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短編小説・ヒューマンドラマ

先生、いつまで人気キャラに頼っているつもりですか?

作者:馳河
「先生、あの、何と言うか……。最近の作品、全体的に似てませんか?」

 出版社に勤める私は、複数人の作家を担当している。今日ご自宅に原稿の受け取りに窺っているのは、一か月に単行本五冊分を書き上げたこともある多作・速筆で有名な先生。デビューからの長い付き合いだ。

「いやー、僕でもそう思うんだけどさ、僕って作品の質というより、量と速さで食ってる作家じゃん?だから一から設定を練り直すよりさ、既存の人気キャラで物語を作った方が僕としては楽な訳よ」

「確かにそうかも知れませんが……。はっきり申し上げて、いま先生が書かれている小説は既存作品の引き延ばしでしかないように感じるんです。デビュー当時のような、世の中に喧嘩を売りまくる先生はどこに行ってしまったんですか」

 先生は眼鏡を外し、無言で手入れを始めた。それから暫くして、再び耳に掛ける。

「……。どうしたらいいと思う?」
「って、たっぷり間を作った後に言う言葉がそれですか。痛烈に言い返してくれると期待してたのに……」
「だってぶっちゃけ分かんないんだもーん。そりゃあデビュー当時は尖ってたよ?自分で言うのもなんだけど、とにかく若かったし。でもあれから十年以上も経ってるんだぜ?僕もおっさんになるわけだ」
「あの時の気概はもう失ってしまったんですか?」
「うーん、色々と考え方も変わったしねぇ。肉体と同時にそういう部分も衰えてくるのかね」
「でも、作品の執筆速度は当時より上がってますよ」
「それは僕でも不思議」

 私は先生の原稿の入ったカバンを持ち、帰り支度をする。
「まあ、私は先生の作品はどれも好きですけどね。もちろん今の作品も」
「じゃあいいじゃない」
「だからこそ、先生はもっとやれると思うんです。言っておきますが、先生以外の作家さんにこんなこと言いませんよ?みなさん繊細ですから、出しゃばった真似はできません」
「なにそれ、僕が繊細じゃないみたい」
「先生の持ち味は持久力、タフさですよ。現状維持に甘んじているのはもったいないです、更なる地平を目指して走り続けて下さい」
「おじさん相手に容赦がないねぇ、君は。そこが君の良いところでもあるんだけどね」

 先生ご自宅を辞し、近くでタクシーを拾おうとしていたとき、先生がスリッパをはいたままの姿で私を追ってきた。

「先生、夜逃げでもするつもりですか?」
「こんな昼間から夜逃げをする奴がいるかい?君に渡したい原稿が一つ増えたんだよ、持って行っていくれ」
 そう言って、先生は中身の薄い封筒を手渡してくる。

「どんな内容なんです?」
「君をモデルにした敏腕編集者が大物作家たちからバリバリに原稿を脅し取るお話だよ。暇つぶしに書いたつもりなんだけど、結構面白いんじゃないかとさっきまでの君のやり取りの中で思ったんだ」
「はあ……」
「その原稿を煮るも焼くもそのまま食べるも、君の自由だ。好きにしてくれ」
「分かりました、どこかしらの雑誌への掲載を検討してみます」

 出版社へと向かうタクシーの中、後ろを振り向くと、肩で息をする先生がまだ同じ場所に立ちつくしていた。

 スタミナのない普通のおっさんが描くめくるめくストーリー、私が必ず最高の形で読者の元へ届けます。

 もちろん、モデルが私であることはぼかしますが。






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