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ソウルライフ~見鬼の少女と用心棒~  作者: 吉田 将
第壱幕   二人の用心棒
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狙う者達

「……血と………肉が足りない……」


 暗闇の中、何者かが低い声で呻くように呟いた。

 その声の主の周りには、人間の手足や頭部が、まるで玩具箱をひっくり返したように、無惨に散らばっている。


「……もっと…力を…………神の力を宿した……人間の肉を……! ウアァァァー!」


 声の主は雄叫びに似た咆哮を上げると、骸となった者の手足を踏みながら、その場から去っていった。




――――――【1】――――――




「はっ!」


 真夜中、美優は突如目を覚ました。

 学校で千夏からあの噂を聞き、早めに帰宅した後、普通に家族と夕飯を食べ、お風呂に入り、ベッドで寝たのは21時………時計を見てみると現在の時刻は2時……もう日をまたいでいる上、外からはザーッ、ザーッという音が聞こえる。

 どうやら、雨が降っているようだ。


「…………夢………なの?」


 一人呟く美優、しかしその身体は脂汗で濡れていた。

 夢にしては、血や肉片など…あまりにもリアルだ。


「………取り敢えず、着替えよ」


 まずは、着替えをしなくては身体が冷えて風邪を引いてしまう。

 そう思った美優は、タンスの中から新しいパジャマを取り出した。


「…暗示………なのかな?」


 見鬼の才という力は霊感によるものなのか……美優は時々、不思議な夢を見る。

 未来の出来事が一瞬だけ垣間見える“予知夢”という物だ。

 しかし、毎回では無く都合よく見られるという訳では無い。

 事故や天気といったものから、テストの問題や食堂の日替わりメニューの内容まで千差万別である。

 だが、今回の夢はあまりにも生々しい。

 学校で噂を聞いたからだろうか?


「……ただの夢だよね? 今までもほとんど、そうだったし……」


 そう自分に言い聞かせてから着替え終わった後、美優は再びベッドの中に潜り込んだ。



 窓の外で何者かが、見ている事にも気付かず……。




――――――【2】――――――




 翌日の土曜日、美優は隣町と呼ばれている“天原市あまはらし”へ買い物に出掛けていた。

 買い物といっても、服や雑貨など年頃の女の子らしい物ばかりである。

 本来なら千夏も一緒に来る予定だったが、生憎今日は急な予定が入り、来られないとの事だった。


「千夏に頼まれていた限定品も買えたし……今日はこれくらいで良いかな?」


 手に持った荷物を見るついでに、腕に付けている時計を見ると時刻は夕方の17時………そろそろ暗くなる時間帯だ。


「もう17時なんだ………早めに家に帰らないと……」


 美優の家には今時珍しく門限がある。

 門限は19時まで……高校生にとっては早い時刻だし、なぜ門限があるのかも分からない。

 父親が作ったらしいのだが、その詳細は未だに不明………なぜなら……。


「……天国にいるお父さんに怒られちゃう……」


 それを作った張本人はもうこの世にはいないからだ。

 美優の父親は彼女が幼い頃に亡くなった。

 死因は不明…道路で倒れていた所を通行人に発見されたが、その時には既に事切れていたとの事だった。

 生前は「髪を短くしろ」「彼岸にはちゃんと墓参りに行け」と、何かと迷信めいた事を信じていて、それに関しては厳格だった。

 しかし、同時にそれ以外に関しては優しく頼りになる父親でもあった。

 父親が居なくなった今は、姉と母との3人で暮らしている。

 だからこそ、父親が残した門限はちょっとした遺品なのだ。


「今帰れば間に合うはず……」


 歩きながら、生きていた頃の父親を思い出した後、美優は自分の住んでいる町である“上倉町かみくらまち”まで続く道を進む。

 天原市から上倉町へは電車で行く事も出来るが、運動不足解消と節約の為、美優は徒歩で移動している。いつもは徒歩ではなく、自転車を使用していたのだが、現在はサドルの部分が壊れてしまっているので、修理に出しているのだ。


「………早く自転車戻って来ないかなぁ…」


 道路を横切る歩道橋を渡りながら、そんな事を呟いた時だった。

 歩いている先……すなわち、対面側から一組の男女が歩いてきた。

 カップルか何かだろうか?

 しかし、男女は俯いた状態で会話をする訳でもなく、ただ美優に向かって黙々と歩いてきた。

 その異様な気配に、美優は思わず立ち止まる。


 (なに、あの人達……? なんか変……)


 ゆっくりと、元来た方向へ戻ろうとしたが………そこからも3人の男達が、顔を俯かせた状態で歩いてきていた。

 つまり、美優は歩道橋の真ん中で挟み撃ちにされた状態になってしまった。


「え、えっ……!?」


 彼らは驚く美優から、少し離れた所で止まると………顔を俯かせた状態のまま沈黙する。


「…………あ、あの………アタシに何か用ですか?」


 沈黙してから暫く経った後、美優はおもむろに彼らに向かって尋ねた。

 すると、一組の男女の内の男の方がゆっくりと口を開いた。


「………月見里………美優………だな……?」


「は、はい。そうですけど……?」


 名前を聞かれられ、戸惑いながらも答える美優。

 男を含め、他の者達の顔は相変わらず俯いたままで、特徴を知ることは出来ない。

 だが、美優の知り合いにこのような者達が居ない事は、顔を見なくても分かりきった事だ。


「一緒に………来てもらおう………我らが主人の………贄として………」


 男が言い終わると同時に、美優の背後にいた3人の男達の内の2人が彼女の左右にそれぞれ移動し、腕と肩を掴む。


「なっ!? いきなり、何するんで…………!」


 抗議をしようと彼らの顔を見た美優は驚いて、言葉を失った。

 なぜなら……彼らの顔には目や鼻が無く、その顔面には大きな蜘蛛が張り付いていたからだ。


「……連れていけ………神の力を宿した人間を………」

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