語り部、俺!
ヒロインとはその物語における女の主人公の事を指し、王道を行くのなら、その物語のヒーローと結ばれてハッピーエンドを迎えるのだろう。
中には、悲劇のヒロインなど、悲しい終わり方の物語もあるけれど、重要なのはそこではない。
当然、現実にはヒーローもヒロインも居ない。個人個人、別の物語を自分達で作り上げているからだ。第三者にその物語を見せることなんて、まず無いのだから。
だったら、どうしてヒロインの話なんかしてるかだって?
まあまあ、それはこれからしっかりと話すよ。
それより、俺の姿を見てくれよ。こいつをどう思う?
そうだ。紛うことなき女の身体だ。
こんな話をしているのだから、俺は産まれた時から女だった訳では無い。正真正銘、男として産まれた。
俺の記憶では、そうなんだ。
まず何から話せばいいのか。
そうだな、取り敢えず、俺が女になってしまった日から話すことにしようか。
あれは忘れもしない、十六歳になる春。高校二年生に上がる、始業式の日だった。
私が朝目を覚ますと、知らない部屋に居た。
いや、正確には自分の部屋が知らないインテリアに様変わりしていたんだ。
薄い桃色の布団に、ぬいぐるみや可愛らしい小物が置かれた部屋。掛けてある服は女性ものばかり。けど、中には私自身よく知ってるものもあって、それがどうにも見えてるものが偽物じゃないんだって思わせて来たんだよね。
最初は当然夢かと思った。困惑する私は机の上に置いてあったコンパクトミラーで自分の姿を確認した。
肩まで伸びたふんわりとした黒い髪に、迫力の欠片も無い優しげな瞳、さらりと筋の通った鼻、柔らかそうな唇。
思わず誰だお前って言いかけたね。
よくよく周りのものと見比べると身長も縮んでてさ、元の体より結構小柄になってたんだ。
体も、膨らんでるところは膨らんでるし、引っ込むところは引っ込んでた。
理解が追いつかないよね。何より、自分の体が自分の知ってるものじゃなくなったことについて、やっぱり凄く怖くなって布団に包まって震えて泣いちゃったんだ。
自分が自分じゃないのって、体験してみるとすごく怖いよ。
まぁ、それで泣いて、気が付いたら寝ちゃってて、そしたらね?
聞き慣れた声がしたんだ。親の、お母さんの呼ぶ声。けど、呼んでるのは俺じゃなかった。知らない名前。それも、女の子の名前を呼んでてさ、また泣いちゃった。
それで夢じゃないんだ、自分が自分じゃなくなっちゃったんだって不安になって泣いてたらさ、お母さんが心配になったのか部屋に入ってきたんだよ。
私が泣いてるのを見てすごく驚いてた。
そりゃそうだよね。お母さんからしてみれば、突然変なこと言い出しながら泣いてたんだもん。
それで、お母さんに話しながらやっと落ち着いてさ。うん、そう。ちゃんと話聞いててくれたんだよ。
あー……今になって思えば、お母さんからしたら今まで一緒に居た娘は居なくなっちゃったのか。不可抗力とはいえ、やっぱり申し訳なく思っちゃうな……。
もしかしたら、私と向こうの俺が入れ替わっててくれるなら。向こうで元気にしてるといいな。
同じお母さんだもん、きっと力になってくれてる筈。
おっと、話が逸れちゃったね。
そう、これは俺が私になってしまった物語。
すこしだけ、話に付き合ってくれるかな?