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ソウルライフ~見鬼の少女と用心棒~  作者: 吉田 将
第壱幕   二人の用心棒
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迫り来る異変

 春輝が転校して来てから2週間が過ぎた、とある日の昼下がり………美優は中庭のベンチで、お弁当を広げながら、ぼんやりと空を眺めていた。

 春輝が来てから、学校に大きな変化が起こった……という事は無い。

 少なくとも、常人の目にはだ。

 しかし、見鬼の才を持つ美優の目には、ある変化が見えていた。


「……どうして、教室に妖怪達が入ってこないんだろう?」


 以前は学校に侵入してきた妖魔……もとい妖怪達は、各教室に入ってはたまに悪戯とも呼べる怪現象を起こしていた。

 だが、ここ最近……その妖怪達が教室の中に入って来ないのだ。

 いや、入って来ないだけでは無い。

 通学路といった学校の外でも、あまり見掛けない……建物の中なら未だしも、外でも見掛けないというのは、あまりにもおかしい…。


「……五十嵐君に原因があるのかな?」


 最近あった出来事というと、春輝が来た事なのだが、流石にそれは考え過ぎだろう。

 たった一人の人間では、こんな事は出来ない。

 つまり、春輝以外の何かが起こっている…或いは起こったという事だ。


「一体、何が……」


「お、いたいた! おーい、月見里ー!」


 美優が考え込もうとしたその矢先、先程思っていた春輝が美優を呼びながら、ベンチに近付いてきた。

 この2週間……転校して来た彼は、友達を普通に作り、授業も普通に受けている………と言っても授業は、ほとんど睡眠学習をしているのだが………要するに美優も羨む程、かなり馴染んでいるのだ。


「あ、五十嵐君。どうしたの?」


「いやぁ、実は……さっきの授業、昼寝しててさぁ………悪いけど、あとからノート写させて貰えねぇかな?」


「またぁ~? もう、しょうがないなぁ……」


 彼はこうして時々、美優にノートを見せて欲しいと頼みに来る。

 本当は昼寝をしていたせいだから、自業自得なのだが………美優は怒りも注意もせず、見せてあげている。


「サンキュー! あ、そういえば………教室でお前の友達が、お前のこと探してたぞ?」


「え、そうなの? 分かった、行ってみるね」


 春輝からその事を聞いた美優は、広げていたお弁当を包み、ベンチから立ち上がると、そのまま教室へと向かった。


 (そういえば……五十嵐君って、どうしていつもアタシの居る場所が分かるんだろう?)


 教室に戻る廊下を歩きながら、中庭に居る春輝を一瞬見たあと、美優は唐突にそう思った。

 放課後も昼休みも、春輝はよく美優の元に現れる。しかも、ピンポイントでだ。

 美優の元に行く春輝の様子を友人に聞いてみると、彼は迷わず、誰にも尋ねず、まるで美優の居る所が分かるかのように歩いていた、と語った。


 ―――ストーカーじゃないの?


 友人はそう話した後、美優に警察に行くように勧めた。

 確かに、自身の予定を知っているとなるとストーカーかも知れないが……春輝と美優が知り合ったのは、最近だ。

 ましてや、何もされておらず、ただ居る所が分かるだけじゃストーカーにならないだろう。

 美優自身としては「ただの偶然だよ」とその時は笑って言っていたのだが、こうも続けて当てられると、なんだが不思議に思えてくる。


「何か……縁があるのかな?」


 友人と春輝についてのやり取りを思い出している内に、美優は自分の教室の扉の前に来ていた。

 そして、そのままその友人が居る教室の中に入って行く。


「あ、美優。どこに行ってたの? 探したのよ」


「ごめんね、千夏。中庭でお弁当食べてたの」


 教室に入って来た美優に声を掛けてきたのは、友人である若本わかもと千夏ちか。気が強く、口が悪いが……本当は友人思いで優しい事を美優は知っている。


「それで、なんでアタシを探してたの?」


「この学校で広まっている噂について、何か知っているかな、と思ってね」


「噂? 知らないけど……どんなの?」


 もしかしたら、最近妖怪達が減っている原因が分かるかも知れない―――。

 そう思った美優は、千夏に尋ねてみた。


「私も聞いたのは、ついさっきだから詳しくは分からないけど………最近、隣町で失踪事件が起きてるのよ」


 千夏は、自身の金髪のツインテールの紐を結び直しながら話し始めた。


「失踪事件?」


「そ、なんでも……女、子供のみならず男まで行方不明になっていて……ほら、隣町って…私達がそう呼んでいるだけで厳密には“市”つまり都市部でしょ? だから警察も事件性有りで捜索していたらしいんだけど………今日の朝、この町の道路で行方不明になった人の腕が見つかったんだって……」


「えっ!? 腕!?」


「そう、腕。しかも切断なんかじゃなく半分溶かされた状態だって………残忍よね………薬品か何かかしら?」


「じゃあ、噂って……その犯人がこの町に居るかも知れないってこと?」


「そういう事、警察もこの町を重点に捜査するらしいわよ。お互い、犯人が逮捕されるまで寄り道は控えましょ?」


「………うん、そうだね」


 二人がそう話していると、昼休み終了を告げるチャイムの音が学校内に響き渡る。

 千夏はそれを聞くと「じゃあね」と言いながら、自分の席に戻って行った。

 一方の美優は千夏から話しを聞いた後、悪寒と共に別な事も感じ取っていた。


 (…この寒気は何? もしかしたら……これから、とんでも無いことが起ころうとしているの?)


 この時、美優自身は今の話しのせいでまだ気付いて居なかった。

 自分の真後ろにいる、角の生えた少女に………そして、この少女と春輝が自分の命運を握っている事に……。


「…………謎の失踪事件ですか………これは、私と春輝が動くしかないようですね。春輝がこの人を監視しろ、といった原因もそこにあるようですし……」


 静かに呟いた後、少女は美優の後ろからその姿を消していった。

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