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海桜に雪芒と  作者: 藤泉都理
二巻 ちに繕う野花編
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38/66

ちに繕う野花 二十




 人々がとても大切にしていたはずなのに薄らとしか覚えていない、または完全に忘れてしまった風景を思い起こさせ、さらにその風景の一部を依頼人の白扇に映し出す事ができる、その能力。を、あろう事か、悪用する輩が出現した。


 己が復讐の為、他が復讐の為。


 人々が忘れたいと強く願う風景を、忘れかけていた忌まわしき風景を、より鮮明に思い起こさせるのだ。


 『雪芒』の能力に、人間と文字を思い起こさせる事はできず、白扇に映し出す事もできない。


 ならば、と、安堵する者もいるだろうか。

 人間と文字がない風景など、恐怖をもたらしはしない、と。


 否。


 人間と文字がなくとも、甚だしい恐怖に襲われたのならば、風景だけでも十二分に心身を蝕まれてしまう。


 『雪芒』は人々の心の安寧をもたらす為の能力であり、人間集団であり、公に認められた組織である。

 その『雪芒』が、徒に人々の心を乱すとは、心を恐怖で染め上げて、蝕み、絶望に陥れるとは言語道断だ。


 雪晶は激昂しては、水面下で『雪芒』を悪用した同胞を罰した。罰し続けた。

 ずっと、ずっと、

 もういないだろうと思うほどに罰したとしても、次から次へと現れる。

『雪芒』を扱える能力者は多くはない。にも拘らず、次から次へと絶える事はない。


 最早、『雪芒』を悪用する者しかいなくなってしまったのではないだろうか。いや。いいや、違う。悪用する者だけではないと、知っている。現実にいるではないか。なのに何故、いないと、皆無であると錯覚してしまうのか。

 徐々に、雪晶ゆきあきの心も蝕まれていく。


 『雪芒』に希望を見出したいのに、そうできない。

 『雪芒』は本当に必要なのか。滅亡すべきではないのか。今や悪用する為の手段としてしか見られていないのならばいっその事。


 自らが『雪芒』に引きずり込んだ義理の娘すら、


 そもそもが、娘の意思に反して無理やり連れて来た。『雪芒』に。生ある世界に。

 カイに見せられた娘の最期はいつも笑みを浮かべていたではないか。

 死を望んでいたのだ。娘は。

 それを、自らの我が儘で生かし続けた。

 もう、娘の望む世界に帰すべきではないのか。




「おまえの望みを。今度こそ、」











(2024.10.29)




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