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ソウルライフ~見鬼の少女と用心棒~  作者: 吉田 将
第壱幕   二人の用心棒
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晴天の出会い

 六月中旬のとある月曜日…………その日は朝から晴れていた。普通、六月と言えば梅雨なのだがこの日は珍しく快晴だった。

 良い天気だとこちらまで嬉しくなる。そう思いながら十六歳の少女、月見里やまなし美優みゆは自分の通う高校への通学路を歩いていた。

 なんの変哲も無い街並み……同じように学校や職場へ向かう人々……普通の人から見れば、ごくありふれた日常の光景である。

 だが、美優の目には別のモノも映っていた。

 電柱に隠れるようにして佇む生気の無い女性……細いヘビのような生き物……小人程の大きさの黒い何か…………よく漫画やアニメで描かれる妖怪や幽霊といった類いの者達だ。

 普通ならこのような光景を見ていれば、頭がおかしくなりそうだが、幼い頃より見鬼けんきの才があった美優にとっては、ごく当たり前の事となってしまった。

 見鬼の才とは読んで字の如く、鬼……即ち、妖魔や霊といった異形の者達を見る事が出来る才能の事だ。呪術師になる場合、この才を持っている事が最低条件なのだが生憎、美優は呪術師の家系では無くただの一般家庭に生まれた少女である。

 第一、そんなものにも興味は無い。


「……やっぱりこの時期だから妖怪もジメジメした雰囲気を持っているのが多いなぁ……」


 周りにいる異形の者達を眺めながら歩いていると、いつの間にか目的地である高校が見えてきた。


 (今日は何も起こりませんように……)


 祈るような気持ちで校門に近付く美優の頭の中には過去、授業中に入ってきた幽霊の呻き声によってクラス全員が戦慄した記憶や妖怪が教室で暴れまわり、ポルターガイストのような事が起こった記憶などが入っている。

 だけども、それは本当に偶然起きた事を美優は見ていた。

 だからこそ、学校に入る時はこうやって神頼みをしてから入るようにしている。

 人間と妖怪、お互いにとって平和な日でありますように―――。

 見る事しか出来ないが何もしないよりは良い、そう自分に言い聞かせながら校門を潜った時だった。


「おわっ! 危ねぇ!」


「えっ?」


 誰かの声が聞こえ、後ろを振り向くとそこにはスケートボードに乗った男子生徒が真っ直ぐ美優に向かって来ていた。


「きゃあ!」


 このままじゃぶつかる―――。

 そう思った美優は激突するという現実から逃れる為、思わず目を閉じた。


「くっ…やべぇ! このままじゃ……」


 一方の男子生徒は何とか激突を避けようと美優にぶつかるギリギリの所で体重をボードの片側に乗せ、体全体を倒す。


「間に合えぇぇー!」


 願いにも近い叫び声を上げるとボードはそれに応えるかのように美優の横を通り、逸れて行った。

 だが、横に逸れ過ぎた為か、ボードは校門の近くに植えている松の木目掛けて一直線に進む。


「流石にこれは…無理………だぁぁぁー!」


 断末魔に近い叫びを発しながら男子生徒は松の木に当たり、地面に転がる。


「…………………あれ? 痛みが来ない?」


 暫くして、松の木に当たった音を聞いた美優が恐る恐る目を開けて見ると、そこには先程スケートボードに乗っていた男子生徒が目を回しながら地面で伸びていた。

 恐らく相当な衝撃だったのだろう………男子生徒は「おぉぉぉ……」と呻き声を言うだけで立ち上がろうとしない。


「わっ! 大丈夫ですか!?」


 慌てて男子生徒に近付いた美優が怪我をしていないかどうか確かめる。

 幸いな事に腕や膝を擦りむいただけで大きな怪我はしていないようだった。


「いてて………あ~、ありがとう。大丈夫だ」


 美優が怪我の具合を確かめている間に男子生徒は気が付き、お礼を言いながら制服のズボンに付いた土を払ってゆっくりと立ち上がる。


「ごめんなさい……アタシが避けなかったばっかりに……」


「いや、謝ることはねぇよ。元はと言えば俺が悪かったんだし……アンタに怪我が無くて良かった」


 そう言いながら無邪気に笑う男子生徒に美優は少しドキリ、とした。

 目の前の人物は黒い髪を少し立たせた程度で背も美優より少々高いだけ………別にモデルのように整った顔立ちをしている訳でも無く、身長もかなり高いという訳でも無い。

 しかし、何故か美優はこの男子生徒が気になってしまった。


「あの………すみません。お名前、教えて貰っても良いですか?」


「ん? 俺の名前? 俺の名前は………」


 その時、学校の周囲にチャイムの音が響き渡る。どうやら、話し込んでいる内にホームルームの時間になったようだ。


「おっ! チャイムって事は遅刻へのリーチって所か? 悪いな、色々と………また今度、会おうぜ!」


 男子生徒はチャイムの音を聞いた瞬間、近くに落ちているスケートボードを担ぎ、美優にそう謝ってから学校の中へと走っていく。


「あっ、ちょっと……」


 せめて名前だけでも聞こうと引き留めようとしたが、男子生徒は振り返らずそのまま走って行ってしまった。

 美優はその姿を暫く眺めた後、自身も教室へ向かうべく学校の中へと入って行った。


「…………全く、慌ただしいにも程があります…」


 しかし、今までのやり取りを物陰からこっそり見ていた少女の存在について、この時…美優は気付いていなかった。






 チャイムの音を聞いた為か少し小走りをしながら美優は自分の教室の前まで行き、ドアを開けた。教室の中では一部の生徒達が席に着いており、ホームルームが始まるのを待っていた。


