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海桜に雪芒と  作者: 藤泉都理
二巻 ちに繕う野花編
28/66

ちに繕う野花 十




 疫病、食糧難、異常気象、戦争、虫や動物の暴走、原因不明のナニカ。

 一つの災厄が新たな災厄を呼び、時には総てを引き起こす。

 そうして或る一つの大陸中に災厄が広まって数年経った或る日。

 数十ある小国の内の一つの『扇晶国』の国王。

 神の加護を受けた扇で以てして、数か月で災厄を薙ぎ払う。

 それでも、痛ましい現実が各々を蝕む中、奮起した八か国の小国、加護と幸福を受けんと国王に跪く。

 どうか、私たちの国をあなたの国と統合させて下さい、と。

 こうして小国九か国が集まって、今の『扇晶国』となった。

 小国九か国は『扇晶国』に統合された後、それぞれの国名を『道名』と改め、昔の境界線をそのままにそれぞれの王族が統治しており、統合する以前、小国だった頃の『扇晶国』の領土を王都と決められた。

 むかしむかしのおはなし。

 いいや、昔語りとするにはまだそう時間は経っていないとか。仔細を知る者が少なくなっただけだとか。傷はまだ癒えていないとか。そう口にする者も少なからずいる時代。

 弦歌六六七年。


 何故、口にする者が少なからずいるのか。

 それは、生活困難にさせるほどではなく、微々たるものだが、災厄が頻発しているからだ。


 少しずつ少しずつ、病が広がり始めている。

 少しずつ少しずつ、食べ物が育たなくなり始めている。

 少しずつ少しずつ、微弱な地震や大雨、竜巻の発生頻度が多くなり始めている。

 少しずつ少しずつ、虫や動物が人間の住むところに出現しては悪さをし始めている。

 少しずつ少しずつ、人々の記憶に影を落とし始めている。経験した覚えのない災厄が記憶に割り込んでくる。


 これは予兆ではないか。

 また、災厄が、たくさんの災厄が一斉に発生しては、私たちの暮らしを壊すのではないか。

 少しずつ少しずつ。人々の生活にも影を落とし始めている。


 いいや。

 一人の人間が言った。

 いいや違う。

 ここは現実ではないと荒唐無稽な事を言い出した。

 『雪芒』の連中は私たちの記憶の中に入り込める。

 『雪芒』の連中は自分たちの異能を使って、私たちに虚構の災厄の記憶を植えつけて行っているのだ。

 少しずつ少しずつ、『雪芒』の連中はそうして私たちに災厄の記憶を植えつけ、芽吹かせて、開花させてようとしているのだ。

 私たちを絶望のどん底に陥れては、私たちに囁きかけるのだ。

 『雪芒』が救済すると。

 そう。『雪芒』はこの国を手中に収めんと動き出した。

 いや、もしかしたら、『雪晶国』の昔語りすら、『雪芒』が創り出した虚構の物語なのかもしれない。 尊い『雪晶国』物語を、私たちを絶望に陥れる道具としてしまったのだ。

 いいや。いいや。今見ている光景すらすでに、『雪芒』が創り出した記憶なのかもしれない。

 私たちの本当の世界では、災厄など一つたりともないのかもしれない。

 ああ、なんと嘆かわしい。腹立たしい。

 ゆるすまじ。『雪芒』をゆるすまじ。

 『雪芒』を信じるな。『雪芒』をこれ以上私たちの記憶の中に入り込ませるな。

 この国で『雪芒』を自由にさせるな拘束しろ。『雪芒』をこの国から追い出せ。


 一人の人間が荒唐無稽な事を言い出した。

 最初はみんな、一人の人間の言葉を嘲笑しては、背を向けて歩き出した。

 けれど、それがああ、どうした事だろう。

 一人の人間の荒唐無稽な言葉を信じ始める人間がほら、こんなにも。

 どうした事だろう。どうした事だろうか。

 どうして、国中のあちらこちらに信じる者がいるのだろうか。

 一人の人間は、一人の人間の元に集まった人々へと拍手喝采を贈った。

 そうだみんな、『雪芒』を追い出して、私たちの楽園を取り戻そう。






 参の区画、黄檗町。雪芒の修行場にて。

 蝋燭が横壁に灯されている地下階段をひたすら下りた先に出る、半円状の広い空間の中央で座を正した氷月ひづきは胸元から取り出しては地面に置いた、雪晶からもらった白扇をじっと見つめた。白扇の右端には灰色の枯れた植物が描かれている。

 その灰色の枯れた植物の花や葉、枝、茎、根の色や形、質感、温度を細かに想像し、種に戻せ。期間は五日。

 もう三日は過ぎてしまったので、今日を含めて、残り二日。

 いくら植物本を読んだとて、まだ何も思いついていないと、絶望の淵に立たされていた事だろう。

 仙弥せんやの蒸しぱんがなければ、

 氷月は少しだけ力を抜いて身体を丸めてのち、また背筋を伸ばして目元に力を入れ、頭の中に直接語りかけてくる声に、揺らぎない声音で答えたのであった。











(2024.10.23)





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