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ソウルライフ~見鬼の少女と用心棒~  作者: 吉田 将
第壱幕   二人の用心棒
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小鈴の正体

「す、すごい……」


 全ての決着が着いた後、この場でただ一人の人間である美優は呆然としながらもその一言を発した。

 辺りには鬼人となった春輝と美優以外、何もいない。


「……終わったか。憑解ひょうかい


 周りを確認し、自身の目でもちゃんと確認した春輝は呪文のように聞き慣れない単語を唱えると手に笛を持ち、憑纏した時と同様それを近くの壁にぶつける。

 すると、再び仏壇を鳴らしたような音が辺りに響き渡り、旋風が春輝の身体を包み込んだ。


「うっ!」


 旋風の激しい風に当てられ、思わず目を瞑る美優。

 そんな彼女が風が収まった頃にゆっくりと目を開けると、そこには学校で見かけるいつもの春輝と小鈴と呼ばれていた少女の二人が立っていた。

 目の前の春輝には先程まであった紅い目や二本の角は無い。


「ふぅ……一件落着っと。月見里、大丈夫か? 今回は災難だったな」


「五十嵐君……?」


「おう! 正真正銘、人間の五十嵐春輝だ」


「……本当に人間?」


「なんだ、その質問……人間に決まってるだろ?」


 疑惑とまではいかなくとも、半信半疑な視線で美優は春輝を見つめる。

 そんな美優を見て、当の本人である春輝は困り果てたように小鈴に耳打ちした。


「なに、俺なんかやったっけ? 極力早く助けに行ったつもりだし、月見里を巻き込まないように攻撃にも配慮したんだけど……」


「いや、春輝。これは第三者である私にも心当たりが分かりますよ?」


「なんでお前に分かって俺には分らないんだ?」


「……それはこっちが聞きたいですよ。憑霊ひょうれいとか憑纏とか憑術とか……今まで何も知らなかった人が見ただけで分かると思ってるんですか?」


「あぁ! そういう事か!」


 漸く合点がいったような顔をする春輝に小鈴は疲れたように溜め息を吐く。

 やがて春輝は美優の方に視線を向けると困ったように軽く頬を掻いた。


「え、えぇ……と……何から説明したら良いんだ?」


「…………アタシが質問するから五十嵐君はそれに答えてもらって良いかな?」


 小鈴と春輝のやりとりを眺めていたのだろう……美優は言葉を上手く出せない春輝に簡単に疑問を解消する手段を提案する。


「おぉ、それは名案だな! そうしよう!」


 春輝はその提案に喜び、小鈴は「その方が良い」と言わんばかりに静かに頷く。


「じゃあ、始めに……五十嵐君はさっき人間と妖怪のハーフって言ってたけど…………正確にはどっちなの?」


「さっきも言ったろ? 俺は正真正銘の人間。ハーフってのは憑纏した時だけだ。因みに、こっちが妖怪な?」


 春輝はジト目で自身を見つめる小鈴を指差す。

 指された小鈴は春輝から美優へ視線を移すと彼女へ頭を下げる。


「正式な自己紹介はまだでしたね、月見里美優さん。私は通り掛かりの化け物こと小鈴です。人間で言う所の種族は……鬼です」


 鬼……目の前で平然とそう言った小鈴に対し、美優は思わず「えっ!」と驚きの声を漏らすも慌てて口をつぐんだ。

 鬼は恐ろしいもの……という考えもあったがそれよりも小鈴の姿が鬼とは程遠い姿だったからだ。


「鬼には見えませんか? でも、その証拠にこんなものまであるんですよ」


 ほら、とでも言うように小鈴は自身の短くしているツインテールの髪を解いた。

 そこには飴色の髪に埋もれながらもキノコのような小さい角が二本ある。


「あっ……」


「分かりましたか? 以上で……」


「ちっちゃくて、可愛い!」


 美優の思いがけない反応に小鈴は思わず目を丸くした。

 まるで意外なことを聞いたと言わんばかりに……。


「ねぇねぇ、小鈴ちゃん。この角触って良い?」


「……ど、どうぞ」


 戸惑いつつも冷静さを欠けずに小鈴は美優に対して頭を向ける。

 美優は「ありがとう」と言いながらも興味津々で角を触った。


「へぇ~、鬼の角ってこうなってるんだ~!」


「あの……触るのは良いんですが、質問は?」


「あっ、そうだった。ごめんね、五十嵐君」


 美優は触るのを止めて、謝りながら春輝の方へと向き直る。

 だが、肝心の春輝はそんな事など気にせず、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら小鈴を見ていた。


「よかったじゃねぇか、小鈴」


「……別に……一体、何の話しですか?」


「……と、悪い悪い。こっちも話しの腰を折っちまったな。他に何かあるか?」


 少し顔を赤らめながらそっぽを向く小鈴。

 その顔はどこか、嬉しさを含んだように春輝の目には映った。

 けれど、和やかな雰囲気は美優の次なる一言で一気に吹き飛んでしまう事となる。


「うん、ずっと気になっていたんだけど……さっきの人は一体なんだったの? もしかして、この前アタシを襲った人と何か関係があるの?」


 春輝と小鈴を交互に見ながら尋ねる美優に二人は押し黙ってしまった。

 一方、美優は何かいけない事を言ってしまったのか、と不安に駆られる。


「……もしかして、何かマズイ事でも聞いちゃった?」


「…………いや、マズくは無いけど……ま、ここまで知った月見里なら大丈夫だろ。何より、もう誤魔化せない」


「……美優さんは強い霊感をお持ちのようですしね、何よりここまで巻き込まれて知らぬ存ぜぬで隠し通せって訳にもいきませんし……」


「そうと決まれば……一回、俺達の家に帰るか。色々と長くなるしな………………憑纏!」


「えっ!?」


 驚く美優を尻目に春輝は再び、笛を取り出して近くの壁に当てると仏壇を鳴らしたような音と共に笛を吹く。

 そして、旋風を身に纏いながら再び小鈴と一つの存在になった。


「こっちの方が楽だからな……」


「楽ってなに……きゃあ!」


 春輝は尋ね掛ける美優の足を素早く払うと倒れ込む彼女の身体を横抱きの形で受け止め、そのまま持ち上げる。

 それは女の子だったら一度は憧れるであろうもの……。


「ちょっ……これって、お姫さま抱っこ…………」


「別に誰も見ていないから気にすることないだろ? それに、これなら安全かつ早く帰れる。鬼の身体能力でなら朝飯前だ」


 恥ずかしがる美優を抱き上げながら、鬼人は宵闇へとその姿を消していった。

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