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ソウルライフ~見鬼の少女と用心棒~  作者: 吉田 将
第四幕   宵闇に浮かぶ朧月
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過去の追憶~始~

 春輝が小鈴が上倉町へ来る前、彼がまだ新霊組の丑の隊長として組織に在していた頃……新霊組丑の隊にある命令が下った。

 それはある憑霊達が首都、東京にて大規模な憑災ひょうさいを企てている為、その憑霊達を倒し計画を阻止せよ、との命令であった。

 憑災とは憑霊災害の通称で、憑霊による災害、事件、事故全般のことを指す。

 春輝の所属する“丑”は新霊組の中でも特に戦闘に特化した部隊であった為、憑霊及び憑霊使いとの大規模な戦闘が予想される場面では自然と駆り出されていた。

 警察でいうと特殊部隊のようなものである。

 なので、今回の一件も春輝達が出動することは何ら不思議では無かった。

 春輝自身もそれが普通だと思っていた。

 話しは戻り、その憑災の首謀者は東京都庁周辺において大規模な火災を起こそうと計画しており、今は埼玉の方で仲間達と決行当日について真夜中、会合を行っているとのことであった。

 情報を元に春輝は隊の仲間達と同時に任務を任されていた辰の隊と共に現地へ向かった。

 だが、現地へ赴く途中で問題が起きる。

 その会合を行っている場所というのが、情報から「池永という廃屋」であることは分かっていたのだが、埼玉に池永という廃屋が三軒存在していたのだ。

 出来れば、この段階でもう一部隊追加したい所であったが、当時新霊組は正吾のような憑霊を持たない一般の“隊員”と呼ばれる者達の数に対し、憑霊使いの隊員である“隊士”と呼ばれる者達の数が圧倒的に不足していた。

 戦闘特化と呼ばれる丑の隊の数は隊員、隊士共に合わせて五十名ほどだが、その内で憑霊使いである隊士は春輝も合わせて十二名ほど……しかも全員それぞれ仕事や学校などと事情があるので、一日で動員出来る隊士の数は約五名ほど……その五名には必ず隊長である春輝と副隊長である者が含まれるので実質は約三名ほど……それでも、今回は首都の危機ということもあり憑霊達を一網打尽にする為、七名の隊士がそれぞれ時間を無理やり調整して駆け付けて来てくれた。

 春輝はこれにとても感謝し、それぞれに礼を述べた。

 だが、もう一方の辰の方ではあまり人数を揃えることが出来ず、隊士の数が隊長と副隊長を含め、四名ほどしか集まらなかった。

 それでも時間と憑霊達の計画は待ってくれない……しかも、不思議なことにその日に限って情報も錯綜していた。

 いずれの場所とも憑霊の影がちらついている。

 そこで、春輝達は自身を含めた十一名の隊士達を三等分に分けることにした。

 丑と辰の副隊長二名を中心として四名の一部隊、辰の隊長を中心とした四名の一部隊、春輝を中心として三名の一部隊……それぞれ三グループは指定の場所に向かった。

 春輝達が向かったのは昔、商店としてやっていたという“池永”。

 無論、廃墟である為、人はいない。

 簡単に踏み込めそうであるが、新霊組は政府非公認……春輝達がぞろぞろ入ったら不法侵入となってしまう。

 そこで、突入する際は警察関係の協力者の隊員がまず突入することになっている。

 春輝達の所の突入役はまだ当時、新霊組隊員であった正吾であった。


「じゃあ、ちょっと行ってくる」


「気をつけろよ」


 いつも通りの会話を交わしながら廃屋の中へと入っていく正吾。

 その後ろ姿を眺めつつ、小鈴が呟いた。


「まるで、幕末の新撰組に出てくる池田屋事件みたいですね」


「これでハズレだったらダッシュして他の所に行かなきゃならない訳か……でも、大丈夫だ。俺、くじ運は強いから」


「こんな時に何言ってるんですか? これから生死を賭けて戦わないといけない、という時に……」


 小鈴がそう春輝を嗜める後ろでは二名の隊士が無言で静かにその時を待つ。


「こんな時だからこそだ。緊張してガチガチのまま戦っておっ死んだら、元もこうもないだろ?」


「それはそうですが……あっ、どうやら戻ってきたみたいですよ」


 言い掛け、小鈴は廃屋から出てくる正吾を見つける。

 彼は頭を掻きながら苦い顔をして戻ってきた。


「まいったな。浮遊霊程度の憑霊はいるが……どうやらここじゃなさそうだ。試しに聞いてみたが、そんな憑霊は知らないとさ」


「ってことは、ここはハズレか。他の部隊に電話して状況を聞くとするか……」


「今回はくじ運無かったですね」


 落胆しながら春輝は携帯電話を取り出し、辰の隊長へと電話を掛ける。

 小鈴は副隊長達のいる部隊に電話を掛けた。

 だが、コールを鳴らしても『お掛けになった番号は現在、電波の届かない所に……』と全く繋がらない。


「……なぁ、他の辰の隊長が行った場所って電波状態が悪い山の中にあるのか? なんか繋がらねぇんだけど……」


「いや……隊長が行った池田という空き家は市の郊外にあるけど、電波状態がそこまで悪い訳じゃ……」


「副隊長達が行った廃旅館は山の方にありましたが、そこも圏外や電波状態が悪い訳ではありません」


 同行している二人の隊士が春輝の問いに即座に答える。

 電波が悪い訳ではないのにどうして繋がらないのか?

