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海桜に雪芒と  作者: 藤泉都理
三巻 おうぎを舞いし染の運命編
53/66

おうぎを舞いし染の運命 十五




 仁の区画、漆黒町、絶滅危惧種『ほの』が地生する森にて。


「いけないなあ~~~。紅凪こうし。惚れた子の願いを聞いてあげたいっつー貴様の気持ちはよく分かるよ。わしも八意やごころ、貴様の母親の願いを聞いて、わしは城に八意は城下にとばらばらに住んでおるからな。寂しいのをすんごく。すんっっっごく我慢して、別居をしているわけよ」

「しょっちゅう来るから寂しくないって母親は言ってたけど」

「それはそれ。これはこれ」


 体勢はきつくないのだろうか。のっそり顔だけを秘密基地の出入り口から中に突き出している錦秋きんしゅうは、確実に足腰を曲げて膝に両の手を付いている状態だろうに。


「いや。っつーか。何だよ。いつから聞いていたかは知らねえけど。いいだろ別に。氷月ひづきが他国に行ったって。国王様だろ。全国民の意思を尊重しろよ。『扇の舞』は別の人間に舞い踊ってもらえばいいだろ」

「だあああめえええ。言ったであろう。異論は受け付けません~~~って。もう決めたの。わしと青嵐せいらん雪晶ゆきあきと氷月、紅凪と紗世さよ。変更はなしです~~~」

「あ~~~。言い方がいちいちむかつく~~~」

「それが親ってもんだ。国王ってもんだ」

「いや。絶対に違うと思うから」


 呆れた表情を浮かべていた紅凪は、いかんいかん錦秋に巻き込まれている場合ではないと思い直しては氷月に向かい合い、国王は無視して他国に行く準備をしようと言おうとした時だった。

 逃げるのか。おちゃらけた口調のまま、けれど、錦秋は鋭くそう言い放った。


「氷月。貴様もこの『扇晶国』の国民であろう。この国には今、あちらこちらで困難が噴き出しておる。国民として困難を収集すべく立ち上がるべきであろう。行動に移すべきであろう。『扇の舞』を舞い踊るべきであろう。他国に行っている場合ではないであろう。困難から逃げるべきではないであろう。そうであろう。返事を求む。紅凪はだまらっしゃいな」


 口を大きく開いて反論に出ようとしていた紅凪は、錦秋の気迫に思わず口を閉ざしてしまったが、刹那の出来事であった。腹を中心として全身に力を入れては、正座を崩して立ち上がり、錦秋に睨みを利かせて対峙した。


「ええいそんな正論知るかってんだ!!氷月が行きたいってんなら、行かせてやればいいんだよ!!国王は黙ってろ!!」

「んまあああ。王子としてあるまじき言葉。国王として諫めなければなりませんな」

「っへ!諫めろ!俺は氷月を他国に「『扇晶国』に残ります。『扇の舞』を舞い踊ります」「氷月やけっぱちになるな!!」「やけっぱちになっていません」「いいんだよ他国に行っても!!」「行きません。『扇の舞』を舞い踊ります。その後で。どうするかを考えます。私にまだこの国でできる事があるならします」「氷月!?」


 まただ。氷月は胸を痛めた。また、紅凪に痛みを露わにしている顔をさせてしまった。


(私は、どんな行動を取っても。紅凪王子を。悲しませる。だけ………でも)


 氷月は毅然とした態度で以て、正座のまま紅凪と相対した。


「意志薄弱で申し訳ありません。他国に行くと言ったばかりで信用できないのは承知の上で。約束します。『扇の舞』を舞い踊ります。絶対に舞い踊って見せます。紅凪王子を心配させないようにします」


(雪晶様は。私の顔を見たくないでしょうが)


『扇の舞』に選ばれていた話を初めて耳にした氷月。『扇の舞』の事は知っていた。

 国が困難に次から次へと襲われた時、加護の力を強め、災厄を追い祓う神事。二人一組で扇を用いて舞い踊る。


(雪晶様は私が舞い踊れないと判断したからきっと言わなかった。雪晶様も知らなかった可能性もあるけれど)


「私は今。逃げたくないと思いました。国王様が活を入れて下さったおかげです。逃げたくないです。紅凪王子からも。ですから。お願いします。『扇晶国』に、ここにいさせて下さい。『扇の舞』を舞い踊るまでです」


(あああああもう!何だってこうなるんだよ!?)


 氷月を助けられる道筋が見えたと思った矢先の出来事である。

 また道は変えられなかった。戻ってしまった。国王の、父親の所為で。


(なのに。ああもう!氷月の言葉に嬉しがってんじゃねえよ俺!)


 氷月は頭を下げなかった。ずっと、紅凪の瞳から自分の瞳を逸らさなかった。真っ直ぐに見つめていた。覚悟を見てほしいと強く迫っているようでいて、嘆願しているようでいて。紅凪は金縛りにあったが如く、身体を動かす事ができなかった。氷月から目を逸らす事ができなかった。


 紅凪の婚約者は氷月の方がいいのではないだろうか。

 そう思いながら二人を見つめていた錦秋は、無理やり連れて来ては秘密基地の外で待たせていた仙弥せんやに声をかけたのであった。











(2024.11.10)




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