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ソウルライフ~見鬼の少女と用心棒~  作者: 吉田 将
第四幕   宵闇に浮かぶ朧月
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過去の追憶~悪~

 春輝の一撃を受け、呆然と自身の紅色に染まった手を見続ける竜巳。

 その感情抱くのは怒りか驚愕か……どちらとも取れるような顔をしていた。

 だが、春輝にはそんなことなど関係ない。

 一手の元に裏切り者を仲間の仇を倒す……それしか考えていない。

 春輝は顕明連を自身の肩程まで上げ、竜巳に向かって構える。


「これで終いだ。お前の罪咎、この鬼人が灰燼となるまで滅する……憑纏皇技、富嶽三十六刑!」


 淡い茶色の光に包まれた春輝は一気に竜巳に近付き、袈裟懸けに斬りつける。


「……憑纏憑術、音呼騙ねこだまし」


 迫り来る春輝に対し、竜巳は呟く。

 だが、皇技には憑技、憑術による打ち消しや相打ちは出来ない。

 これで決まる……そう春輝が思った瞬間、顕明連が届く前に突如、竜巳の姿が目の前で消えた。


「何ッ!? ガハッ!」


 そして、顕明連を振り切ったと同時に頭上に強い衝撃が走り、春輝は地面に倒れた。

 一体、何が起こったのか分からない……春輝は痛みに堪え、背後を振り返るとそこには首を回し、退屈そうな様子の竜巳が立っていた。


「な、何をした……皇技には憑術は効かねぇ筈……!」


「いや~、皇技を使ってくるなんてな。ビビったぜ。だけど、まだおれの方が一枚上手だったみたいだな」


「どういうことだ……?」


「どうもこうも、憑霊使いに常識や定石が通じないって言ったのはお前の方だぜ、五十嵐。と言ってもこれは基本中の基本だけどな」


 ゆっくりと立ち上がる春輝を見下し嘲笑いながら竜巳はそのカラクリを話す。


「簡単だ。皇技に憑技や憑術が効かないのは“皇技に対して発動した場合”だ。その他に対して俺が憑術や憑技を使い、その第三者的なものがお前に干渉した場合は皇技の法則は崩れる。特に憑術や憑技の影響を受けていないものは尚更だ」


 分かるか? といった風に竜巳は意地悪な笑みを浮かべた。

 春輝はどういう意味なのか少し考え、そしてその言葉の意味を理解した。


「……なるほどな。あの憑術は俺じゃなくお前自身に掛けたものか。確かに防御系の憑術は自身に掛けるが、それでも一応は俺の皇技と接触して無効にされちまう。だから、お前は自身に幻系の憑術を掛け、俺があらぬ方へ攻撃するように仕向け、“俺自身のミス”で皇技を不発するように仕向けた訳か……」


「おお、流石に隊長なだけはあるな」


 当たれば強力なものでも使用者が使う所を間違えば意味は無い。

 自身で竜巳に言い放っておいて定石にこだわるあまり好機を逃してしまったことに悔しさがこみ上げてくる。

 それでも、一矢報いる一心で春輝は竜巳を観察する。

 竜巳の頬には先程付けた刀傷がある。

 どうやら皇技前の一撃を与えたものは本物で間違いないらしい。


「……あの憑術は音を形として留めておく憑術か?」


「おっと、悪いがそこから先はノーコメントだ」


「なんだよ、つれねぇな。皇技の弱点を教えてくれるほど羽振りが良かったんじゃねぇのか?」


「おれは常識を言ってやったまでだ。手品のタネを明かすほどのお人好しじゃねぇ。それに……これから死ぬ奴に教えても意味ねぇからな!」


 そう叫んだ後に竜巳は今度は両手に太鼓のバチのような物を出現させる。


「憑纏憑装、刃蜂じんばち


 バチを指で一撫でするとその撫でた部分を沿うように黒い光がバチを包み込んで先端は蜂の針のように鋭利に尖る。

 その忌々しい光を宿したバチを手に今度は竜巳が春輝へ迫っていった。

 春輝の得物は失敗したとはいえ皇技を発動してしまった為、憑装の顕明連は解け、元の大通連と小通連の二振りの刀に戻っている。

 春輝は歯を食いしばり、二刀を構えて竜巳に対峙した。

 やがて近付いてきた竜巳は二本のバチを振るう。

 一手、二手を避け、三手目の攻撃の際に春輝は持っていた大通連で竜巳のバチを防いだ。

 だが、その瞬間……強い衝撃が大通連を通して春輝の身体に伝わり、切り裂かれるような痛みと共に春輝は後方へとふっ飛ばされてしまった。

 すぐさま起き上がって態勢を整える春輝だが、見ると大通連を持っていた手に切り傷があり、服もところどころに切り裂かれたかのような痕跡が残っていた。

 憑纏憑装、刃蜂……それは打撃と共に武器であるバチに斬撃を宿す憑装。だが、それだけに留まらず音の真骨頂である空気を震わせ放たれる衝撃波にもそれは宿る。更に、バチの先端は尖っており突きによる刺突も可能……防御しても攻撃が伝わる貫通効果と三種類の攻撃系統を併せ持つ。