 そんな中、副隊長達のグループに掛けていた小鈴が春輝へ言葉を投げ掛ける。


「こちらも電波状態が悪くて繋がりません」


「……どうなってやがる?」


 小鈴の言葉に耳を傾けながら春輝は独り言を呟く。

 だが、同時に彼の脳裏に嫌な予感が走る。

 憑霊ならば電波障害を起こすことも造作も無い。


「まさか……嵌められたか?」


「えっ?」


 確証は無い。だが、こういう時程、春輝の勘はよく当たる。

 春輝は一か八か……一番自身がやりたくない、でも確実に分かる方法を使うことに決めた。


「よし、これから部隊を再編成する」


「えーっ! この少ない状態から更に分けるんですか⁉」


「少なくなるとはいえ、俺達の今いるここはハズレなんだ。だから二手に分かれて援護に行っても問題は無い筈だ」


「そりゃあ、そうだけど……」


 口ごもる隊士を春輝は改めて見る。

 その隊士はまだ小学生の少年で辰の隊士、雲原くもはらひびき

 隊は別だが、春輝とはよくゲームとかで遊ぶ仲の良い友達だ。

 稲妻のようなツンツンした髪が特徴で少し生意気な口調があるものの新霊組の中で最年少で現場の経験は幼いながらもかなりある。

 もう一方は春輝の所の隊士で茶髪のショートヘアーとサッパリとした性格が特徴の少女、風峰かざみね凪沙なぎさ

 中学生で春輝の一つ下、体育会系ということもあってか先輩後輩といった関係で彼女もまた春輝と仲がいい。

 とはいえ、どちらも春輝とただ単に仲良しという訳では無い。

 二人共、憑霊使いとしての実力は確かで特に響に至っては、次期副隊長候補ともいわれている程だ。

 そのため、人数が他の部隊と比べ一人少ないものの春輝の部隊に組み込まれたのだった。


「俺は単独で空き家の方を行く。お前らは組んで他の隊員達と廃旅館の方へ行け」


「分かった」


「分かりました!」


 言うが早く二人は背を向けてその場から去ろうとする。

 その時、春輝が思い出したかのように声をあげた。


「あ、二人共、ちょっと待った!」


 突然の声に響と凪沙は揃って止まる。と、同時に春輝は二人が振り返る前にその背に触れた。

 それと同時に春輝の脳内にある映像が流れだした。

 それは響が血だらけになって壁にもたれかかっている姿と手足がバラバラの状態で目を見開き、死んでいる凪沙の姿であった。

 小鈴の持つ顕明連が春輝に見せた“最悪の未来”である。

 あまりの衝撃的な光景に春輝は思わず顔をしかめ、頭を押さえながらふらつく。


「隊長! 大丈夫ですか!?」


「具合でも悪くなった?」


 振り返った二人は突如ふらつく春輝を見て、驚きながらも心配そうに声を掛ける。


「あ、あぁ……いや、大丈夫だ」


 二人に心配を掛けまいと春輝は「何でも無い」といった風に手で制する。

 二人をこれ以上、心配させてはならない……そして、春輝のやるべきことは見えた。


「お前ら、さっきの話し……急で悪いんだが、場所変えねぇか? 俺は廃旅館に行くからお前らは空き家を頼む。もし、空き家に着いて何もないように見えてもそこから決して動くな。もしかしたら、憑霊達が潜伏場所を二ヶ所作っていた場合、そこに来る可能性もあるからな。一時間経っても何も無かったら廃旅館に来い」


「まぁ、場所を変えるのは別に構わないけど……それなら、ここだって同じじゃん」


 響の鋭い指摘に春輝は少し考え込むもやがて何かを決めたかのように頷く。


「そうだな……それじゃあ、響は空き家に向かってくれ。風峰はここで待機。俺は廃旅館へ向かう。正吾もここに残ってくれ。響は空き家に着き、一時間経っても何も無かったらまたここに戻ってこい。そうしたらお前らは廃旅館に来てくれ」


「分かった」


「分かりました!」


 返事をする二人に頷き、春輝は小鈴を伴ってその場から廃旅館へ向かって走り出す。

 そんな最中、並走しながら小鈴が呆れたように口を出す。


「……随分と苦しい言い訳でしたね。一時間なんてそんなに戦う訳ないじゃないですか」


「適当だ。アイツらを遠ざける為の時間稼ぎだ」


「後輩を守るのも良いですが、バレたら責任取らされますよ?」


「命取られるより遥かにマシだろ? 責任なんていくらでも取ってやらぁ」


「全く……」


 口ではそう呆れても小鈴は僅かに笑みを浮かべる。

 一方の春輝は真剣そのものの眼差しを走る先へと向ける。

 僅かな月明りさえも雲に隠れ、瞬く星も見えない夜空は真の闇を作り出し、春輝と小鈴の行く先を覆っていた。


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