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ソウルライフ~見鬼の少女と用心棒~  作者: 吉田 将
第四幕   宵闇に浮かぶ朧月
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共同調査

各々が慌ただしく朝を迎える中、春輝はというと静かな朝を迎えていた。

とはいえ、別に遅く起きた訳ではない。

彼もまた自身のアパートから外に出ていたのだ。

春輝も燐同様に身体のだるさからくる体調不良に悩まされていたのだが、それでも自身が今やるべきことは果たさなければならない立場にいる。

春輝の身体にとっては休みたい状況ではあったものの、彼の心はそうさせなかった。けれども、皮肉にも無理して動いたお陰で現在、アパートに来ていた虎次郎と鉢合わせにならなかったのは不幸中の幸い、といっても良かった。

そんなことは露知らず、春輝は今一人で上倉町の郊外にある小さな山の丘に来ていた。

別にハイキングに来た訳ではない。その証拠に一緒に来ていた小鈴とは別な行動を取っている。


「……火の無い所に煙立たないっていうから高い所に来てみたけど……やっぱり何にも見つからないな」


手で目から光を遮る屋根を額で作り、上倉町を眺める春輝。

無論、彼は現在町でどのようなことが起こっているのかは分からない。

朧が策を巡らしていたり、虎次郎と燐がその尻尾を掴んだり、美優達が葵の襲撃を受けたことも知らない。

彼の中では滝夜叉姫達は今はまだ何も仕掛けて来ないだろう、と踏んでいるからだ。

しかし、町で起こっている異変については違和感を覚えていた。

虎次郎のように人為的か自然的か……はたまた憑霊の仕業か否か……そんな深い所までは考えていない。

ただ漠然と何となく予感のようなものを感じ取り、勘で取り敢えず小高い所に来たのだ。


「気晴らしも兼ねて来てみたけど、無駄足だったか……まぁ、あんまり最近調子良くないし、俺はここでサボって暫く小鈴に任せるかな」


そう呟くと春輝は適当な草むらを見つけ、その場にゴロンと横になり暫くすると寝始めた。

傍から見たら無防備以外の何ものでもないだろう。しかし、彼には少しばかりの休息が必要なのは確かであった。

それに、この時当人は知らなかったが、ここまで来たのは決して無駄足では無い。

というのも、その頃春輝の憑霊である小鈴はある重要な手掛かりと遭遇していたからである。




――――――【1】――――――




同時刻……春輝と別行動をしていた小鈴は自身の目の前に現れたものを見て固まっていた。

小鈴は今、春輝がいる小高い丘からほど近い所にある自然公園に来ているのだが、あるものを見つけて思わず動きを止めてしまった。

無言の彼女が視線を放つ草むらにはお尻を突き出して何かを探す女性の姿がある。

その格好は少しばかり妖艶だ。


「うーん……手掛かり見つからないわね……」


これを男が見たら一体どういう反応をするのだろうか?

そんな目のやり場に困るような格好をした彼女を見て、小鈴は思わず額を押さえた。

というのも、小鈴はこの女性を知っていたからだ。

それも知り合いというより友達である。


「……そんな所で何をやっているんですか? 雪羅」


まだ周囲に誰もいないことが幸い、とばかりに声を掛ける小鈴。

その言葉を聞いた雪羅は顔を上げ、小鈴の方を向いた。


「えっ、こりんりん! なんでこんな所にいるの!?」


「それはこちらのセリフですが……まぁ、春輝の手伝いですよ。そちらは?」


「あたしはお虎の手伝いでね」


「……ということは虎次郎もここに来ているんですか?」


あからさまに警戒心を露わにする小鈴。

そんな友の姿を見て雪羅は安心させるように言った。


「大丈夫よ。お虎とは今別行動だから……そっちは? 春ちゃんも来てるの?」


「来てはいますが、同じく別行動ですよ」


「そう……」


雪羅としては春輝と会っても別に警戒する必要は無いのだが、今の状況というのもあってか彼女はホッと息を吐いた。

取り敢えず、憑霊同士が遭遇した程度なら何も問題は起きない。


「ところで、虎次郎の手伝いってなんですか? 虎次郎は春輝を狙っているのでは?」


「それが妙なことに巻き込まれちゃってね……」


雪羅は場所を移しながらこれまでにあったことを小鈴に話した。

虎次郎が燐の特訓に付き合ったこと、この町で起きている異変が憑霊か憑霊使いによるものと睨んでいること、その調査を現在雪羅に依頼していること等……とにかくありのままを伝えた。


「どうりで燐のソウルライフの膜張りが早く上達した訳ですね……それに、憑霊に関わることですか」


自然公園内のベンチに座り、自販機で購入したコーヒーを一口啜りながら聞く小鈴。

雪羅も手にしているコーヒーで舌を湿らす。

因みに雪羅のコーヒーは加糖と生乳入りのカフェオレもどきに対し、小鈴のはブラックだ。


「そっ、だからあたしはここにその痕跡が無いか昨日から調査に来ている訳……そっちは確か、春ちゃんの手伝いって聞いたけど、まさかこの町で起きていることの原因が分かったの?」


