素人っぽさを減らす、小さいけれど意外と便利な小説技法
話の内容はタイトルの通りです。
と言っても私自身がまだ完全に素人なので、偉そうに講義できる立場ではないのですが、私が最近手に入れた技法をまだ知らない方の為、そして後で自ら読み直したときに「こんな技法あったな! やべぇ、忘れてた!」と自分で思い出すきっかけにする為に、こうして筆を取った次第です。話半分かそれ以下くらいの気持ちで読んでくださいませ。
ちなみに、これからいくつか例文みたいなものを書くと思います。けれど内容とか文章力とか気にしないで下さい。鼻で笑うのは構いませんが。――いや、それもよくないか。
さて。
今回私が知らせたい技法はこちら。
『容姿の描写を一回にするな』
です。
自分自身も現在進行形でそうなのですが、キャラクターが登場するときに容姿の描写を入れるでしょう? ですが、それっきりになっていませんか?
例えば、の話をしましょう。
身体はバスケット選手やK1選手くらいに大きいけれど、とても気が小さくて話し方から気弱な少年のキャラクターがいたとします。そんなキャラの登場シーンを描いたとしましょう。
*
はじめ、俺は岩壁にぶつかったのかと思った。
余りにも大きく、俺の視界はごつごつしたものに覆われていたからだ。
だが違う。
そこにいたのは、一人の屈強な男だ。
俺の目の前にあったのは腹や胸板だけで、少し痛くなるくらいには首を上げないと顔が見えない。それくらい大きな男だったのだ。
しかし、だ。
そんな大柄でたくましい男から出た声に、俺はこけそうになった。
「……は、じめまして――……」
やたら高く、そして小鳥のさえずりよりも小さな声だった。この図体でそれくらい弱々しいと、いっそ病気なのではないかと思ってしまうほどに。
*
みたいな出会いですかね。とりあえずここだけ読めば、みなさんはこのキャラクターの容姿をある程度は正確に理解してくれるでしょう。
ですが、これっきり外見の描写がなければどうなるでしょうか?
*
「ご、ごめんなさい……」
そう言って彼は部屋の隅で小さくなるばかりだった。
*
「そ、そんなつ、つもりじゃ……」
弁解をしようとするけれど、完全に相手の怒りに呑まれてしまって縮こまっている。
*
みたいな感じで、彼が色々と怯えているような場面があったとしましょう。これ自体は、気が弱いということを読者に伝えるにはいいと私は思います。
ですが容姿の描写が最初だけしか書かれていなければ、という前提があれば話は別です。このままでは彼に対する読者の大半のイメージは気が小さく弱々しい少年になってしまう。きっと頭に思い描くキャラはジャイアン体型ではなくのび太になることでしょう。
今回の例は分かりやすさ重視の適当なキャラ設定ですが、実際によく起きることではないでしょうか。
たとえばヒロインの髪型を作者好みのツインテールに設定しているけれど、登場シーン以外で髪型に触れていない。このキャラは眼鏡がチャームポイント、と思っているけれど眼鏡の描写が登場シーンを除けばほとんどない。
――あ、そんな目で見ないで。金髪設定にしたけれど全然金髪であることに触れられない私のヒロインをそんな目で見ないで!
……それはともかくとしまして、ではどうすればいいのか。
簡単です。何度も書けばいいんです。単純に回数を増やし、何気ないところでもあえて描写するんです。たとえばただ歩いていくシーンとかですね。
*
そいつは性格に似合わない大きな身体を揺らして歩いていった。後姿だけならきっと誰よりも頼りになるんじゃないだろうか。
*
みたいに、特に他に描写するもののない穴場のシーンなんかは、こういう容姿の描写を再掲するチャンスだと思いますよ。
しかし反論する人もいるでしょうね。特に作者の方の多くはこう思うでしょう。
「ちゃんとここに書いてあるんだからよく読んでくれればいいじゃないか。描写なんて一回でも十分だ」と。
でも待ってください。読者はそんなに読んじゃくれませんって。斜め読みされていて当たり前だとさえ思っていいでしょう。
自分が屁理屈好きなので「そんなお前の主観の話じゃ信じない。現に俺には読んでくれてる読者もいるんだから!」という方の為に、分かりやすく数字を持ち出しましょう。
文庫本のページ数はだいたい三〇〇ページ前後です。文字数はまちまちとはいえ、だいたい十二万字くらいでしょうか。これは文庫本一冊分の分量を目安に自分が書いた文字数なので、そこまで狂っていないはずです。
そして先程の例では、初登場の彼の描写にかけたページは一ページにも満たずたった十一行、二三〇字ほどでした。
これを全体のパーセントに直しましょう。
一ページ十七行だとして、ページ的には約〇・二パーセント、文字数では約〇・一九%、小数点以下ですら四捨五入したらどちらもゼロです。
そんなものを作者以外が覚えていると思ってはいけません。誤差の範囲として切り捨てられてもおかしくないのですから。
作者が思っているよりも読者が覚えていないことを理解した上で、「ちょっとくどいかも?」 と自分が思うくらいに何度か描写を繰り返しましょう。
そうすればキャラクターのイメージがしっかりしたものとなり、ほんの少しかもしれませんが素人っぽさなくなるはずです。
最後に、一つ予防線を。
これは自分が多くのラノベを読み、自分の作品を客観的に読み直して気づいた技法――だと自分では思っています。
ですがネットを探せば同じような技法は転がっているかもしれませんし、ひょっとしたら数年前に私がそれを読んだことを忘れていた、なんて可能性もあります。
そういう場合は堂々と「○○で読んだぞ、気をつけろ!」と教えてください。間違えても「盗作だ!」なんて言わないように。気の弱い私が後で泣いちゃいますから。
では、今回はこの辺で。
反響とかあれば『そのに』『そのさん』と続くかもしれませんが、期待はしないで下さい。何故かって? 素人の私にそんなにたくさん技法があるわけないじゃないか。HAHAHA! はぁ……。言ってて哀しくなってきましたね……。
そんなわけでまたいずれお会いしましょう! さようなら!