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第三十一話「ヌゥェゴモル教団」

 お待たせしました。最新話です。




 今、俺の背後に、小さな少女が突っ立っている。

 にわかには信じられないが、俺の索敵スキルを全て潜り抜け、俺の真後ろに現れたらしい。


 少女は真っ黒なローブを羽織っており、得たいのしれない笑みを浮かべている。

 しかも美少女。肩辺りまである、枯れ草色をした髪の毛が印象的だ。





「…って、ヌゥェゴモル教団だあ? ……何かすごい聞き覚えがあるのは気のせいか?」


「ははは。どうだろうねー?」



 口元をひくつかせ、引き攣った笑みを浮かべながらσ(シグマ)と名乗る少女を睥睨し、ついでにこっそりスキル【隠蔽鑑定】を掛けておく。


 ―――ヌゥェゴモル。


 異世界の神話で語られていたその世界の創造主にして最強災厄の邪神。その昔、属性の【邪】を司る属性神だったという。


 異世界では、魔法――特に属性は各神々から与えられる力だ。

 言い換えれば、属性とはもっとも顕著な神々からの加護。


 俺のいた異世界では神の存在が当たり前で身近な存在だったという訳だ。

 かく言う俺もその神々に会ったことがある。

 しかし、俺が召喚された時点で、異世界にはヌゥェゴモルという神は伝承の中だけの存在と化していた。


 何故か?

 端的に言うと、ヌゥェゴモルの存在の記憶を、神々が人間から奪ったからだ。


 ある時、禁忌を犯した属性神にして創造の邪神、ヌゥェゴモルは、その邪悪さ故に絶対神グラダによって封印され、人々はその存在を忘却させられた。

 辛うじて人々の中に“伝承”や“神話”といった形で残ったヌゥェゴモルだが、封印は完璧であり、力の弱まったやつには抜け出せなかったはずだ。



「なのに…なんで、こんなトコに【邪】属性の魔法を放ってくるバケモンがいるんだ?」


 さっきこっそりσ(シグマ)に掛けた【隠蔽鑑定】は敵に気が付かれない変わりに基本情報(ステータス)を時間をかけて入手出来るスキル。

 取り扱いにくいが、こういう場面ではかなりの力を発揮する頼もしいスキルだ。


 そして今、【隠蔽鑑定】の結果が出た。


 判明したのはあのσ(シグマ)とやらが、【邪】の属性を持っている事。

 ステータス値も相当高い。

 まあ、俺からしたら敵ではないが、外のやつらも全員こんなのだとしたら、かなりヤバい。俺一人で対応できるのにも物理的な限界があるからな。


 さて、それはともかく、σ(シグマ)はヌゥェゴモルの加護を授かり属性の力を得ていることとなる。

 それはヌゥェゴモルの封印が緩んだか、ヌゥェゴモル自身が力を取り戻した…、……そして最悪の場合、封印が完全に解き放たれたことを意味する。



「………そちらさんの神様はお元気で?」


 取り敢えず探りを入れてみる。


「…うーん、まあ、元気じゃないかなー。私達に加護を与えてくれてるだけでかなり限界だから」


 σ(シグマ)は驚くほど簡単に情報を流した。…まだ行けるか?


「……お前らの目的は?」


「そりゃあ、ヌゥェゴモル様の封印を解き放つことだよ? まあ。私はどうでもいいんだけどね」


(あー。嫌な予感がしてきたな…)


 そんな風に考えながらも、俺は疲れたように額に手を当て、問う。


「………最後に一つ。そんなにペラペラ喋っていいのか?」


 そして帰ってきた答えは予想通りのものだった。


「んー? あ、いいよ別にー。………だって、これ聞いちゃった人みんな殺さなきゃいけないしねー?」


「…考えたくもないがつまり?」


「君たち全員皆殺し☆」



 その台詞を聞いた瞬間、自分の本能が最大限の警鐘を響かせ、背筋が粟立つ。

 俺は、反射的に雪奈を抱えてその場を離脱する。

 瞬間、飛来する一条の閃光。


「――っっぶね?!」


 またさっきの魔法か。

 何だよ? あのビームみたいな魔法は…。


「たっく、お前σ(シグマ)この野郎?! あぶねぇぞコラ! 人に暴力を振ったらダメだって学校で習わなかったのか?!」


「……その余裕面ムカつく…。…ぶっ殺してやるよ!」


 怖っ!?


 なに?! ちょっと今の俺の台詞不味かった?! 何か性格豹変してるよ?!


「死ね死ね死ねよ!!?」


「すませんまだ死ねませーーん!!」


 当たれば即死を免れないであろう急所を狙ってくる光線を何とか避ける。


「くそっっ!! 【魔剣之勇者】がアァァァァァァァ?! 殺す!! ぶっ殺す!!」


 …あー、怖い怖い。


 でもこいつ、俺の脅威にはならない(・・・・)ね。


 だって、


「案外弱いんだもんな。お前」


 雪奈を抱えたままσ(シグマ)の虚を突いて肉薄する。

 そして龍おも穿つ渾身の一撃、【緋龍螺旋掌】を放つ。

 集中して膠着していた、場違いなまでの暴力的エネルギーが、俺の拳の延長線にあるσ(シグマ)鳩尾にて炸裂する。

 深く鳩尾めり込んだ熊掌によって逃げ場を失った強大なエネルギーは、結果として会場の遥か上の方へとσ(シグマ)を吹っ飛ばす。



「―――ぁぎっっ?!?!」


 短い悲鳴を上げながら、満身創痍で落ちてきたσ(シグマ)

 全身を暴れ狂う様に駆け回った余剰エネルギーのせいであろう。σ(シグマ)は最早ズタボロの状態だった。

 そんなσ(シグマ)に俺は話す。聞いていなくても別にいい。


「これは【緋龍螺旋掌】。異世界の東方にある武術流派、『龍覇剛掌拳』の拳技だ。巨大な魔力を込めた腕を(ねじ)るようにしてつき出す事で、大幅に威力を高めた拳掌を繰り出す事を可能にする拳技でな。非常に貫通力に優れいて、『骨を割り、肉を穿つ』とまで形容される威力を持つんだ。それを弱めて放つだけでこれだ。ま、お前の負けだよ」


「――かふっ、何が、まげっだっ……!!」

 血を吐きながらも言うσ(シグマ)。負け惜しみかな?


「じゃあ一つ、アドバイスをしよう。君の取り柄は魔法しかない。いかに魔法が強くても体も鍛えなきゃ意味ないぜ? っと、こんなとこかな?」


「知った口をォ…!!」


 憤怒の表情でそう言うσ(シグマ)


 勝負がついたかと、取り押さえられていた観客や実況に安堵が広がり、ヌゥェゴモル教団の団員に不安が蔓延してゆく。


 そしてそこにそれは現れた。



「大きくなったな? 雪奈。―――――とても美味しそうな肉になって!!! ああ!! あの時に殺してしまわなくてよかった!!!!」


「…かぁさん」


 俺に抱えられ、更に超次元の動きのせいで物凄くグロッキー状態になっている雪奈が呟く。

 呆然とした口調とは裏腹に、雪奈の顔には深い憎しみが張り付いていた。


 ……雪奈のこの表情。


 どうやらあいつもろくでなしで間違いないらしい。


 さあて、ヌゥェゴモル教団の皆さん、俺と雪奈の試合を邪魔した罰は大きいぞ?




 ―――全員、半殺しだ。



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