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海桜に雪芒と  作者: 藤泉都理
三巻 おうぎを舞いし染の運命編
61/66

おうぎを舞いし染の運命 二十三




 仁の区画、漆黒町、絶滅危惧種『ほの』が地生する森にて。


(まあね。まあ。分かるよ。トキが父親だって名乗ったのは。十三日後の『扇の舞』に向けて、氷月の傍から離れないようにするにはどうすればって考えた結果。父親だって名乗ったんだろうって事は。雪晶ゆきあき殿に出て行くように言われた氷月ひづきを何とか元気づけようと。多分。しようとして、父親だと名乗ったんだろうけど)


 『扇の舞』の特訓は明日からするので今日は身体を休めるように。

 錦秋きんしゅうの忍(国王直属の部下に属する名称)からそう伝えられたのは、紅凪こうし、氷月、仙弥せんや、トキがぎゅうぎゅう詰めに秘密基地に入って、具なしの蒸しぱん二個と芋餅四個、焼き栗十二個を仲良く分け合って、和気あいあいと食べ終わった時の事だった。

 それならば四人で新しく秘密基地を作ろうと仙弥が主導しながら、竹を伐っては紐で結んで、竹を伐っては紐で結んでを繰り返し、てきぱきと各々が動き終えて、四人が悠々と立てて、かつ、横になれるほどの大きな半円状の竹の秘密基地が完成し終わって今。

 ほどよく太陽の光と風が入ってくる秘密基地の中で、錦秋の言伝を届けてくれた忍から手渡された、煮卵入りの大きなおにぎりと、竹筒に入った豆腐と長ネギとわかめの味噌汁を昼食として堪能していたのであった。


(………氷月はよくトキを父親だって受け入れられたよな。『雪芒』みたいに特別な力を持っていて、見た目は俺そっくりに見せているけど、実は五十代のおっさんなんだって言われたら。まあ。納得できる。か。それに。仙弥も杏梨も言ってたっけ。氷月はトキに対して、垣根が滅茶苦茶低いって。下手をすれば、俺や仙弥よりもって………まさか本当の親子。とかじゃないよな。だって、トキは時の神様だし。神様って結婚できるのか?いや。でも。もし本当に親子だったら、今迄氷月を見殺しに。し続けるわけがないよな。すぐに時の世界なり、もっと平和な世界なりに連れ去ればいいわけだし)


 ずずず。

 四人で円座になって食べ進める中、紅凪は音を立てて味噌汁を飲んでは、おにぎりに齧りついて、右隣に座るトキと左隣に座る仙弥の話に相槌を打って、真向かいに座る氷月を盗み見しながら思考を巡らせていた。


(トキも氷月を気に入っているようだし。まさか、惚れた?いやいやいや。惚れたなら父親だって言うか?実は婚約者だって言った方が。そういや、氷月の出自って今迄考えた事はなかったけど。どうなんだ?実は他国の姫様だって可能性もないわけじゃないんだよな。氷月は親に捨てられたって言うけど、その時の記憶があるわけじゃないし。気が付けば、雪晶に拾われていたって。その前の記憶はないって。捨てられたんじゃなくて、離れ離れになっただけじゃ。例えば、他国の人間が『扇晶国』に旅行中に、離れ離れになったってんなら、警備所に届け出が。いや。出るか。でも、氷月の迷子届け出はなかった。なら。やっぱり、親に捨てられた。の。か。仙弥もそうだけど。仙弥は微塵も見せないけど、やっぱ、捨てられた事に対して複雑な感情が渦巻いているんだろう、な。それとも、すっぱりきっぱり吹っ切れているんだろうか。訊いた事はないし、多分、これからも訊く事はないだろうけどよ)


「おい。紅凪。婚約者をそっちのけで、仙弥ばかり見ているのは感心しないな」

「トキ様。紅凪王子と仙弥殿はとても仲がいいので、紅凪王子が仙弥殿ばかり見ているのは至極当然の行動です」


 にたりにたり。

 含み笑いを盛大に向けるトキにいち早く反応を示したのは、紅凪ではなく氷月だった。至極真面目な声音で言ったのだ。


「いや。単に俺の煮卵入りのおにぎりを狙ってるんだろう?やらないぞ」

「俺のもやらないからな」


 呆れ顔の仙弥とにたり顔のままのトキに違うわと噛みつこうとした紅凪だったが、できなかった。すいっと氷月が淀みなく紅凪へとおにぎりを差し出されたので、思わず口を噤んでしまったのだ。


「でしたら、私の煮卵入りおにぎりを差し上げます。まだ一口も食していないので」


 紅凪は氷月の味噌汁の入った竹筒を覗いた。あと三口くらいで飲み干せそうな量であった。


「食欲がないのか?味噌汁は。食べられているみたいだな」

「はい。多分。あの。本当の父親に会えた驚きや喜びでまだ胸がいっぱいで、食欲が湧き起らなくて。味噌汁だけでも十分栄養は取れていると思いますので。どうぞ」

「一口も食べられないか?半熟で、砂糖醤油味が濃厚なのにくどくなくて、米にも味が付いてて、美味いぞ」

「だったらそれは紅凪にくれてやれ。氷月には俺の残りのおにぎりをやる。一口分ぐらいだ。これなら食えるだろう?」


 トキは氷月に煮卵が半分残りご飯が少なめのおにぎりを口元に持って行った。氷月はトキとトキのおにぎりを交互に見てのち、ありがとうございますと小さく頭を下げて、口を開いたその瞬間、紅凪が目にも止まらぬ速さでトキのおにぎりをかっさらうと大きく口を開けてよく咀嚼して食べ終えると、氷月におにぎりは持っていろと言った。


「冷めても美味いから。もしも食欲が戻ったら食べればいいし。戻らなかったらその時はもらうから。な?」

「………はい」


 差し出していたおにぎりを引っ込めた氷月は膝に置いては、ゆっくりと味噌汁の残りを食べ進めたのであった。











(2024.11.19)





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