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第五十二話「語り部」

 大変長らくお待たせしました! すいません!


 いつもより1000文字程度長いです!





『それはね、僕が罠にはめられたからさ』


 鍛路ユウキは自嘲気味に呟く。


「罠…?」


『ああ。罠だ。僕は、数多くのスキルを持っておきながら、それを一切使えない。スキル【禍血(マガツ)】のせいでね』


「それで?」


『故に、僕の戦い方は武装に武装を付与する事に頼りきったものになる』


「つまり、そこに漬け込まれたワケか」


『不覚ながら、ね…』


 鍛路ユウキは苦笑いしながら肩をすくめると、真顔に戻り話を続ける。



『……僕はね、この世界の人間ではないんだ。…この地球は僕の知る地球ではなく、多分それのパラレルワールド。僕の知る地球には、イデアなんてないし、日本は帝国でもない』


 にわかには信じられないような話だが…。理論上は確かにあり得る。そういえば霧式碧の記憶の中にある空間魔法でもパラレルワールドに関する知識があった。



「…つまり…お前はここでも異世界人なのか?」


『まあそうだね。僕のいた地球はこの世界じゃない』



 そう言う鍛路ユウキ曰く、彼の故郷はこの世界より科学力は低レベルであり、少なくとも超常的な力を表立って使用できるような所ではないらしい。

 考えがたい環境だな…。



「じゃあ何でお前はこの世界にいるんだ?」


 純粋な疑問をぶつける。


「それはただの事故。地球に帰還しようと思ったら【羅針盤ディメンション・セット】が壊れて別のパラレルワールドに飛ばされちゃったんだと思う」



「…何で壊れたんだ?」


『魔力流入量が素材の魔力抵抗値を上回ってしまったんだ。飽和状態に達した魔力が空間魔法の座興特定に…』


「ああああ。わかったわかった。難しいことは言うな。今は頭が疲れてんだ。理解したくもない」


 俺がそう言うと、鍛路ユウキは渋々といった感じで、話をやめる。


「で、この世界にきて、お前に何があった? 武装のない状態で漬け込まれたってどう言うことだ?」


「ああ。すまない。うだうだしているうちに時間が来そうだ…。本当の霧式(ヤツ)の干渉を、もう押さえ込めな…」


 俺はそう言う鍛路ユウキの姿が…いや、白い空間ごとぶれているのに気が付いた。映像に走るノイズのようなものがだんだんと鍛路ユウキという存在を不確定なものにして行く。


「時間が来る…? ヤツ? …チッ、消えるってんなら俺の質問に答えろよ!」


「…分かってるよ。時間がないからヒントだけだけど…。帝国日本の上は全て真っ黒だ。気を付けて」


 その言葉を最後に白い空間に一際大きなノイズが走り、気がついたら俺は元の部屋にいた。



「上層部が真っ黒…ね…」



 最後の鍛路ユウキの意味ありげな台詞が気になる。恐らく、ヤツのいう“罠”と関係があるのだろうが…。


 俺は、鍛路ユウキを拒絶ばかりしていたけど、うまく利用すれば何かに使えるかも知れないな…。

 それに、鍛路ユウキの名前も正しく確認できたし、ヤツがこの世界の人間ではないこともわかった。

 あの白い空間で、満足に話を聞くことはできなかったが、収穫はあったな。




「…それにしても…。既読、つかないな…」


 俺は昨日、自室に戻ってから、聖岳ちゃんに全てを打ち明けた。


 俺が異世界に召喚された鍛路ユウキと霧式碧の記憶が混ざりあって生まれた人格だということ。


 イデアが使えない変わりに魔剣であらゆる事を誤魔化してきた事。


 味方を作っておいて損はない。ゆくゆくはクラスメイトにもこの事は話すつもりだ。


 だが、肝心の聖岳ちゃんに連絡がつかない。


「嫌な予感がする…」


 俺は妙な胸騒ぎを覚え、適当な服を見繕って着替えると、そのまま部屋を後にした。





      †  †  †





 時刻不明、所在不明。


 真っ暗な部屋の中に、滓我(かすが)大騎(だいき)は幽閉されていた。


 入り口は固く閉ざされ、唯一ある窓にも鉄格子がはめられている。



「…【ケn現ぜ夜(顕現せよ)】…【|kんげnぜ、せ、…よヨ。…あ、ご…がひ…」


 力なく呟く滓我(かすが)大騎(だいき)の様子はあからさまにおかしい。


 髪は色素が抜け落ちたかのように真っ白になり、頬は痩せこけている。

 そうしてその目には憎悪、悪意、殺意等といった負の感情が濁りきって浮かび上がっているのだ。


 滓我(かすが)大騎(だいき)を苦しめているのは、彼の頭の中に埋め込まれ、脳と接続されたマイクロチップだった。


 否、その言い方だと語弊があるだろう。


 大騎(だいき)は、マイクロチップの中に保存された、三十五人分の生きた(・・・)脳データによっておぞましいまでの苦痛を味わっていた。



『おとうさん、おかあささささささささんんん』

『あああああ!!! 外へ出たいいいいいィィィィィぃ!!』

『あひ、あひひひひ』

『体を貸せぇえ!!』

『死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!』

『おぅぶaるgかbぉあaあびゃぶげh』

『サナカヤキサハラカナヤワカニ』

