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ソウルライフ~見鬼の少女と用心棒~  作者: 吉田 将
第壱幕   二人の用心棒
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再会

 全ての授業が終わった学校の放課後……春輝達は昼休み同様、再び屋上に来ていた。

 空に昇る陽は若干、西に傾いてはいるもののまだ夕暮れまでには至っていない。


「……本当に必要なものなんて無いの?」


「あぁ、霊媒師とかならいざ知らず……俺はただの憑霊使いだからな」


「ただのって……どっちも同じようなものじゃないの?」


「それが違うんだよなぁ~。まぁ、一般人には違いが分からねぇか。普通……」


「普通は全部一括りで扱いますからね」


「簡単に言うとプロとアマチュアの違いだな」


「プロとアマチュア?」


「はい。霊媒師のみならず陰陽師や僧侶や巫女……果ては神父やシスターといった方々は職業としているその道のプロです。逆に春輝や正吾のような一般人、他に職業を持っている方々はその道を極めた訳ではないのでアマチュアということです」


「実際、俺はお祓いなんて芸当は出来ないし……お経を読んだり、結界を張るっていうのもちょっとしか出来ないからな。まともに出来るといえば、話すことと憑霊に関する技術だけだ」


「ちょっとでも出来るんだ……」


 それだけでも十分すごい、と思うのだが春輝達からして見ればまだまだらしい。


「他の憑霊使い達の中ではさっき言ったプロ同様のことが出来る方々がいます。その点、春輝はそういうことに関してはからっきしです……が、腕っ節と小技に関しては上手いんですよ」


「今回、美優の親父さんを会わせるのは憑霊使いならではの技術だ」


 春輝はそう言いながら、ポケットから白いチョークを取り出す。

 恐らく、教室からくすねてきた物であろう。


「一般に生者が死者と正当に会う方法はいくつかある。まず一つが修行を経た巫女が行う事が出来る〝口寄せ〟……死者の魂を呼んで依代よりしろである自分に憑依させて意志を語る方法だ。忍者漫画のようにカエルとかは出ないからな。んで、もう一つが〝交霊術〟……交わる、降ろすとかいろんな字を使うけど今は口寄せとの差別化のため交わる方な。一般にコックリさんやウィジャボードといった道具を使う。こっちは占いや娯楽といった要素が強いな。口寄せと違い、修行しなくても道具とやり方が分かれば素人でも出来るのが特徴だ」


「ただし、手順を誤れば大変なことになりますし……プロとは違って呼ぶものを選べないので小から大まで様々なものが寄ってきます。決してマネしないようにして下さい、遊び半分なんてもってのほかです」


「まぁ、やるにしてもきちんとした手順の確認や対処出来る人を一緒に交えるといった準備は必ず必要だ」


 屋上の床に口寄せ、交霊術とチョークで書いていく春輝。

 もはや、これが交霊術なんじゃないのかと思ってしまうくらいだ。


「確かに……コックリさんは遊び半分でやっちゃいけない、って聞いたことがある」


「交霊術なんて神秘的な響きだけど……普通に考えたら相手の予定も聞かずに呼びつけて、適当に帰らせることと同じだからな。そりゃ怒るわ……」


「ちょっかいを出さなければ危害なんてありません。人間と同じですよ」


 確かに春輝や小鈴の言う通り……そんな風に考えると人間側の方に非がある。

 これは、マナーというよりも常識そのものだ。


「他にも色々あるが……大きく分けるとこの2つだな。口寄せは人間憑依型、交霊術は物質憑依型……どちらも共通として意志を複数の他者に伝えることは出来るが、見ることは出来ない。だが、憑霊使いならではの方法では見ることも出来る。ただし、お一人様限定だ」


 憑霊使いならでは……お一人様限定……この言葉を聞いた美優はまさか、と思いながらも恐る恐る尋ねた。


「もしかして……憑纏?」


「正解。と言いたいが、実は若干違う」


 そう言って春輝はチョークをポケットにしまう。

 床には先程書いていた口寄せ、交霊術の他にもう一つ“憑幻現術ひょうげんげんじゅつ”という文字が追加されていた。


「今回やるのは憑幻現術っていうものだ。簡単に説明すると、見えないものを見えるようにする技術だ。小鈴が良い例だな」


「小鈴ちゃんが?」


 美優は小鈴を見るが、別にこれと言って変わった所はない。

 以前と同じ彼女だ。


「別に変わった所はないみたいだけど……」


「そりゃ、端から見ればな。でも、不思議に思わないか? どうして、憑霊であるコイツが殴る、蹴るといった事が出来るのか? 昼休みの時みたくタッパーを持つ事が出来たのか?」


 春輝の言葉を受け、美優は「あっ!」と声を上げた。

 小鈴は憑霊である。

 憑霊は美優のように霊感のある人なら他の一般人とは大差ない程、鮮明に視える。

 だが、鮮明に視えるからといって同様に物質に干渉出来る訳では無い。

 それなのに、小鈴は堂々と干渉しているのだ。


「先程、春輝は憑幻現術を見えないものを見えるようにする、と言いましたが……それは他者である生者と憑霊を引き合わせるという意味です。もう心を通わせた憑霊使いと憑霊ならば、自身の力を分け与え……好きな時に具現化する事が可能なのです」


