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ソウルライフ~見鬼の少女と用心棒~  作者: 吉田 将
第四幕   宵闇に浮かぶ朧月
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過去の追憶~武~

 春輝が振り下ろした二刀を鎧武者は持っていた大太刀で防ぐ。

 顔は面具めんぐにより隠れている為、その表情を伺い知ることは出来ない。

 ただ、その面具の奥の双眸からは怪しく光が揺らめく。

 鎧武者は大太刀で春輝の攻撃を受けながら、勢いよく彼を自身が出てきた客室へ投げ飛ばした。

 かなりの力の為か勢いが強すぎ、春輝は着地をする間もなく畳に叩きつけられる。


「ッ! 随分な怪力だな!」


 毒づきながらも起き上がる春輝。

 そんな彼に向かって、鎧武者は今度は持っていた弓に背負っていた矢を沿えて構える。

 そうして、強く引き絞り矢を放った。

 空気を巻き込んだ螺旋の矢は春輝目掛けて襲い掛かる。

 春輝は咄嗟に持っていた大通連で矢を防ぐ。

 銃弾も防ぐことが出来るので、飛んできた矢を見切るなど彼にとっては容易い。事実、矢は大通連の刀身に直撃した。

 だが、一つ誤算があった。


「クッ!」


 防いだは良いが、矢を受け止めた大通連は簡単に弾き飛ばされてしまう。

 放った矢の威力があまりにも強すぎたのだ。

 春輝の刀を持っていた手をじっと見る。ジンジンと痺れを感じ、僅かに震える。

 そんな彼に対し、鎧武者は二の矢を放った。

 受け止めるのは得策ではない……ならば、と春輝はもう一振りの刀である小通連を両手で握り、飛んでくる矢の矢じり目掛けて刃を当てる。

 防げないなら、迎え討てばいい。

 けれども、刃で矢を斬ろうと当てた瞬間……小通連は突如、激しく振動し衝撃が春輝の身体全体を襲った。

 螺旋状に放たれた矢は通常の矢よりも威力を増し、削岩機のドリルのようになっていた。

 このままだと刀を折られかねない、と感じた春輝は小通連を手放し、横に逸れる。

 それにより小通連は矢の軌道から外れ、折れることは無かったが矢はそのまま壁に当たって簡単に風穴を空けた。


「……もし、当たったらただじゃ済まないな」


 冷や汗を流し、呟く春輝に鎧武者は三の矢を放とうと構える。

 足元にある畳を返して防ごうにも壁に穴を空けるほどの威力の前には紙同然、ましてや武器も無い今の状態で狙われたらたまったものではない。

 春輝は意を決して、鎧武者に向かって駆け出した。

 自ら矢に当たりに行くような行為……だが、離れた所から連続で狙い撃ちされるより幾分マシだ。

 そんな春輝に向かって鎧武者はついに三の矢を放った。

 放った螺旋の矢が春輝の額目掛けて襲い掛かる。

 そんな迫り来る矢に対し、春輝はスライディングをしながらぎりぎりで避けた。

 そうして、そのまま鎧武者の脛を打つ。

 しかし、足は脛当てにより守られており、全く効いている気がしない。

 それでも春輝は諦めずに今度は鎧武者のその強靭な足を掴むとそれを軸に背後に素早く回り、跳躍する。

 そして、背負っていた矢に手を掛けるとそのまま全ての矢をへし折った。

 これであの強い矢は放てない。敵の持つ一手を潰した春輝は鎧武者から離れて距離を取る。

 けれども、まだ問題は終わりでは無い。相手にはまだ大太刀と重甲な防具がある。

 いかに、攻撃をしのいであの強固な鎧を突破するかが勝負の決め手となる。並の攻撃では歯が立たない。

 春輝は憑纏に使用した笛を取り出し、その笛に赤いとんぼ玉を括り付ける。

 対して鎧武者は大太刀を構え、横薙ぎに春輝を斬ろうと力強く振った。

 彼はその大太刀の刃を跳躍で避けると鎧武者の兜を掴み、背後に回り込む。

 そうして、今度は振り切った大太刀の刀身に着地すると兜に裏拳で殴るかのように笛をぶつけて力強く吹いた。

 軽快な音が廃墟に響き渡る。


「憑纏憑術、鬼火!」


 叫ぶと共に笛を持っている手とは反対の手を鎧武者の顔にかざす。

 翳した手に次第に小さな火の玉が集まり始め、みるみる内に大きな火の玉と化す。

 その成長した火の玉を春輝はそのまま放った。

 火の玉は鎧武者の顔に至近距離で直撃し、爆発を起こす。

 その衝撃により鎧武者は背中から倒れた。

 鎧武者から畳のある客室へと離れた春輝はそこから畳み掛けるよう更に両手から炎を出して、拳大の火の玉を無数に撃ち出す。

 火の玉はマシンガンのように鎧武者に撃ち込まれ、そのまま火だるまにするが相手は熱さを感じないのかそのまま起き上がってくる。


「これじゃあ、埒が空かないか……」


 炎に包まれてもなお動く様子に呟きながら、春輝は弾き飛ばされた大通連と小通連を拾い上げる。

