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8.大地から湧き出すもの



 皆様ごきげんよう。

 まっしろ羊の獣人メイちゃん15歳です。

 

 現在、私は10年間苦楽を共にしたお師匠様のヴェニ君と絶賛追いかけっこ中☆

 うふふふふ、捕まえてごらんなさ~い☆


 嘘です。

 捕まえないでください。

 っていうかどうやったらあの兎師匠振り切れるんですか誰か教えて。

 っていうか執念深い、執念深いっていうかしつこ過ぎるよヴェニくーん!


 魔物が襲ってきた!

 その衝撃と驚きと混乱に人並みごった返す王都の真っただ中。

 私とヴェニ君は、表も裏も大小も関係なく入り組んだ路地と言う名の迷宮を疾駆中。

 追うヴェニ君と、追いかけられる私。

 その追走劇は、まさに縦横無尽。

 何とか安全地帯を探して避難しようと大慌てな王都の皆々様には大変ご迷惑をおかけしております。ごめんね……!

 自分で言うのもなんだけど、人の流れに関係なく、空気も読まずに爆走鬼ごっこを開催している2人組とか迷惑以外の何物でもないよね!

 だから止めよう?

 追いかけるのは止めよう、ヴェニ君。


「もう勘弁してよー!」

「待てコラ止まれ猪娘! 勘弁してほしかったら俺の納得できる説明ちゃんとしろや!」

「それが出来たら逃げてないもーん!」

「どさくさ紛れに認めやがったな。いい度胸だ、猪。俺に叱られるのは織り込み済みで自白出来ねえって何を隠していやがる。そんなら相応の覚悟して逃亡してるんだろうなぁ……! 何やらかすつもりか知らねえが、どうせ碌でもねえことだろ」

「ヴェニ君、弟子(わたし)のこと信用してないの!?」

「俺の弟子に信用できる奴は1人もいねえ! むしろ不信感煽るヤツしかいねーよ!」

「言い切ったよこの師匠!」


 本当、何をどうやったら振り切れるの。あの師匠。

 ミレニアおねえさんよりも余程手強いのはわかりきった事実だけど。

 単純な足の速さだけなら黒馬(パパ)の血のなせる業か、私の方が上なのに。

 1ヵ月前に4人でタイム測ったばっかりだから、それは確かだよ!

 だけど追いかけっこは、単純な足の速さばかりが勝敗を分けるとは限らない。

 その現実が、如実に突きつけられている……!

 反応速度と反射神経、それから障害を前にした時の咄嗟の判断能力が格段に高いんだよ! あの師匠!

 瞬発力の塊だしね! そこは流石は兎獣人さんって感じだよね!

 お陰で振り切ろうにも振り切れない。

 むしろぴったりついてくる。

 あれ、私の行く先確かめる為にわざと泳がせられているような気がしてならない。

 いやいや姿を見せて堂々と追いかけてる時点で、泳がせてる訳じゃないか。

 ……延々続く追いかけっこで消耗させて、逃げられないと観念させるのが目的とかじゃないよね?


「っつうかテメェ、今ここで逃げてっけど後で落ち着いたらどうなるかわかってんだろうなー!?」

 

 それがいちばん怖いよね。

 今は逃げて、逃げ切れたとして。

 騒動が落ち着いたら……何をどう逃げ回ったとしても、いつかはヴェニ君に叱られる時がやって来る。

 でもメイちゃん、そんな先のことは考えない!

 今は何より、目先の欲求が……リューク様達の活躍を見逃しちゃうかもっていう恐怖の方が大きいもん!

 だから、私はヴェニ君に謝った。口先だけだけど。


「ごめんね、ヴェニ君ー! 私、今は逃げる!」

「だから理由を言えっつってんだろうが!」

「言えないの! 察して!」


 察して、っていう言葉は便利だよね。

 私に言えない事情がある。

 そんな返しは予想していなかったのか、それとも私の声が本気(マジ)だったからか。

 ヴェニ君は一瞬、言葉に詰まったような顔をして。

 ほんの少しだけ、追跡の速度が緩まった。

 その隙を見逃すメイちゃんではないよ……!


 私は我らが師匠の僅かな隙に合わせて、懐から取り出した『革袋』を明後日の方向へ全力投球した。

 ヴェニ君は唖然とした顔を見せつつ、すぐにハッとなって革袋の行方に目を走らせる。

 そして血相変えて、革袋を負って全力疾走しはじめたよ!