「例えるなら携帯電話みたいなもんだ。力という名の電気を憑霊という携帯電話に与え、好きな時に使う……まぁ、違いは憑霊自身がそれを使えるという事だな」


「へぇ~」


 世の中にはそんな魔法のようなものがあるのか、と美優は思わず感心してしまう。


「他者とそれに関わりのある憑霊の場合は、心を通わせる必要がないから俺から美優に力を与え、それを美優が親父さんに与えれば良いんだ」


「……えっ? 春輝君が直接お父さんに力を与えるんじゃないの?」


「俺からは出来ない。俺は親父さんと心を通わせてないし……それに具現化するには心を通わせた者の力が僅かに必要だ。だから、俺の力を美優に流して通すことで美優の力が僅かに付くんだ」


 どうやら、やり方は簡単だがその裏には深い意味があるらしい。


「奥が深いね……」


「ま、説明するよりも実際に体験した方が早いよな」


「そうですね」


 善は急げ、と言わんばかりに春輝は自身の媒体である笛を取り出すと、屋上の柵にそれをぶつけ、あの仏壇の鐘を鳴らしたような音を響かせる。

 そして、笛を美優の額に当てた。


「これで完了っと……」


「えっ……あ、あ……れ……?」


 その瞬間、美優の身体はふらつき……春輝の「ごゆっくり」という言葉を最後に彼女の意識は完全に堕ちた。




 ──────【1】──────




「……ん、うぅん……こ、ここは?」


 暫くしてから、美優はゆっくりと目を覚ました。

 気がつくとそこは、学校の屋上ではなく真っ白で何も無い空間……周囲には春輝はおろか小鈴すら居ない。


「春輝君! 小鈴ちゃん! どこに居るの!」


「大丈夫だ。彼らは気を使って外で待っているよ」


「…………えっ?」


 突如、背後から聞こえてきた声に美優は思わず固まる。

 その声は懐かしくも聞き覚えのある……しかし、長らく聞いていなかった者の声。


「美優、少し髪を伸ばし過ぎていないか? あれほど髪を短くしろ、と言ったのに……」


「お父さん!」


 美優は声の主の言葉を遮り、振り返る際に抱き付いた。

 そこには白いワイシャツにスーツのズボンを履いた男性……美優の父親が居た。


「お父さん……お父さん……!」


「……まぁ、今回は良しとするか。美優、大きくなったな」


 美優の父親はそっと彼女の頭を優しく撫でる。

 美優はそれに身を委ねつつ、父親の顔をジッと見つめた。


「あのね……あのね、お父さん。アタシ、話したい事がたくさんあるの!」


「あぁ、聞かせてくれ。時間が許す限り……」


 それから美優は父親と長いこと会話を楽しんだ。

 家族のこと、学校のこと、友人のこと……とにかく色々なことをたくさん話した。

 父親は美優の一言一句全てに笑顔で相槌を打っていたが、やがて真剣な面もちとなった。


「……お父さん?」


「美優、聞いて欲しいことがある。……私の死についての真相とお前の事についてだ」


「……もしかして、アタシが巫女姫だという事?」


「知っていたのか?」


「占い師の人から聞いたから……」


「そうか……なら、話しは早く済みそうだ」


 美優の父親は一呼吸置いてから衝撃の事実を語り始めた。


「私は……巫女姫の力を狙う者に殺された」


「えっ……」


 あまりの告白に美優は言葉を失ってしまう。

 しかし、それでも父親は語るのを止めなかった。

 力を維持するのが難しくなってきたのだろう。


「相手の顔は分からない……声は男だった。その男は巫女姫である美優を渡せ、と私に言ってきた。私は勿論、断ったが……気が付くといつの間にか死んでいた。痛みも何も感じず……意識を失い、目を開けた時には既に……」


 父親の言葉を最後まで聞く間もなく、美優は声を上げて泣き出してしまった。

 もう、これ以上は聞きたくない……そんな彼女の思いの表れであろう。


「美優……会って早々こんなことを言って、すまない。だが、これはお前のためでもあるんだ」


「そんな……アタシのせいで……アタシのせいでお父さんが……」


「お前のせいじゃない。けれど、このままで居る訳にもいかない……美優、彼に……五十嵐君に伝えたいことがある……」


 もう力が枯渇してきているのだろう。父親の身体は徐々に透けてきていた。


「春輝君に……?」


「あぁ、私の代わりに伝えて欲しい……娘を……美優を守ってくれ、と……」


「お父さん? お父さん……!」


「時間が来たようだ……美優、またお別れだな……なぁに、そんなに泣かなくても良い……」


 ―――私はどんな時でも美優の傍に居るから……。


 そう言い残し、父親はその場から姿を消して行った。

 まるで、煙のように静かに消えていった父親に対し、美優はただ叫ぶしかなかった。


「ま、待って! お父さん! お父さんー! これだけはちゃんと言わせて! ……アタシのこと……助けてくれてありがとう!」


 姿は見えないもののその言葉を告げた途端、空間が少し和らぐのを美優は感じた。

 そうして、眩い光が美優を包み始め、彼女の意識は再び堕ちていった。


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