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ソウルライフ~見鬼の少女と用心棒~  作者: 吉田 将
第四幕   宵闇に浮かぶ朧月
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スネークウェーブ

「……ここなら良いでしょう」


 上原ダムから自然公園内へと入り、周囲に遊具などが点在する広場へとやってきた小鈴と雪羅はその場所でようやく足を止めた。

 都合が良いことに辺りに人はいない。もし、万が一戦闘にでもなった場合でも心置きなくやれる。


「さて、ストーカーを迎え討つとしますか!」


 雪羅の言葉を合図に小鈴は後ろを振り返って身構える。

 自分達を追って来るものの正体は分からないが、異様な気配は段々と近付いてきているのを感じた。

 太陽は雲へと身を隠し、辺りは陰により下がった気温と静寂に包まれる。

 虫も鳥もまるで怯えているかのように鳴りを潜め、生温かい不気味な風が彼女達の頬を撫でた。

 いつ来るのか―――そう覚悟を小鈴と雪羅が決めた時であった。

 茂みから何やらガサガサと何かが蠢くような音と動きがある。

 しかも、茂みの動きは徐々に次の茂みへと移り、まるで彼女達を取り囲む大蛇がいるかのような動きをする。


「そろそろね……」


「こっちはいつでも良いですよ……どこからでもかかって来て下さい!!」


 小鈴の啖呵を切ったかのような叫び声に合わせて、目の前の茂みから突如として黒い何かが飛び出してきた。

 黒い大蛇……にしてはどこかモザイク掛かったそれは小鈴と雪羅の前に姿を現す。


「なっ……これは!?」


「……蛇ですね」


 小鈴の呟きは間違いでは無かった。

 そこにいたのは黒い大蛇ではなく、黒い蛇……それが無数の集まり大蛇のように蠢いている。

 よく小魚は群れで大きな魚を形作り、天敵から身を守るというが、そんな可愛らしいものなんかではない。


「これは骨が折れそうね!」


「でも、やるしか無いでしょう!」


 そう声を掛け合うのも束の間、蛇の悍ましい集合体は小鈴と雪羅に襲い掛かる。

 彼女達はそれぞれ左右に跳び、難を避けたが蛇達の最初のターゲットを雪羅にしたのかすかさず彼女の方へと迫る。


「ちょっと! こっちに来ないでよ!」


 拒絶すると共に蛇達に向かって口から冷気を吐く雪羅。

 その冷気を避けるかのように蛇達は川の中洲を避ける流れの如く、それを躱し雪羅の背後を取る。

 だが、その蛇達の背後を拳を振り上げ、飛び上がる小鈴が捉えていた。


「はあぁぁぁ!!」


 渾身の力を拳に込め、蛇達の中に突入した小鈴はそのまま地面に拳を打ち付ける。

 すると一瞬広場内に地震のような小さな揺れが起こり、その衝撃によって地面に接していた蛇達は宙へ打ち上げられた。

 けれども全ての蛇に衝撃がいかなかったのか、何匹かの蛇は地面に転がるものの未だ蛇の集合体は崩れない。


「……厄介ですね。それにやっぱりただの蛇じゃ無さそうです」


 軽く舌を打ちながら話す小鈴の言葉に雪羅は相槌を打つ。


「憑霊の蛇ね……でも、あんな集団行動なんて出来るものなの?」


「いえ、出来ないですね。恐らく、誰かが操っているのでしょう……そうなるとどこかに“核”となるようなものがある筈です」


「とはいえ、あんな大量にいる蛇の中からそれを見つけるのもね…………こりんりん、ちょっとこっちに来て!」


 小鈴と話しながら何かを見つけた雪羅は彼女の手を引いてどこかに連れて行く。

 雪羅の行く先にはジャングルジムがあった。


「何をする気ですか?」


「良いから、まずはこの中に入って!」


 問いかける小鈴を無理矢理ジャングルジムに押し込める雪羅。

 そんな彼女の後ろからは蛇の波が迫って来ている。


「こうするのよ!」


 小鈴が入ったことを確認した雪羅は自身もその中に入り、ジャングルジム全体を冷気で吹きかける。

 すると、ジャングルジムの鉄棒に瞬く間に氷の膜が張り、あっという間に堅牢な氷の城へと変貌した。

 蛇の津波はその氷の壁に阻まれ、押し返される。


「どうよ! これなら暫く安全ね! 今の内に核となっている蛇を見つけるわよ」


「……どうでしょうか?」


 余裕と言わんばかりに勝ち誇った顔をする雪羅。

 そんな彼女とは対照的に小鈴は冷静に蛇達の行動に注意する。

 すると、蛇達は突如地面に大きな穴を掘り、その中へと潜っていった。


「行きますよ!」


「えっ、ちょっと何するのよ!」


 嫌な予感がした小鈴は今度は自身が雪羅の手を引き、彼女が作った氷の壁を鉄棒ごと自身の力で破壊すると近くの回転ジャングルジムへ飛び移る。

 すると、飛び移ったと同時にジャングルジムの下からあの蛇の大群が勢い良く噴き出し、氷の城をいとも簡単に粉砕してしまった。


「え……嘘……」


「穴攻めには弱い城ですね。さて……」


 回転ジャングルジムに移り、小鈴達は遊具で回りながら蛇達を見る。

 巨体であれば攻撃を当てることも容易いが、一つ一つが集まっているものとなるとそれも難しい。

 しかも、無数に蠢く蛇の中で当たりとなる蛇はたった一匹……全体を一気に攻める憑術があれば何とかなるが、憑纏でもしない限りそんな憑術が使えない小鈴達にとっては難易度は更にハードモードとなる。