『こコかラララらららら、だ、ダ、だだだだダダシテテテテテ』



 頭の中に…いや、自分の中に無理矢理入ってきた他人は、容赦なく大騎(だいき)を蝕み、彼の人格を殺して行く。


 そうしてどれ程時間がたったのだろうか。

 壊れかけの滓我(かすが)大騎(だいき)は、自分がこんなことになってしまった原因を、現実から逃げるように回想し出したのだった―――――。





      †  †  †





「おい、火崎…。ここはなんなんだよ…」


 大騎は、火崎アリスの「鍛路ユウキを殺す」という提案を飲み、ヌゥェゴモル教団の基地だという場所に連れてこられた。


 アリスの連れである、フードを目深に被った背の低い人物の“魔法”による移動のお陰で、ここがどこにあるのかさっぱりわからない。


 フードの人物は、時折発する声から、まだ幼い少女なのではないかと、大騎は勝手に推測していた。


 アリスの話によれば、フードの人物の名前は、オルネス・ギルヴァンドと言うらしく、なんでも異世界から来たのだという。

 曰く、その異世界では【大賢者】と畏敬の念を込めて呼ばれていた偉大な魔術師ならしいが…。


(…チッ、何考えてんだ俺は…。馬鹿馬鹿しいな…。異世界? 【大賢者】? …どうせさっきの【転移】も何か高位なイデアによるもんなんだろうがよ…)


 心中でそう呟く大騎だが、今になって少しばかり後悔が首をもたげていた。


(…くそ…。やっぱりこんな怪しい奴等に…人殺しに付いてきてよかったのか…? …ここはケータイも圏外だし…。クソッ…俺は何やってんだよ…)


 ちらりとポケットから電源の入ったケータイを取りだし、盗み見るようにちらりと覗くが、電波は圏外。


 アリスの言う通り、ここがヌゥェゴモル教団の本拠地なのだとしたら、当然GPS何かでも関知が出来ないようになっているはずだ。

 現代の科学を使えば位置情報の一つや二つ位、簡単に偽装できる。


 歯を強く噛み締めながら、アリスを見据える。

 こいつは狂っている。狂人に片足を突っ込んだ大騎から見ても、圧倒的な狂気を見に纏っている。

 男子寮から離脱するといった時、アリスは部屋から出ていって、少したった後、ある程度顔馴染みだった清掃員のおじさんの上半身(・・・)を持ってきた。

 なにやらそれで、俺の死体のダミーを作るらしい。


 大騎がこちら側に来たことを悟られないための時間稼ぎなのだとかアリスは言っていた。


 ここにいるのはフードの少女と、火崎アリス…あとは大騎のみ。


 大騎は腐っても元Sクラス。高い実力と実用的なイデアを持っている。


(俺のイデア、【毒殺針】を使えばコイツらを殺すなんて造作もないように思える…。…そうだ。コイツらは危険だ。…コイツらを殺して、ヌゥェゴモル教団をブッ潰しちまえば、全部俺の手柄だ! な、なら…。…やるぞ、…俺はやるぞ…)


 段々と消えて行く大騎の理性。あるのは目の前の二人を殺すための殺意だけ。

 大騎は、小さく「…【顕現せよ】」と呟くと、服の両袖に細く長い針を一本ずつ仕込む。


「な、なあ…」


 なるべく警戒を誘わないように、立ち止まり、わざと不安げな声で二人を呼び掛ける。


「ん?? 何かね? 大騎くん?」


 ご機嫌のアリスは、可憐な…しかしおぞましい笑顔を咲かせながらこちらを振り向く。

 フードの少女も立ち止まって、無言でこちらを見つめる。


「いや、言いにくいんだけどさ…。俺、トイレ行きたいんだわ…」


 にへらと笑ながら下世話な話題を持ち出す大騎。

 それが笑いの壺に嵌まったのか、アリスは大声をあげて笑いだす。


「あはははははははっっ!! なにそれ! ずっとガマンしてたの!? 男子寮で済ませときゃよかったのに! あはははははっ!!」


(今だっ!!)


 鋭い踏み込み、両腕をクロスするように降り下ろし、袖に仕込んだ自分のイデアを投擲する。

 大騎のイデア、【毒殺針】が二人の首に吸い込まれるようにして接近して行く。


 そして【毒殺針】は――――


「む。危ない」


「あ゛?」


「嘘だろッ!?」


 フードの少女には、障壁のようなもので阻まれ、アリスにはあっさりと避けられる。

 失敗、その二文字が大騎の頭の中を埋め尽くす。

 真っ青になった大騎に、アリスが顔を近づける。


「…なにするのかな~? ってさっきから考えてたら…。…やっぱりか~。独善的な君の事だからこの教団潰して手柄とっちゃおうとでも思ったのかもしんないけどさ…」


 そうして大騎の顔面至近距離で、アリスの口が三日月のように薄く裂ける。


「…もう君はダメだねぇ。…そうだ。実験の材料にでもしよっか」


「んん。それがいい」


 次の瞬間、大騎の腹部に強烈な衝撃。胃の内容物が無理矢理に吐き出される。


 チカチカと明滅する視界の中、アリスが嗤って言った。


「心配しないでね。実験が成功したら、君は偽霧式を殺せるくらいには強くなってるから…」


 その言葉を聞いたのを最後に、大騎の意識は暗転した。


 そして次に目覚めたときには。


 妙に散らかった部屋の手術台のような場所に拘束されていた。






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