 その後、自ら灯していた炎を消して今度は緑色のとんぼ玉の根付を取り出し笛に結びつけた。

 そうしている間に鎧武者は重甲な足音を響かせながら、一歩一歩ゆっくりと春輝に近付き、客室に入ってきた。


「憑纏憑装、顕明連!」


 近付いてくる鎧武者に臆することなく春輝は笛を鳴らした後にそれを小通連と大通連にぶつける。

 当てられた二振りの刀は宙へと浮き上がり、春輝の持っている笛と重なると激しい翠色の光を放ちながら一本の巨大な刀へと変化した。

 春輝は大刀である顕明連を握りながら刀身を水平に寝かせ、構える。

 そんな彼に対し、鎧武者は大太刀を片手で軽々と回すと大股を開き、腰を落として春輝同様に構えた。

 双方とも勝負の立ち合いの如く構え、ジッと機を見るかのように佇みながらジリジリと間合いを詰める。

 両者互いに大きな得物を持っているが故にそこまで間合いを詰める必要はないが、彼らがいるのは廃旅館の屋内であり、大刀を振り回す分には少々狭い。

 静かな緊張が漂う中、先程鎧武者が矢で空けた風穴から冷たい夜風が流れ込み、戦いの熱と鎧武者を包んでいた炎を吹き消す。

 その瞬間―――春輝は動いた。

 畳を蹴り、鎧武者の懐目掛けて身体を飛ばす。

 そんな彼に対し、鎧武者は大太刀を振った。

 柱や障子を斬り裂き、破壊しながら鋭利な刃が春輝へと迫る。


「てりゃあ!」


 凶刃の切っ先が春輝の首に触れる寸前、春輝は声を張り上げながら顕明連を身体全体を使って振った。

 大太刀の刃を顕明連の鍔付近ぎりぎりで受け止め、刃の中央を鎧武者の首付近に近付ける。

 互いの刃が合わさった瞬間、辺り全体を風圧のような衝撃波が走り、畳を全て剥がし、柱にヒビが入る。

 鎧武者の力はやはり強かった。

 ガチガチと顕明連の刃が震え、悲鳴を上げ、春輝の持つ手も離されそうになる。

 もし、これをまともに打ち合っていたら春輝は間違いなく力負けしていたであろう……そう思わせるには十分の強さであった。

 しかし、春輝は腕だけではなく、身体全体で振ったのである。

 古武術において、体幹というのはとても重要で腕や足といった一部の部位を使うよりも身体全体を使った力の方が強い。

 その点においては大股に足を広げ、腰を落として大太刀を振ってきた鎧武者の力が強いのは当然である。

 だが、力の使い所が違った。

 全体を使う……これは人間の身体のみならず物もそうである。

 端が一番始めに欠けるように……一点を集中すると劣化して壊れるのと同じ。

 耐久が弱い部分に力を一点集中で込めれば呆気なく砕ける。

 すなわち、春輝の攻撃を受けた大太刀の切っ先は彼の身体全体全体重を掛けた攻撃には脆く、徐々に僅かな亀裂が入り始めた。

 そうして、亀裂が深くなった時……春輝は渾身の力をそこに込めた。


「うらぁ!」


 大太刀の切っ先は砕け、それぞれの刃がようやく離れる。

 鎧武者の刃は春輝の眼前を斬り、彼の顕明連も振り切られた。

 互いに得物を振り、暫くその場に立ち竦む。

 やがて、先程の風穴から再び一陣の夜風が吹いた時……鎧武者の首は椿の花のようにゴトリと畳に落ちた。

 途端に鎧武者の身体も背中からドサッという音と共に畳に倒れる。

 戦いがようやく決したのを確認した春輝は「はぁ、はぁ……」と荒い息遣いで鎧武者の骸を眺めた後、静かに目を閉じて黙祷し、荒れ果てた客室を出る。

 そうして渡り廊下の扉をゆっくりと開いた後……呼吸を整えながら離れへと向かった。

 ここまでまだ竜巳や他の隊士達を見掛けていない。

 もしかしたら、皆やられてしまったのか?

 そんな不安を胸に抱きながら渡り廊下を歩き切り、離れの入り口まで来た春輝は慎重にその扉を開けた。

 その途端に濃い血の臭いが春輝を襲った。

 この廃旅館に足を踏み入れてから、まだこれほど強い血の臭いを嗅いだことはない。

 激しい戦いを通して、暗がりの中でも目はかなり効くようになっていた。

 離れの中はこれまでの客室とほとんど同じような畳の部屋であったが、中は宴会場かのように広い造りになっている。

 そして、その中で春輝はある人物を見つけた。

 その人物は室内の奥に立っており、背に『辰』と書かれたフード付きの黄色いコートを着用している。


「佐久間隊長! 無事だったんだな! ところで、少し聞きたいことが―――!?」


 ホッと息を吐き、声を掛けながら近付いた春輝はある光景を見て思わず言葉を失い、足を止めてしまう。

 竜巳の足元……その周りにはいくつもの血溜まりが出来ており、そこには変わり果てた仲間達の姿があった。

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