 更にその蛇達の機動力や破壊力も思ったよりも強く、困難に拍車を掛けていた。

 だが、ただ見ていても仕方がない。

 まず行動しなければ状況は良いにも悪いにもならない。

 ジャングルジムを壊して飛び出してきた蛇達が再び地面に潜るのを見て、小鈴達は回転ジャングルジムを降り、その場を離れる。

 ある程度距離を取った後、蛇達は再び地面から勢い良く飛び出し、回転ジャングルジムの支柱を破壊する。

 そうして今度は水の中を潜りながら進む龍のような動きをしながら小鈴達に迫ってきた。

 その傍には球体の金網と化した回転ジャングルジムが転がる。


「春輝が気付いて来てくれれば良いんですが……」


「来るわよ! こりんりん!」


 地面に潜りながら迫る蛇達は今度は波のように左右に広がり、彼女達の逃げ場を塞ぐ。

 小鈴はそれを見て転がっていた回転ジャングルジムを掴んだ。

 その金網の球体と小鈴の手に雪羅が冷気の息を吹き付けて、瞬く間に氷の鉄球を作り上げて小鈴の腕と同化させる。


「はあぁぁぁーッ!!」


 雄叫びを上げながら小鈴は氷の鉄球を振り、蛇の波の一画に風穴を開ける。

 そしてそのまま大振りな攻撃を繰り返しながら蛇達を蹴散らしていく。


「凍てつきなさい!」


 一方の雪羅も持ち前の冷気を放ちながら自分と小鈴の周りにいる蛇達を凍らせていく。

 凍った蛇はその場で砕け散り、ダイヤモンドダストとなって煌めく。

 けれども、ただでやられる蛇達では無い。

 彼らは今度は集団行動から個別行動へと行動を変え、バラバラになって小鈴と雪羅に群がっていく。


「これは……また面倒な」


「ちょっと、離れなさいよ!」


 足や腕に絡みつき、噛みつき……徐々にであるが確実にダメージを与えている。

 更には噛まれる度に激痛が走り、身体中を痺れたかのような感覚を襲う。


(毒まで……少しマズいですね)


 毒と数による攻めにより確実に減っていく体力がより急速に減っていく。

 小鈴は大振りな攻撃に身体全体を回転させた攻撃も加え、身体に絡みついた蛇を振り払いながら攻撃する。

 そんな善戦の為か蛇の数も少しずつ減ってきていた。

 けれども、小鈴の動きもまた鈍くなり体力が減っているのもまた事実であった。

 その反面で疲労だけは増えていく。


「こりんりん無理しないで!」


「ここで頑張らなくていつ頑張るんですか……!」


 気合いを入れて殴る小鈴。

 すると突然に蛇達は個別から再び集団へと戻り、一気に小鈴の方へ向かってきた。

 今の小鈴に始めの時のように避ける力は残っていない。


「くっ!」


 突撃して来た蛇達を氷の鉄球を使い、辛うじて防ぐ小鈴。

 だが、その勢いは凄まじく盾に使った氷の鉄球は徐々に砕け、小鈴の身体は後ろへと押され留まることを知らない。


「こりんりん! ……ごめん!」


 絡みついていた蛇を取るのに必死になっていた雪羅は友の窮地に気付く。

 そして、何を思ったのか小鈴に向かって勢い良く冷気を吐いた。

 その瞬間、小鈴が盾に使っていた氷の鉄球が砕け、回転ジャングルジムの鉄棒の破片と共に彼女は大きく仰け反る。

 同時にそこに雪羅の放った冷気がやってきた。

 すると冷気は鉄棒の破片と小鈴に噛み付こうとした蛇を彼女ごと巻き込んで凍らせ、小鈴を氷の巨大な球体に閉じ込める。

 蛇達は小鈴を氷の球ごと宙に打ち上げ、下から噴き上がる水の如く当たり続ける。

 氷の球は即席で作った為か暫くするとヒビが入り、宙であっという間に砕ける。

 その砕けた氷の中から凍った筈の小鈴が出てきて地面へと落ちた。


「こりんりん!」


 雪羅はすぐさま落下した小鈴の元に駆け寄り、彼女を肩に担いでその場を離れる。

 宙にいた蛇の群れは小鈴に追撃するべく突撃したが、寸での所で雪羅に回収された為に失敗に終わった。


「ごめん、大丈夫?」


「はい……助かりました、雪羅。ありがとうございます」


 雪羅の問いに小鈴は目を開け、危機を救ってくれた雪羅にお礼を述べる。

 とはいえ、終わった訳ではない。

 蛇の数は減らせたが、まだ肝心の一匹を見つけていないのだ。

 それに引き換え、小鈴と雪羅は既にボロボロな状態であった。


「これは……流石に悪い状況ね……」


(春輝……)


 動くのもままならない彼女達に蛇達は攻める手を緩めることなく再び迫ってきた。

 もう、これまでか―――小鈴と雪羅が互いにそう覚悟を決めた時であった。


「小鈴!」


 聞き慣れた声が周囲に響き渡る。

 蛇達の背後、小鈴達のいる向こう側にその人物はいた。

 それを見た小鈴は一瞬目を見開き、そしてようやく安心したかのように柔らかい笑みを浮かべた。


「春輝……」


「いつまで経っても戻ってこないと思っていたらこんな所で遊んでたのか……って、冗談言ってる場合でも無いな。今行くぞ!」


 春輝はそう叫ぶと憑纏に使う小笛を取り出し、躊躇うこと無く小鈴達の元へ向かった。






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