「いえ、春輝のは勘ですよ。妙な胸騒ぎがしたから気晴らしも兼ねてここに来た……って所ですね。虎次郎のような推理で来たわけじゃないですよ?」


「なーんだ……でも、春ちゃんの勘って何気に鋭いのよね。もしかしたら、ここに何かあるのかも……」


「……その物言いだとまだ何も手掛かりは得られて無いようですね。と、するとここには何も無いかも知れませんよ。昨日もここに来て調べたのでしょう?」


「えぇ」


「それで何も変わった様子が無いなら恐らく外れですよ。となると……春輝の勘が正しく機能すればもしかしたら今日何かが起こるのかも知れませんよ?」


もう既に各所で何かが起こっているにも関わらず、それを知らない小鈴はそう口にする。


「そうなるのかしらねぇ……とすれば、残る場所はあと一つ……」


「どこですか?」


「ダムよ。お虎から渡されたメモにはそう書いてる」


「確か、この自然公園のすぐ近くですよね? 行くなら付き合いますよ?」


「良いの? でも、春ちゃんは?」


「どうせどこかでサボっていますよ。ですから、心配しなくて良いです」


「相変わらず、辛辣ねぇ~……でも、正直助かるわ。ちょうど人手が欲しかったの」


「では、行きましょうか」


そう言って小鈴はベンチから立ち上がり飲み終わった缶コーヒーをゴミ箱に投げ捨てた。




――――――【2】――――――




小鈴と雪羅は揃って自然公園を出て、近くにある上原ダムへ向かう。

自然公園をすぐ降りた場所に散歩コースにもなっている上原ダムの天端がある。

ここは虎次郎が目星を付けた最後の場所……ここで何も無かったら全ては振り出しに戻る。

小鈴と雪羅はその天端の散歩コースの入口にて足を止めた。


「ここを渡った向こう側にあるのは……ダムの管理センターかしら?」


そう言う雪羅の言葉に小鈴が目を向けると彼女の言う通り、寂れた建物が向こう岸に建っているのが見える。


「もし、何かをして隠れるには絶好の場所ですね。管理センターといえども来る人、居る人は少ないでしょうし……」


小鈴は近くにあるダムの説明書きの看板を眺めながら雪羅に同意した。

何かをするうえで、このような好都合な条件の場所もそうは無いだろう。


「じゃあ、早速行ってみましょう」


そう言って雪羅が一歩を踏み出した瞬間だった。

突如、彼女の身体に電気を流したような痛みが走り、悲鳴を上げる間もなく雪羅は強い衝撃によって後方に弾き飛ばされてしまった。


「雪羅!?」


それを見た小鈴は流石に驚き、地面に倒れ込む雪羅に駆け寄る。


「一体、どうしたんですか!?」


「い……つっ……何だか分からないけど、いきなり何か強い力で弾き飛ばされたわ……!」


苦痛に顔を歪めながら語る雪羅の話しを聞いた小鈴はすぐ近くに落ちている石を拾って先程雪羅がいた方へ投げる。

しかし、石は何事も無かったかのように地面に転がっていった。

それを確認した小鈴は今度は自分自身でゆっくりと近付きながら、慎重に手を伸ばす。

すると、指先に何かピリッとした痛みが走り、次の瞬間には小鈴も雪羅同様に強い衝撃によって後方へ弾き飛ばされた。

けれども、雪羅の経験を生かしてか小鈴は何とか踏みとどまり倒れずには済んだ。


「これは……結界みたいですね……」


身体に残る痺れを感じ取りながら、僅かに震える手を見て小鈴は呟く。

小鈴や雪羅は元々が憑霊の中でも妖怪に属する部類……故に結界に関しては敏感に感じ取ることが出来る。

しかし、それでも憑霊使いの憑霊という以上、神社や寺社の結界についてはある程度の耐性を持っているのだ。

けれども、そんな耐性の持つ小鈴達がいとも簡単に弾き飛ばされたということはここに張ってある結界は並大抵のものではない。


「どうやら、この先に何かがあるのは間違いなさそうね」


「そうですね。春輝と憑纏すれば入れるかも知れませんが……今の私達にはこの先に進むのは無理ですね」


とにかく怪しい所が見つかった……それだけで十分である。

小鈴と雪羅は無理に進もうとせず来た道を引き返そうと踵を返す。

だが、動き出そうとしたその瞬間―――二人は何かを感じ取り、その場で立ち止った。


「……雪羅」


「えぇ、何か……来るわね」


揃って後方を振り返る。

天端の道の向こうには何も誰もいない。

しかし、地鳴りのような不気味な音がほんの僅かに聞こえる。

しかもそれはこちらに近付いて来るかのように少しずつ少しずつ大きく鳴っている。


「……今、こんな所で戦ったら明らかに不利よね?」


「自然公園のある所まで走りましょう。それで向こうが諦めてくれるとは思いませんが……広い場所の方が何かと好都合です」


二人は顔を見合わせ、その場から駆け出した。

太陽が雲に隠れ、辺りが陰となる。

そんな中、小鈴と雪羅の後ろから蠢く黒い波が全てを呑み込まんとばかりに迫ってきていた。

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