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海桜に雪芒と  作者: 藤泉都理
三巻 おうぎを舞いし染の運命編
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おうぎを舞いし染の運命 二




 籤にすると錦秋きんしゅうが言ったものだから、てっきり三組の数字なり記号なりを書いた紙を箱に入れて、自分たちに引かせるのだとばかり思っていたら、錦秋が本人の代わりに籤を次々引いては、あっという間に組み合わせを決めたのであった。




 零の区画、『扇晶城』の会議や謁見時で使う建物、『一の会』『二の会』『三の会』、そして庭園を抜けて、自室のある『二の丸』へと、紅凪こうし青嵐せいらんは並んで移動していた。


「しっかし、慰労会が終わった翌日に『扇の舞』が決まるって。しかも二週間後って。結構、時間がなくね?」

「まあ。国王様が言うように、不穏な空気が漂っているからね。自然災害も小さいながらも頻発してきていると思ったら、近頃は結構大きなものも発生している。飢饉や犯罪も乱発している。国王様と雪晶ゆきあき様が一緒に『扇の舞』を行ってくれたら、もしかしたら全部吹き飛ばしてくれるかもしれないね」

「………兄貴」

「うん。何だい?」

「色々、動いてるんだろ。慰労会でも招待客の全員と話してたよな。ただの挨拶じゃなくて」

「そりゃあね。王子だから。紅凪だって。動いているだろう?」

「まあ。ただ。自然相手だからなあ。一朝一夕でどうにかできるわけじゃないし。でもまあ。頼もしい人がたくさんいて、ああ。助かったなあって。顔が広いおばばにほんと、感謝だわ」

「紅凪が市井の人たちと協力してくれて助かっているよ」

「兄貴は長官たちと協力してくれているから助かってる」

「話が通じる方たちが多くて助かってるよ。渋っている人もいるけどね」

「そりゃあ、どこでも一緒だな」


 ハハッと快活よく笑った紅凪の顔をじっと見つめた青嵐は眉を顰めた。

 一見すれば顔色がいいようだが、よくよくよ~く見れば化粧で隠している事が分かってしまう。


(猫の手も借りたいほど多忙なのは、私も同じだけど)


 時間が足りないと、焦る気持ちが休息を削り身体を突き動かしてしまう。

 大災害が起こる前に、早く対策を取らなければ、と。


(だけど、身体を壊してしまったら元も子もない)


「紅凪。ちゃんと休めているかい?」

「………まあ。ぼちぼち。体力ねえからな。俺。今だけでも仙弥せんやの体力をちょっとだけでも貸してほしいわ。っつっても、仙弥にも動いてもらってるからなあ。やっぱ。借りられねえか」

「国王様も動いている。今日も組み合わせを決めたらすぐに飛び出して行っただろう」

「そもそも国王様は城にあんまいなくて、国中をあっちこっち飛び回っているからな。遊んでるんじゃないかって噂も聞くけど?」

「その噂を信じているのかい?」

「………半々」

「半々かあ。そうだよねえ。働いている国王様って感じじゃなくて、遊び回っているおっちゃんって感じだもんねえ」

「宵越しの金は持たねえって。すっからぴんになっちまってなあ」

「でもお金がなくても困らないんだよねえ」

「そうそう。何でか人望はあるから、助けてもらえるんだよなあ」

「国王様になってなかったら、そんな人生を送っていたかもね」

「だなあ」


 しみじみと笑い合った青嵐と紅凪。少しの間だけ口を閉ざしてのち、青嵐が口を開いた。


 いつもいつも芝生がきれいに刈り込まれている庭園。芝生に吸い込まれて、足音はしない。

 いつもいつも黄緑色なのに今はところどころに点在しているだけで、ほとんどが紅茶色に変わっている。 

 綺麗だと思う。けれど、一年中黄緑色であるはずの芝生の色の変化は、自然災害を意味する。

 土の栄養がないからだ。庭園の担当者が言っていた。土の栄養がないから、色が変わってしまったのだ。そう。

 栄養が抜け落ちちまったと言う、庭園の担当者のやるせない顔が忘れられない。


氷月ひづきはまだ眠っているって?」

「ああ。トキがまた行っている」

「そっか。トキ様は氷月がお気に入りなんだね。好敵手が多くて私は大変だ」

「………なあ。兄貴」

「うん」

「氷月は諦めてくれ」

「………うん」

「『雪芒』の頭首の娘だ。自由に結婚相手を選べるとは思えねえけど。でも。王族のやつと結婚してもらいたくねえ。俺の母親のように、国王様と結婚しても、あっけらかんと生きていける人ばかりじゃねえから。重圧で押し潰されちまう人もいる。責任感が強いなら余計に」

「………うん」

「………ちょっと。考えといてくれ」

「………うん」


 色が変わっていなければ。

 青嵐は思った。芝生の色が変わっていなければ、こんな少し寂しい気持ちにならなかっただろうか。そう。思ってしまった。











(2024.10.30)




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