 春輝が先の二手を避けてはいたもののその攻撃は着ている服に届いていたのだ。

 だが、春輝は貫通までは見抜けたものの衝撃波にも効果が及んでいることには気付けなかった。

 そして、距離を取って様子を見ようとしていた彼はその盲点を突かれる。


「もらった!」


 竜巳は持っている二本のバチを擦り合わせ、その内の一本を横薙ぎに払う。

 すると、擦り合わせた際に出た音が横薙ぎの黒い剣閃の衝撃波となって春輝を襲った。


「なっ! ぐっ……!」


 受け流そうにも時すでに遅く、春輝はその衝撃波をまともに受けて更に後方へと飛ばされ中庭の蔵の壁に激しく打ち付けられた。

 何とか身体を真っ二つに斬られることは無かったが春輝の両腕には深い切り傷が付けられ、鮮やかな血が脈打ちながら流れている。


「ふっ……その腕じゃもう刀をまともに振れねぇな。悪いが、ここでお前の首をもらうぜ! 憑纏憑技、迅太鼓じんだいこ!」


 そう叫ぶと竜巳は持っているバチを中庭の地面に向かって叩きつけた。

 その瞬間、地面を伝って強い衝撃が春輝を襲い、彼は勢いよく宙へと打ち上がる。


「がはっ!」


「そらそらそら!」


 春輝が打ち上がるのを見た竜巳はなおも地面を太鼓に連続でバチを叩き続ける。

 大地が揺れ、空気が震え旅館の本館や蔵にも衝撃が襲う。


「そらよ!」


 ひとしきり打ち鳴らした竜巳は締めに二本のバチを一緒に地面に叩きつけた。

 すると、地面が一斉に隆起し春輝だけでなく蔵や本館も襲い崩壊させた。


「ぐあぁぁ……!」


 隆起した地面に更に打ち上げられ、春輝は砕かれた地面に向かって墜落する。

 割れた大地、崩壊した建物……この短時間により生み出された惨状を見て竜巳は笑いが止まらずにいた。


「ははは! すごい! すごいぞ! たった一体の憑霊の憑装と憑技だけでここまでとは! やはり悪魔というだけの力はある!」


「ぐ……くっ!」


 倒れ込んだ春輝は起き上がることなく拳を作り、竜巳を睨みつける。

 悔しいがこれほどの力があるとは春輝自身も思っていなかった。

 慢心、していた訳ではない。予想外……いや、予想以上のものだった。


「さて、まだ生きているよな? 五十嵐、せめてメインディッシュくらい食らって消えろ」


 今の攻撃の数々で竜巳は皇技発動の条件を満たしている。

 対して、春輝はほとんど力は残っていない。

 だが、諦める訳にはいかない。散っていった仲間の為にも竜巳に利用され、自身の手で滅してしまった憑霊達の為にも刺し違えても倒さなければいけない。

 だから、春輝はまだ憑纏を解いていない。

 最後の命、その一片が消えて無くなろうともやり遂げなければならない。


「うあぁぁぁーッ!」


 腹の底から声を出し、残る力を振り絞って立ち上がる。


「無様だな、五十嵐。潔く諦めろ!」


「無様でも良い! 俺は諦めない!」


「……その熱血、マジでムカつくぜ。さっさと消えちまえ!」


 苛立つ竜巳の頬に浮かぶ“666”の数字が激しく輝き始める。

 それに対し、春輝は二本の刀を握りしめた。

 今の春輝には竜巳の憑術、音呼騙しのような搦手からめてのような技も術も無い。

 かといって、むざむざとやられる訳にはいかない。

 最後の望みは自身が竜巳の皇技を受け切り、逆転の一撃を放つことしか無い。


「死の音色よ、世界終末の音を響かせ、かの者を地獄へ叩き落とす鎮魂歌レクイエムを奏でよ! 憑纏皇技弐式、アポカリプティックサウンド!」


 言霊を唱えると共に竜巳の手にバチではなく金色に輝くトランペットが握られる。

 同時に春輝は憑纏時に使用した笛を取り出し、握り締めた。

 顔に汗を一筋流し生唾を空気と共に飲み込む。

 そんな春輝に対し、竜巳はラッパを吹き鳴らした。

 ラッパ特有の軽快な音とは裏腹に金属をこすり合わせたかのような不快で不気味な音が周囲に響き渡る。

 その途端、春輝の身体は突如黒い煙のような闇に包み込まれる。

 やがて闇は彼の視界をも塞ぎ、竜巳や周囲の景色すらも覆い隠す。

 そして同時に今度は春輝の身体の至る所から炎が発火し、包み込んだ。


「ぐあぁぁぁーッ!」


 叫びながら炎を振り払おうともがく春輝だが、そんな彼を嘲笑うかのように今度は周りにいくつもの突風が巻き起こり、その動きを封じると共に炎の勢いを更に加速させる。


「あぁぁぁーッ!」


 もはや声を上げるしかない春輝に次は強い衝撃が身体を襲う。

 何か大きく固い物がいくつもぶつかり砕ける衝撃……目は見えないがその感触がゴツゴツしたものから春輝は直感でそれが岩のようなものだと感じた。

 恐らく、先程の突風が隆起した地面の断片を巻き上げ、春輝に落ちていったのだろう。

 だが、そんなことを考えていたのも束の間……春輝は突然自分の身体が急速に冷えていくのを感じた。

 手足が言うことを聞かず、皮膚に霜が降り始めて凍りつく。

 このままだと完全に氷漬けにされる……けれども代わりに身体を包んでいた炎が消えたことは幸いであった。

 しかし、熱い状況から急に冷えた状況に変えられたら身体は適応することが出来ない。

 なんとか、身体に力を入れ完全に凍るのを防ごうとする春輝。

 だが、その瞬間……彼は突然、足元から出現した強烈な光に包まれ、思わず目を閉じてしまった。



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