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ソウルライフ~見鬼の少女と用心棒~  作者: 吉田 将
第壱幕   二人の用心棒
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考察と相談

「あ、あの……」


「………」


 現在、少女と美優は歩道橋を離れ、上倉町までの道を走っている。

 その間、少女は終始無言だった。

 美優はその少女に対し、何度か声を掛けようとしたのだが、少女からは「余計な事はするな」という雰囲気が出ていた為、すぐに口を閉じる事となった。

 やがて、美優の手を引いて走っていた少女は立ち止まり、手を離す。

 何事かと思って美優がその先を見ると、そこは上倉町の入り口だった。


「ここまで来れば、あとは大丈夫ですね……それじゃあ、私はこれで……」


「待って! あなたは一体誰? それにさっきのは一体……」


「…………それらの質問の答えは一つ。あまり首を突っ込まない方が良いですよ…」


「…えっ?」


 少女は美優の顔を正面から見据え、論するように言葉を続ける。


「この世には知らなくて良いことや知っても分からないことが沢山あるんです。今日は偶々、運が悪かった……ただそれだけです」


「でも……」


「………」


 言い掛ける美優を無視して、少女は突然脱兎の如く駆け出し、その場を去って行った。


「あ! ちょっと…!」


 美優は走り去る少女を追い掛ける。

 少女は町の中に入り、角を曲がって行った。

 美優も見失わないように、走りながら角を曲がる。

 だが、角を曲がった先には誰も居なかった。

 あるのはずっと続く道と立ち並ぶ電信柱だけである。


「そんな……この先には隠れる所なんて無いのに……」


 有り得ない出来事に美優は暫くの間、立ち尽くしていたが、やがてポツリと呟いた。


「…………助けてくれて、ありがとう……って、ちゃんと言いたかったなぁ…」





――――――【1】―――――――






 翌日の日曜日、美優は昨日買った物を千夏に届けた後、自分の家の近くにある公園に来ていた。

 公園のベンチに座り、昨日の出来事について一人で考えてみる。


 (あの時……あの子は憑依って言っていたけど……もしかして、アレが何かが乗り移った状態…なのかな?)


 美優は今まで、何かが人に憑いているというのは見た事はあるのだが、完全に支配されている状態というのは見たことが無い。

 俗にいう“悪魔憑き”、“魅入られた”と呼ばれるものだが、そんな人など滅多に居ない。

 多くは大抵、後ろに居たり、背中にしがみついていたりと軽いものだ。

 だが、昨日のものはほぼマインドコントロールと言っても過言では無かった。

 その根拠は……。


「……我らが主人………神の力を宿した人間……」


 美優は襲ってきた男の言葉を口に出して呟く。

 どれもこれも全く心当たりが無い。

 特に神の力を宿した人間、という言葉に至っては無関係にすら思える。

 しかし、あの男達は美優の名前を知っていたし確認もしていた。

 間違いでは無いだろう。 考えれば考える程、分からなくなってきた美優の頭は既にオーバーヒート寸前だった。

 すると、その時。


「よっ! 月見里」


誰かが後ろから美優に声を掛けると共に、首筋に冷たい物を押し付けてきた。


「ひゃぁん!?」


 突然の事に美優は驚き、変な声を上げて後ろを見る。

 そこにはクラスメイトである五十嵐春輝がオレンジジュースの缶を持ったまま立っていた。


「い、五十嵐君……もう、ひどいよぉ〜」


「悪い悪い………ほら、差し入れ」


 春輝はそう言いながら、持っていたジュースを渡す。


「ありがとう」


「隣……良いか?」


「うん」


 ジュースを受け取った美優に許可を貰った後、春輝は隣に座り、自分のジュースを飲み始めた。

 美優はそんな春輝を見ながら尋ねる。


「初めてだね。休日に五十嵐君と会うの……」


「そういや、そうだな………しかし、月見里。何か考え事か?」


「えっ?」


「ベンチに座ってボーッとしてたからさ……………もし、悩んでるなら……力になるぜ? 俺で良いなら……」


 春輝のその言葉に美優は悩んだ。

 なぜなら、そのほとんどが非現実的だからだ。

 けれども、このまま自分で考えても仕方がない。

 色々と考えた末、美優は春輝に話す事に決めた。


「うん、ありがとう。実は……昨日ね……」


 美優は昨日起こった事と自分が見た夢についてを春輝に話した。

 無論、自身が見鬼の才を持っている事を伏せながら……。


「…………ふ〜ん、なるほど。そんな事があったのか…」


「どうかな? やっぱりアタシが変なのかな?」


 話しをしている間、春輝は一言も口を挟まなかった。

 ただ、黙って美優の話しを聞き、口を開いた時に言った言葉が先程のものである。


「月見里は変じゃないだろ。実際に掴まれたんだし……何かが起こったことは間違い無い。だけど……神の力を宿す人間ってなんだ? 月見里の家系って巫女さんか何かをやってたのか?」


「それは分からないけど………少なくてもアタシの家は普通だよ?」


「それに我らの主人って事は……そいつは月見里を狙ってるって事だよな? ………誰かに恨まれるような事したか?」


「そんな事やってないよ!」


「だよな……。だとしたら……前世とか?」


「………前世?」


いきなり出た言葉に美優は思わず聞き返した。


「ほら、よくあるじゃん? 前世は神官だとか、お姫様だとか……もしかして、そんな類いじゃないのか?」


「まさか……そんな事……」


 言い掛けはしたが、美優はその言葉を真っ向から否定出来ない。

 実際、不思議な力があるのだから無いことも無い。


「ま、前世なんて分かんねぇからな………そんな深く考えるなよ!」


「う、うん……」


「家まで送ろうか? 昨日の事もあるし……」


「ありがとう……でも、大丈夫だよ。一人で帰れるから……」


 美優はそう言って、公園を出て行こうとした。

 けれども途中から何かを思い出して、春輝の方へ振り返る。


「あ、ジュースありがとう!」


「おう!」


 笑顔で手を振った後、美優は自宅へ向かって走って行く。

 その様子を春輝はただ黙って見送っていた。

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