 うん、勘違いって怖いね。

 私は腰のポーチに手をやって、感触を確かめる。

 そこには依然として、『革袋』に入れた『危険物』が納まっている。

 ウィリーと謎の新人さんとやらが独断で作ったっていう、危険物が。

 ……そういえば『危険物入り革袋』とさっき投擲した『革袋』ってすっごくよく似ていた気がするなぁ。同じお店で買った3つセットの革袋だもん、似ていて当然のような気もするけど、きっと気のせいだよねー(棒)


 ほんとヴェニ君、ごめんねー!


 口ほどには悪いと思ってないけど。

 いや、口調もさほど悪いとは思ってない感じだった気がするけど。

 とにかく私は、ヴェニ君の追跡を更に警戒してちょっと遠回りしつつ……


 それでもようやっと、快速メイちゃんは王立博物館に辿り着いた。

 ……ん、だけ、ど。


 王都についてすぐ、下見したからちゃんと知ってる。

 この博物館が、どれだけしっかりした門や扉を持っていたのか。

 貴重な品々を収蔵しているから、閉館している時は誰も立ち入れないように厳重な管理と施錠が徹底されていた。

 なのに、なにこの有様。


 いま、目の前では予想外の有様が広がっております。

 博物館の玄関は内側から吹っ飛ばされたような破壊痕が残り、壊れかけた門扉を遮蔽物として押し留めるように、周囲には王都の軍人さんの制服を着たおにーさん達が半包囲。

 原因は……うん、あれだね。

 まだ王都の中まで、魔物は本格的な侵入を果たしていない、はずだったんだけどなぁ……

 何故か、博物館の敷地内に魔物がうようよいるんですけど。

 そして敷地から飛び出そうとしては、博物館を囲んでいる軍人さん達に跳ね返されている。

 なにこの状況。

 わからない……そんな時は事情を知ってそうな人に聞いてみよう!

 博物館包囲網に参加しているちょっと手隙っぽい軍人さんに突撃するよ!


「あ、あの、これは一体どうしたことなの!?」

「っ近付いたらいけない! ここは危険だから避難するんだ!」

「いや、何が起きてこんな魔物まみれに……」

「古い地下水道だ。魔物どもめ、正面から堂々と殺到してくるのとは別に動いていやがった!」


 聞き出した説明の要点を纏めると、こういうことでした。

 王都の地下には、今では使われていない古い地下水道があったらしいんだけどね?

 今では打ち捨てられたそこを、魔物の別動隊が秘かに伝って王都に侵入。

 突然、地下から湧き出してきたー!っていう状況みたい。

 新しく作られた建築物や道やらが敷かれた場所は、侵入口もないし大丈夫なんだけど。

 でも王都の各所にいくつかある、古い建物には地下水道を引いていた名残があったとかで。

 そんな建物のひとつだった博物館も、魔物に占拠されたらしい。

 へー、そうなんだー……ああ、だから『ゲーム』でもどこからともなくあんなに魔物が湧き出して……って一大事だよね、それ!?


「幸い、地下水道のことを調べていた学者がすぐに気づいて指摘してくれたからな。魔物が通り抜けられそうな出口のある場所は既に押さえてある。魔物を押し留めつつ、地下水道に通じる穴を塞ぐ為の作戦中なんだ我々は! だから早く避難してくれないかなぁ、お嬢さん!?」

「うん、事情はよくわかったよ! 忙しいところごめんね、お兄さん達! それじゃあ私はここを離れるね!」


 涙目で早く離れてくれとお願いしてくるお兄さん達に、手を振って。

 私はその場を離れました。

 え? 博物館への突入を諦めるのかって?

 そんな訳、ないよね。


 別の出入り口を探して、潜り込む。

 これしかない!


 一応、裏口にも回ってみたけど、当然ながら軍人さん達に封鎖されていた。

 となると、選べる手段はそんなに多くない。

 博物館は古い建物だからか、独立した区画に建っている。

 他の建物とは、ちょっと離れた感じ。

 そのお陰で軍人さん達も包囲しやすいんだろうけど……さてどこから侵入しよう。

 目星をつけたのは、良い感じに張り出した3階のテラス。

 魔物がわらわらな1階は軍人さん達も注意してるけど……頭上って、盲点なんだよね。

 メイちゃんはテラスのお向かいから微妙に横位置ズレた場所に生えている、大きなモミの木に目をつけました。よじよじ登って、竹槍をえいやって構える。

 紐をつけた竹槍を投げてー、テラスの柵に引っ掛けてー、飛び移る!

 よし、完璧!

 

「さて、行くか」

「――さて行くか、じゃねーだろバカ娘」

 

 脳内計画通りに侵入計画を遂行しようとしたら、後ろからぐいっと頭を引っ張られた。

 自然と首が仰け反って、とっても苦しい!