「おはよ~!」


「おっはよ~! 美優、どうしたの? 遅刻するなんて珍しいじゃん」


「ちょっと、色々あってね……先生は?」


「まだ来てないよ。何でも、転校生が来るとか来ないとかで……」


「転校生?」


 友人に挨拶をした後、自分の机にカバンを置きながら美優は椅子に座り、詳しい話を聞く。


「そ、ほら……美優の隣の席。空いてるでしょ?」


 見ると、先週の金曜日には何も無かった場所に机と椅子がある。

 つまり、ここに座るという事なのだろう。


「一体どんな人が来るの?」


「それがさぁ、分からないんだよねぇ~。多分、もう少ししたら先生が来る………」


 友人がそう言い掛けた時、教室のドアが開いてそこから担任の先生が入ってきた。

 美優達を含め、話をしていた者は水を打ったかのように静かになり、立っていた者はいそいそと自分の席に戻り始める。


「はい、皆席に座れよ~。今日は新しい仲間が来るからな」


 先生の言葉に再び教室内がざわつく。

 その光景は予想されたものなのか、先生は特に注意をする訳でも無く、教室のドアに向かって「入って良いぞ~」と声を掛ける。

 すると、その途端………ガラッと勢いよくドアが開き、そこから黒い髪を少し立たせた男子生徒が入ってきた。

 美優はその男子生徒を見て「あっ!」と小さく声を上げる。

 紛れもない、登校中ぶつかりそうになったあの男子生徒だ。


「え~…今日から一緒に勉強する事となった五十嵐いがらし春輝はるきだ。皆、よろしく頼むぞ」


「よろしくお願いします」


 ざわめきが相変わらず起こる中、美優だけはただ呆然としていた。

 まさか、こんなに早く再会するだなんて夢にも思わなかっただろう。


「それじゃあ、五十嵐は月見里の隣の席に座ってくれ」


「月見里? …って誰ッスか?」


「あぁ、そうか。すまんすまん……ほら、あの栗色のセミショートをした………」


「………ん? おぉ、アンタか!」


 先生は美優の事を指差し、春輝はその方向を見た瞬間、驚きの声を上げる。


「お、なんだ? 月見里と五十嵐は知り合いか?」


「いえ、偶々朝に校門で会っただけですよ」


「そうなの? 美優」


「うん、そうだよ」


 先生と友人の質問に二人が答えた後、春輝は美優の所に来て隣の席に座る。


「いや~、びっくりした。まさか、来て早々こんな事が起こるなんて……」


「うん、アタシも……まさか君が転校生だなんて思いもよらなかった」


「ま、何はともあれ……これでアンタが聞こうとした俺の名前も知れた事だし、取り敢えずは結果オーライだろ?」


 何が結果オーライなのかは分からないが、確かにこれで名前を知る事が出来たので美優にとって嬉しい誤算になったのは言うまでも無い。


「これからよろしくな! 月見里」


「うん! こちらこそよろしくね、五十嵐君…………!」


 春輝と会話しながら握手を交わしている途中、美優は何かの気配を感じ取り、後ろを振り向く。

 美優達の席は教室の一番後ろ………そして今さっき、春輝と横を向いて話していたので気配を感じた場所は教室のドアという事になる。

 しかし、美優がそこを見ても何も居ない。

 あるのは半開きになったドアだけだった。


「…どうした?」


「……え、あ…うん、何か後ろから妙な気配を感じて……」


「ドアが半開きになってるからな……きっとそのせいだろ?」


「うん、そうかも……ごめんね!」


 変なモノを見る事が出来るなんて言っても、恐らく信じて貰えないだろう。逆に言ったとしても気味悪く思うに違いない……。

 そう考え、春輝の意見を肯定した美優は授業の準備を始める。

 だが、美優が感じた気配は気のせいなんかじゃなかった。

 その証拠に暫くすると先程のドアの半開きの部分から一人の少女がひょっこりと顔を出す。


「………あの女の人、私の気配を感じる事が出来るのですか?」


 少女は小さくそう呟いた後、再び物陰に隠れながら様子を伺っていた。


「………」


 一方の春輝は横目で美優を見た後、先程握手をした手に視線を移し、難しい顔をしていた。

 それに気付いた美優が春輝に声を掛ける。


「どうしたの? 難しい顔して………」


「……いや、何でもない」


 春輝はそう言って、前を向く。その様子を見た後、美優も授業に戻るべく前を向いた。

 しかしこの時……美優は、春輝が難しい顔をしていた理由が自分に関わる事だとはまだ知るよしも無かった。

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