴェントゥーラさんは本当にそれで良いの? 自分の死ぬ運命(シナリオ)をやり過ごす為に、私やセムレイヤ様と手を結ぶんじゃなかったの?」

「………………あの時は、私の封印も解けたばかりでした」

「え? いきなり脈絡なく話変わった?」

「私の言いたいことが十全に伝わるかわかりませんが、告げておきましょう。今の私に『前世(ゲーム)知識』は以前と変わらず今もある、が……それは知識だけ。記憶は、記憶に伴う感情、心……前世の人格や『ゲーム』に対する印象は、今の私にはほぼ残っていません」


 きっぱりと、真剣な顔で言い切ったラヴェントゥーラ神。

 私への攻撃の隙を窺っていたボスモンスターを壁際まで下げさせた上で、滔々と語る。

 私に、ストーカー同盟に、協力できない理由というものを。


「私の前世の記憶に伴う感情が、最も鮮明だったのは記憶が蘇った直後……神々の戦乱の最中でした。その時は、蘇った記憶とそれに付随する前世の感情や信条、思いに影響を受けて混乱したが……記憶は知識になり、前世の感情は時間と共に薄れて擦り切れていくようです。封印されている間は時間の感覚がほぼ停滞しているようなものだったので、あまり変わらなかったが」


 封印されていた千年の間は計算に入れないとして。

 ラヴェントゥーラ神の封印が解けたのはここ数年のこと、ぶっちゃけ5年前らしい。

 5年前、私達が初めて顔を合わせた頃は前世の記憶が蘇ったばかりの頃とほぼ感覚が変わらなかったので、前世の気持ちが大きく影響してノア様を裏切るのもやむなしって方向に感情が動いた。

 だけど5年の間に前世の気持ちが薄れてきて、『ラヴェントゥーラ神』としての判断や感情、ノア様への忠誠心が再び強くなった……ってこと?

 『ゲームシナリオ』を知った衝撃が覚めて、冷静になったとも取れるかな。

 元々ノア様(ラスボス)の伝令神だったラヴェントゥーラ神の忠誠心は厚い。

 前世の影響で狂っていた優先順位が正されて、自分が消えるかもしれない運命より、ノア様の命令を優先するっていう。


「――とはいえ、一度は協力を約束した身。約束を反故にするのは私の都合。この身勝手の代償に、せめて貴女や『ゲーム』に関してはノア様にご報告せず私の胸の内に留めておきましょう」

「いや、違うでしょ。ラヴェントゥーラさん。さも報告したって良いんだよ?って感じに言ってるけど……報告しないのはただ単に、ラヴェントゥーラさんにとって都合の悪い話だからだよね」

「………………一度は離反もやむなしと考えてしまった私にも、不都合な点はあります。正直な話、貴女がたとの接触はなかったことにしたい。その点を見れば確かに、それはそうでしょうね」

「うん、そこでもなく」

「何を言いたいんです……?」


 ラヴェントゥーラ神は、何故かメイちゃんと『ゲーム』については口を噤むという。

 私達との協力を切るって断言しているのにね?

 再びノア様の側に何にもなかった顔で戻ろうとしているラヴェントゥーラ神。

 そうなるとノア様の宿敵であるセムレイヤ様のことを報告しないっていうのはおかしな話。

 セムレイヤ様がノア様が復活しかけていることを知っていること。

 ノア様の今後を『ゲームシナリオ』という形で知っているってこと。

 少なくともこの2点は報告するべきだよね?

 だけど『ゲーム』のことを黙っているのなら、その2点をセムレイヤ様が知っているっていう根拠がおかしくなる。

 報告するのなら、そこはセットじゃなきゃ信憑性がなくなってしまう。

 まあ『ゲーム』の話自体が信憑性おかしいけど。

 『ゲーム』の話をしないなら、セムレイヤ様に関する報告についても口を噤まざるを得ない。

 じゃあどうして話さないのか?