 でもそれ以上に、背後から聞こえてきた声が! 声が!

 振り返りたくない!

 でもぐいぐい引っ張られた頭が、視界に逆様の見慣れた顔を映し出す!


「ヴぇ、ヴェニ君……?」

「行くか、じゃねえよな? 馬鹿メイ」

「なんでここにヴェニ君が!」

「なんでじゃねえよ。なぁんか追いかけっこしてる時から妙に避けてる方角があるのには気付いてたからな。余程、俺には近寄ってほしくねえのかと。後はお前を見失った後、何となく当たりをつけて探してたらお前を見つけたって次第だ」

「わ、わぁ☆ 流石、私達の師匠ー……行動パターン読まれてるー」

「それで? お前は何しようとしてやがったんだ、おい。この博物館、地下水道から魔物が湧き出て今日は閉鎖だって話だが」

「え、えと……あの、そう! そうなの、実は博物館の中に怪しい人影が!」

「……それいつの話だ?」

「えとえとその、王宮に向かって屋根の上走ってるときにチラって見たの! それが気になってつい!」

「………………試合場から王宮まで一直線に向かったとして、ここ直線ルートからは外れてるよな?」

「細かいことは気にしなくって良いの! 兎に角怪しいから私は様子を確かめに来ただけ!」

「ほーう?」


 ついつい苦し紛れに、適当なことを言っちゃいました。

 だけど、まるっきり嘘って訳でもない。

 別に私が直接中の様子を確かめたとか、本当に怪しい人影を見たって訳じゃないけど。

 でももし既にスタイン・ライトルタが突入していたら、少なくとも1人は博物館の中に誰かがいること確実だし、『ゲームシナリオ』の流れを逸脱していなかったら中ボス『ラヴェントゥーラ』が博物館に乱入してくるはずだから。

 だから、現時点では見つからなかったとしても、博物館に『怪しい人影』が現れることは確か……な筈なんだよ。

 ………………あれ? でも魔物が湧きまくってるんだよね。博物館。

 そんなところに、スタインが……? え? もしかして1人で?

 ……スタインは、戦闘補助要員です。

 戦えなくはないけど、戦闘アシスト的な立ち回りが主なキャラです。


 そんな男が、魔物の巣窟にたった1人。


「メイの言葉をどこまで信用したもんか判断つかねえが。もし本当に怪しい奴ってのがいるんなら……今のこの状況だぞ? 触らぬ神に祟りなし、怪しい人影を見たって通告だけ軍人にしといて俺らは撤退を……って、おい? メイ?」

「ごめんね、ヴェニ君……! 私、行かなきゃ!」

「あ……あーっ!?」


 ヴェニ君の、冷静な状況分析とか、引き留める声とか。

 そんな諸々振り切って。


 私は、跳んだ。

 

 博物館の3階テラスに向かって……!

 助走も、竹槍の助けもないままに。

 それら全部がまだるっこしい気がして、ヴェニ君の手を振り解き、無助走で跳んだ。


 ひとって、無理を押し通せば道理が引っ込むものなんだね。


 私、またひとつ賢くなったよ!

 無助走でも、足場の不安定な木の上でも。

 私の脚力なら、イケるってことを知ってしまったよ。

 火事場の馬鹿力的なヤツだったのかもしれないけどね!

 

 考えてみれば、民家の屋根くらいだったら普通に跳び乗れるしね、私。

 さっきも屋根から屋根へとジャンプしまくってたしね、私。

 やろうと思えば、出来たみたい。

 気がづいたらメイちゃんは、博物館の3階テラスに着地していた。

 メイちゃん10.00点!

 

 思わず得意げに、後ろを振り向いて。

 木の上にぽつんと取り残された、ヴェニ君の怒りの形相を見てちょっと息が止まった。

 やべ、殴られる。

 ヴェニ君、来る気だ。

 師匠の次の行動を瞬時に理解して、私は思わずテラスから博物館の室内へ滑り込んだ。

 そのまま同時に、ぴしゃっと窓を閉めてきっちり施錠!

 そしてそのまま博物館の廊下にダッシュした。

 ヴェニ君が追って来る!

 確実に、絶対に追って来る!

 ここで捕まる訳にはいかない。

 その一心で、私は逃走を再開した。

 広い屋外と違って、隠れる場所には事欠かない博物館。

 だけど、『ゲーム』のシナリオが展開するだろう、博物館。

 ヴェニ君との追いかけっこで、シナリオを阻害しちゃうようなことにならないと良いんだけど……!

 というか私は、落ち着いてシナリオの確認できるのかなー!?



 




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