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メインヒロイン=俺!?  作者: 桃芳亜沙華
女として学校へ行く、俺!
4/6

ファーストコンタクト

 少し肌寒い春の朝。身長が低くなったのもあって、いつもの通学路が少し変わって見えてくる。視線が違うだけで、ここまで違うなんて思わなかった。


 それは家でも同じで、届いていた場所に手が届かなかったり、持ち上げられていたものが持ち上げられなかったり、身体能力の変化というものは、これから慣らしていくしかないだろう。


 家から出て、少し歩いた先にある駅へと向かう中、通りは通学中の学生や、出勤しているサラリーマンの姿も見られる。

 人が、大きく見える。

 特に、男性はとても大柄に見えてしまう。


 身長って大事なんだな。



 駅の改札を抜け、電車を待つ。


 数分の間に、人は増えていく。



 電車を待っている間にスマホを弄る。女子高生らしいぞ、俺。

 カメラフォルダや、友達とのやり取り、SNSなどを見返して、自分がどんな事をやっていたのか、普段はどんな感じなのかというのは少しは分かりそう。


 やり取りが頻繁にありそうな人達。そこには見知った顔も多いが、やっぱり比率としては女子との比率が高いよなぁ……。



 そうこうしてるうちに、電車が来たので乗り込む。


 ……自然な流れで掴もうとしたが、吊り革が遠い。俺の手は虚空を掴んでしまった。



 仕方が無いので壁際に体重を任せて、またスマホに視線を落とす。

 電車が揺れる旅に、振動が伝わってくる。



 ただ、揺れに揺られ、目的の駅まで無言でスマホを弄り続けた。

 途中からパズルゲームに手を出してしまったのは、通学中の一つの誘惑だと思う。



「ん? あ、おーい、瑞希!」


 電車を降り、ホームの階段を登っている時に後ろから声がした。

 慣れ親しんだ友の声。けれど、彼が呼んでいるのは俺ではない。瑞希だ。


 以前は昔から馬鹿ばっかり二人でやって、時には怪我して、怒られて。もしかしたら、ここでは俺が女として産まれてるから、違った形になってるのかもしれないなぁ。その事に少し寂しさを覚える。


 いや、まだ決まったわけじゃない。もしかしたら、案外一緒だったりするかもしれないじゃないか。




 駆け上がり近づくその声に、自分が呼ばれた感覚がしなくて、少し遅めの反応で振り返った。

 出来るだけ、違和感を感じても柔らかい口調を意識して。


「どうしたの、恭弥。呼び止めたりなんかして……っ!?」


 階段で振り向いた瞬間、足元にズルりとした感覚。階段で足を踏み外し、想像してしまった痛みに思わず目を閉じてしまう。


「危ない!!」


 一瞬の浮遊感。そして、痛みは襲ってこなかった。


 それもその筈。俺は恭弥に、抱き止められるような形で、支えられていたから。

 それを頭が理解すると同時に、思わずすぐに離れてしまう。


「え、えっと……ありがと?」


「どういたしまして。まったく、一歩間違えたら大惨事だぞ。昔からそそっかしいのは変わらないよな。だいたい昨日も体調不良で休んでたんだろ? まだどこか具合が悪いんじゃ……」



 呆れたように大きな溜め息を吐き、小言、心配へと続いていたが、俺の耳には届いていなかった。

 恭弥の顔、右の額に大きくあった傷跡が無い。


 昔、小学校の頃二人でやんちゃして、頭をぶつけて大怪我をした時の傷が、無い。


 佐山恭弥。俺と危なっかしい遊びばっかりしていた恭弥は、ここには居なかった。

 けれど、何故か、無意識にその傷跡があった場所に俺の手は伸びていた。


「……綺麗な顔」


「……お、おい? 瑞希? ど、どうしたんだいったい……や、やっぱりどこかまだおかしいんじゃ!?」


 以前は感じなかった身長差。頭まで手を伸ばしてやっと届くくらいの身長差が、信じられなかった。


 それから少し間をおいて、自分が何をしているのか、何を言ってしまったのかを急速に理解し始める。


「……ちょ、ちょっと、今のは忘れて。うん。今のナシ。ナシ。忘れて……」


「お、おう……?」


 待て待て待て。俺は今何を口走った?

 恭弥に向かって、綺麗な顔? いや、確かに整った顔立ちではあるけれど、俺が言いたかったのはそうじゃない。いや、口に出したつもりはなかった! 恥ずい! これは、恥ずかしい! もう色々と重なってすごく恥ずかしいぞ俺! やべぇよ、恭弥の顔直視出来ねえよ!! 本当にマジでこれ、もっと気を引き締めないと……。



 ちょっと熱くなった顔を、頭を振ることで誤魔化す。


「だ、大丈夫か? 瑞希、少し変だぞ」


 心配するように顔を覗き込む恭弥。

 やばい! というか、今顔を見ないでくれ! やらかした後だから恥ずか死ねる!


「恭弥近い、近いって。だ、大丈夫。大丈夫だから! ほら、早く学校に行こう!」


「あ、あぁ……。体調が悪いなら言えよ? さっきの、怪我とかもしてないか?」


「ん、ありがと。大丈夫だよ、まだ少し寝ぼけてただけだって」


 そういうことにして無理矢理その話は終わりだ。というオーラをしきりにぶつけてみる。勿論そんなものがある訳では無いが、恭弥もそれから追求をしてくることはなかった。


 助かった。



 それから、恭弥からクラスが同じだと言うことを聞かされ、連れられるように学校へと向かった。

 どうやら、恭弥の様子からして、登下校一緒になることは良くあることみたいだ。とりあえず、少しでも気が楽な相手が登下校、クラス共に確保出来たのは有り難い。


 有り難い、けど。自分でさっき気まずくなってしまう原因を作ってしまった感が否めない。


 ど、どうにかボロを出さないようにしなければ!

 頑張れ俺!

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