「簡単な話。ノア様が敗北する『ゲーム』のシナリオなんか話したら、その時点でノア様怒髪天だよねっていう。前世がどうのなんてどう聞いても世迷言だし。信じてもらえるとは思えないし? ノア様って頑固そうだもんね。


最悪、ラヴェントゥーラさんがノア様の怒りを買って消滅させられるだけだよねっていう」


 ラヴェントゥーラ神の忠誠心は厚くても、ノア様にどれだけ心酔していたとしても。

 信じてもらえない話をした挙句、与太話で怒らせたなんて思われて消滅させられるとか。

 それは嫌だよね?

 どうせ信じてもらえないなら、話さないって方向に向いてもおかしくないと思うの。

 だって消滅させられちゃったら、ノア様の為に働けないのは勿論、ノア様がリューク様に負けるっていう『シナリオ』を捻じ曲げる為の努力も出来ないってことだもんね? 

 

「「………………」」

 

 暫しの、沈黙。

 ラヴェントゥーラ神は無言。

 メイちゃんも、無言。

 だけど私の顔は、いつのまにかにっこり笑顔になってたと思う。

 目の笑っていない、笑顔に。


 うん、やっぱりラヴェントゥーラ神は凹そう。物理的に。


 だってこいつ、意図的に『シナリオ』弄ってリューク様をぼこぼこにする気だ。

 リューク様にノア様が敗北するっていう未来を無かったことにするために。

 ノア様の計画に支障がない範囲で、リューク様をぼこぼこにする気だ……!


 その証拠に、この場に連れてきているボスモンスターがおかしい。


 呪いでやることなすこと上手くいかなくなっているドジッ子ラヴェントゥーラ神は、呪いが解けるまで直接自分で戦う場面は避けがちになる。

 だって直接戦闘しようものなら、呪いがダイレクトに効果を及ぼすから。

 多分確実に、過剰に頭上や足元で何かが起こる。

 頭上から降って来るタライや植木鉢を避けながら格闘戦とか、私なら嫌だ。

 『ゲーム』の中盤位まで、配下の魔物を連れてきて自分の代わりに戦わせるって場面が目立つ。

 そこは今この場面でも変わらないらしく、『ゲーム』と同じくリューク様の相手を務めるボスモンスターがここに連れてこられている訳なんだけど。


 蝙蝠型なのは、『ゲーム』の時と変わらない。

 だけど難易度がおかしい。


 メイちゃんの記憶が確かなら、そいつ、『ゲーム』ではここのボスモンスターより15くらいLv.高くなかったっけ?


 現段階で、リューク様達がどのくらい強いのかわからないけど。

 初期イベントのボスより15もレベルの高い魔物とか、ここに出るのはおかしいよね?

 リューク様はノア様の計画に必要だから、殺す気はないだろうけど。

 明らかに過剰戦力をぶつける意味は、リューク様を敗北させる為って答えしか出てこない。


「『ゲーム』のラヴェントゥーラ神が最後まで果たせなかった任務……私がわからない訳ないよね?」

「だから、貴女とは会いたくなかった。どう考えても邪魔されるのはわかり切っていた」


 ラヴェントゥーラ神の、私を見る目が変わる。

 鋭く、剣呑。

 邪悪なナニかすら感じ取れる。

 いや、うん、リューク様に対する目的が邪悪だもんね。


「私に敵対するというのであれば、貴女がセムレイヤ様の庇護を受けていようと関係ない。無関係な民として大人しく息を潜めていれば、放置もしたが……邪魔をするのなら、死を覚悟してもらおう」

「リューク様をぼこぼこになんてさせない。それに、刻ませもしないよ。

 ――ノア様への、服従紋章なんて 」


 そんなものを刻まれたら。

 ノア様を倒すことも、生き延びることすら難しい。

 リューク様が正真正銘、ノア様の操り人形になってしまう。


 ここは、絶対阻止。

 ストーカーとしてリューク様の危険は陰ながら排除させてもらいます!



 大丈夫、相手はドジッ子だ。

 いくら相手が神様でも、私との実力差が激しくっても。

 勝手に自滅してくれる敵が相手なら、やり様はあるもの。


 私は此処に来る前、ルイ君達に預かった……危険物を、そっと手に握った。






さあ、果たして『危険物』の効能は……!?


a.とける

b.爆発する

c.触手

d.蒸発する

e.凍り付く

f.電撃

g.火柱


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