第十四話「喧嘩を押し売りしましょう2」
時は少し遡る。
「はー、下克上ルールねぇ。これがありゃあ…ぐふふ…。」
イデア実技演習場から去りゆく一人の男が実に悪い笑みを浮かべていた。
何を隠そう、俺である。
皆はイデア実技演習場にて、俺が「する事がある」と言ったのを覚えているだろうか。
そのする事とは。
ズバリ、『Sクラスにさらに喧嘩を売っちゃおう』である。
この学園のワケわからん制度の一つにこんなものがある。
『下克上ルール』。その字面の如く、自分の所属するクラスより上位のクラスに挑む時、自ら宣言した場合のみ効果を発揮する制度である。
『下克上ルール』にも幾つかの種類があり、全部で三つの要求を相手に押し付けることができる。まあ、その要求が通るのは文字通り相手に勝たないといけない訳だけど。
とにかく、その三つの要求を迫り来る今夏、Sクラスに無理にでも引き受けさせてやろうと思う。
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要望一、此方のクラスが貴殿らのクラスに勝利した場合、クラスメイト二人を引き抜かせて頂く。
要望二、此方のクラスが貴殿らのクラスに全戦勝利した場合、クラス等級の入れ換えを行う。
要望三、此方が貴殿らのクラスに全戦勝利したした場合、クラス等級を変えた後の、教師指定権を我々は得る。
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この全ての『下克上ルール』をSクラスに吹っ掛けてやりますよ。ぐへへ。
要望一が通ればまず雪奈を引き抜くッ!! 二人目は決めてない!
そして要望二を通したら俺たちがSクラスとなり現SクラスのやつらはFクラスとなる!
更に、要望二が通るならば要望三が通る事ということ!!
俺達は新・Sクラスの担任の座を蓋原とかいうクズ教師を俺らの担任にさせなくて済む!! それどころか蓋原はFクラスの担任となる!! 蓋原への制裁を加える事も出来るのだァ!!!
我ながら完璧な計画ッッッ!!!
この俺が手塩に掛けて(そんなに掛けてない)育て上げたFクラスのクラスメイツ達は最早Sクラスなど塵芥の如く屠るであろう!! HAHAHAHAHAHAHAHA!!!!!
そう考えながら、俺はSクラスの横開きドアを開ける。
「まぁ、お前みたいな腰抜けがSクラスにいること自体に驚きを隠せない訳だけどさ、ちょっと全体の士気を下げる様なことはするべきじゃないんじゃないかなぁ?」
「……ご、ごめんなさい…」
え? 何この三流不良ドラマみたいなカオス。
何? お取り込み中? 喧嘩? え、俺がこれから喧嘩売りに行こうってのに??
………まあいいや。とにかく、吹っ掛けてやろうぜ。『下克上ルール』。
「あー、お取り込み中すまないんだけど……」
誰も俺に気づいていないようなので、とにかく声をかけてみる。
「あ゛ぁ゛?? んだよテメェ?」
…何か、いつしか内のクラスに喧嘩を売りに来た来たモブ…じゃなくて滓我大騎がドスを効かせながら言って来た。
…いやー。名前調べといてよかった~。またモブモブ言うとこだったぜ。
ていうか、さっきの威圧、スキルの【威圧(極小)】だろ(笑)。
いや、こっちの世界でも何倍も努力すりゃあスキルは得られるよ? 熟練度の溜まり様が異世界より滅茶苦茶少ないだけで確かにスキルは修得できるよ?
でも【威圧(極小)】はちょっと笑えるwwww 異世界でもちょっとガラの悪いチンピラが持ってたなー。
そんで本人のあの顔! 豆鉄砲を食らった鳩みたいになってるよ。
いや確かに今まではそのスキルのお陰で喧嘩じゃ敵無しだったんだろうけどさ? まあ、威圧する相手が悪かったよね。
まっ、早速用件だけでも伝えますか。
「んじゃ、用件だけ伝えるね~。俺はFクラスの大将の霧式碧だ。お前らSクラスに『下克上ルール』で挑む」
……今度はSクラス全員が豆鉄砲食らった鳩みたいな顔してんな。
ああ、説明不足だったかな。
「あ、詳しく言うと、『下克上ルール』の三つ全部を勝負に適応するから。勿論、挑まれた側は了承しなくちゃいけないんだから頼むよー? んじゃあ、俺は強化合宿の準備があるんでー」
俺は颯爽と華麗にUターンをキメてSクラスから立ち去る。
何か「ふっ、ふざけてんのか!?」とか「調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」とか聞こえてくるけど無視無視。
そうして俺はFクラスに戻……れてなかった。
「えっと、雪奈さん?」
俺は今、雪奈に道を塞がれて往生している。
「…どういうつもり? 『下克上ルール』で負けたらどういうペナルティが課されるのか分かってるの?」
「わかってるよ?」
ああ、急に通路を塞がれたら何かと思えばそういう事か。
どうやら彼女なりに俺を気遣ってくれているらしい。確かに俺ら、負けたら相手のクラスの言うことを『何でも』聞かなきゃならないからな。…例えばそれが『退学しろ』という命令でも。
まあ、Sクラスの滓我くん(笑)達なら間違いなくそんな要求をしてくるだろうねー。
「―――でも、負けないよ? 全戦勝利して君を引き抜く。クラスもSクラスに変わる。そして皆の力を証明する」
「…本気で言ってるの?」
「ああ。本気だ」
俺はしっかりとした決意を込めて言う。
「……はぁ。…わかった。…もう、君を止めることはしない。…全勝、がんばってね…」
少しの間を置いて、雪奈は呆れたように溜め息をつくと、そう言って立ち去ってゆく。
ほう、今日も翻る黒髪が美しい。
「雪奈も頑張れ! 勝つ気で来いよ!」
俺がそう言った後、雪奈が少しだけ笑った気がした。
そして俺達は知らない。
裏で暗躍する、『争い』を望む愚者共によって、この夏の対抗戦が本当の『闘い』となることを。
次回から強化合宿が始まります!!




