第零話「THEッ、ぷろろーぐ!!」
不定期連載です。
かつてある世界に、数多の【魔剣】を従え、【魔剣之勇者】と恐れられた男がいた。
曰く、その男は修羅のごとき、一閃で山を消し飛ばしたという。
曰く、その男は面妖なる魔剣で海を割って見せたらしい。
曰く、その男は一人で十万の魔物を屠ったと恐れられている。
曰く、曰く、その男は――――。
とまあ、彼の噂の話をすれば、キリがない。
その男の名は、霧式碧。
生粋の日本人で、異世界では最強で、ちょっと戦闘狂なだけの普通の男子高校生だった。
これは新たなるライバルを求め、『国立イデア総合学園』に入学した“最強”の彼が、そこで頂点を取るまでを綴った学園大活劇―――――――――――ではない。
ただこの事だけは言えるだろう。
あの男は殺しの剣をもう一度取り、明確な殺意を持って自らの“大切”を害す存在と戦ったと。
だが、真に【魔剣之勇者】と呼ばれた男は、今の霧式碧という人間ではない―――――。
† † †
時に2127年。
世界は、平和であった………。
バチカン平和条約によって、世界規模での武力行使が制限され世界は新時代を迎えたのだ。
しかし、その人類が恋い焦がれてきた平和にやっとこさ訪れて待ち構えていたものは何か?
人類の超進化?
宇宙人が成熟した人類に接触をとってきた?
それとも人工知能が暴走しだしたのか?
取り敢えずSFでありそうなことを幾つか挙げてみたが、違う。そのどれもが否であった。
人類に待ち構えていた正真正銘のラスボス。それは――――。
【退屈】
である。
平和になったお陰で、下手に争いが起こせなくなったのだ。
それが第三次世界大戦後に“新生・大帝日本国”として復活した、実質世界最強の日本のせいか、はたまた、各々が平和を乱して制裁を受けるのを恐ろしく思ってのことかはともかく。
取り敢えず世界が平和になったせいで、人々は暇をしていた。
何気ない、生きているだけの日々。なんの刺激もない日常。
それは人々の心に伝染し、回りに回って国際問題にまでなってしまった。
そこで立ち上がったのが我が新生・大帝日本国。
世界中に国内発の競技、【イデア式競技】を発信し、空前絶後の大ブームを引き起こしたのだ。
それとにより、人々は命の危険さえある【イデア式競技】にのめり込み“自分達は生きている!”という実感を持った。
日本の計画通り【イデア式競技】は爆発的に大ブームを引き起こした。
因みに【イデア式競技】というものは、人の心象を形にした存在、【イデア】を用いて極限の闘いを繰り広げる熱き競技! 言わば、現代版コロッセオや!
【イデア式競技】は二つのジャンルに分類される。【イデアスポーツ】と【イデアバトル】だ。
その内【イデアバトル】は腕が吹き飛ぼうがへしゃげようが、問答無用!
相手の闘志が消えるまで闘い続ける大変物騒な競技だ!!
勿論、最低限守るべきルールや暗黙の了解は厳然と存在し、競技は紳士的なスポーツマンシップに則って行われる。
そしてこの俺、霧式碧は新たなる強敵を求めて、超常の力を扱う選手たち――即ち、イデア競技の選手を育成する『国立イデア総合学園』に入学することにしたのだ!!
………とまあ、その理由を話したいんやけど、それを話そうと思ったら更に話を変える必要があるんや。
ま、そこんところ頼むで。
……では、ごほん。
…実は俺、異世界に召喚された事があるんだわ。
え? 『は? 何言ってんのこのキチ野郎wwwwww』って?
まあ、そんな風に思うのも仕方ないわな。でも真実なんだ。たぶん。
高校一年生の夏、異世界・リガルヘイムドに召喚された俺は、そこで最弱から這い上がり最強となった挙げ句、数多の戦場を渡り歩き、暴れまくった。
そのお陰で人間族に対立する魔族は大打撃を受け、ほとんど壊滅状態になったんだが、人間ってのは不思議なもんだ。
なんと、人間族サマは、俺にフルボッコにされた魔族に情が湧いちまったらしい。
『平和に邪魔だから【魔剣之勇者】元の世界に戻して俺ら一からやり直そうぜ!』
雨降って地固まると言うべきか、何やらバトル漫画も顔負けの仲直り、もとい両者、種族を越えた漢の友情を結び始めたのだ。
そうして世界が平和に近付くにつれて、俺は目の上の瘤のように扱われるようになり、結果、連続する戦いのせいで戦闘狂となってしまっていた俺は、秘密裏に地球へ帰還させられたのだった。
まあ、その辺記憶が霞がかっててよくおぼえてねぇんだが、とにかくリガルヘイムドに帰ることを諦めた俺は、「仕方ないからこの地球で強い奴と戦おう」…なんて思いながら俺よりも強い奴を探し始めた。
が、一般人にそんな化け物はいなかった。
「なんッッッたることだぁぁぁぁぁぁぁ!!?!」…と、俺は滂沱の涙を流し、ドン底の絶望を味わったものだ。
そして俺は、ある時出会った。
俺と互角に戦えるであろう存在、【イデア競技】の一つ、『イデアバトル』の現チャンピオン――アルバート・エンジェルハートに。
そぉう、あれはチンピラに絡まれた時だった。
助けようと近付いてきた巨漢の男が、逆にチンピラを簡単に撃退した俺に「なぬっ?!」と声を上げたのだ。
俺はその巨漢の男を見て驚きの声を上げた。
その顔がテレビでよく見るもの――彼のアルバート・エンジェルハートのものだったのだから。
あれは強い。滅茶苦茶強い。
人の域を越えて最早神に近づきつつある。
肉体的能力もそうだが、驚くべきは俺をも凌駕するその精神力。
それはそっくりそのままイデアの強さとなり、世界の頂点を取るに足りる“最強”の器を完成していた。
そして、そんな彼が俺を一目見て言ったのだ。
「リングで会おう…」
瞬間、俺は取り付かれた! イデアバトルへの興味と関心、同時に彼の強さに!!
紅潮する頬、潤む瞳、想いは超絶ド頂点!
―――――めっちゃ戦いたい!!!
最早“恋”にさえ似たそれは、俺に最高峰の興奮をもたらし、即刻俺は、彼が首席で卒業したという『国立イデア総合学園』への編入を決意した。
そしてマブダチの松川総理やら、清吾天皇に連絡して、コネで特待生枠を確保、無事に編入試験を完了したのだ。
この学園のシステムは少々特殊…というか何か変で、入試や編入試験を突破して入学ができても、その後に実施される【イデア測定・面接試験】に合格しなければ強制退学という措置が取られるらしい。
退学した者は国の保証特別法で別の一般校の試験を受けることができるのだが…。
ま、そんな事は俺には関係ないか!
俺は、文武両道だし、そんな心配はないな!
ははははははははは!!!!
そおぅ!! ここから俺の学園最強物語が始まるのだああああ!! ああぁっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!!
……………。
………何て、そう思っていた時期が俺にもありました。