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ソウルライフ~見鬼の少女と用心棒~  作者: 吉田 将
第壱幕   二人の用心棒
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鬼人降臨

 町の外れにある森の中……そこには、古びた一軒のホテルがある。

 ホテルは外装だけは何とか保っているが、中は荒れ放題な上、天井は落ちて、鉄骨が至る所から剥き出しとなっている。

 俗にいう廃墟という物だ。

 このホテル……元は、西洋に似た造りの為か、森の中に建つ洋館として一時期多くの客が訪れていた。

 しかし、そんな洒落たホテルも不景気という荒波には勝てなかったのか、二年も経たない内に閉める事となった。

 現在は取り壊す費用も無い、との事でこのように放置されている。



 そんな廃墟の二階、鉄骨が木々の枝のように出ている所で美優は気を失っていた。

 先程の猿轡は解かれているものの、鉄骨に付いている白い糸に四肢は拘束されている。


「………ん……ううん…………こ……ここは?」


 頬を撫でる生暖かい風に美優はようやく目を覚まし、自分の置かれている状況を確認した。


「な、なに……これ……」


 手足に付いている糸を見ながら呟くと物陰の隅の方から誰かが近付いて来る。


「ようやくお目覚めのようね、お姫様」


「あ、あなたは……」


 近付いて来たのは美優を拐ったあの謎の女。

 美優はその女に対して尋ねた。


「どうして、こんな事を…」


「決まっているでしょう? 力を得るためよ」


 そう言って、不気味な笑顔を浮かべた女は身体を曲げ、四つん這いの格好になる。


「うぅぅぅぅ……ウアァァァァァァ!!」


 突如上げた呻き声が叫び声に変わった瞬間、女の下半身は風船のように膨れ上がり、左右の腰元から細長い何かが出てくる。

 それは先端が尖っていて、まるで昆虫の足を連想させるようなものだった。

 人間の足もその昆虫のような足へと変わり、人間らしさを残しているのは上半身のみ……腰から下は蜘蛛の身体になっていた。


「………っ!」


「我と我が子でお前の肉を喰らい………神に代わって、我らが全てを支配するのだ!」


 蜘蛛女がそう言うと同時に周囲がざわつき、至る所から人の頭程の大きさの蜘蛛が沸き出てくる。

 その蜘蛛達の下にはバラバラになった人間の身体の一部が乱雑している。


「!? あなたは……一体……?」


「……死出の旅路へ逝く者には………知らなくて良い事だ……」


 蜘蛛女がそう言い終えると共に無数の蜘蛛達は美優へと集まり、その一部は彼女の拘束された身体をよじ登り始めた。


「……っ……いや……来ないで……」


「今更恐怖した所で……誰も助けになど来ない…」


 首を激しく左右に振り、嫌がる美優を蜘蛛女は不気味な笑みを浮かべて眺める。


 自身の子供である蜘蛛達が美優の四肢に噛みついた時、自身は首もとを噛んで消化液を出しながら肉を喰らう。

 そうする事により蜘蛛女は神に等しい力を得る事が出来る………そういう筋書きだった。


「やっと見つけた………その様子じゃ、まだ大丈夫そうだな」


 そう、その者が来なければ……。


「…! 何者だ!」


 突然、聞こえて来た声に蜘蛛女は叫び、抵抗していた美優は落ち着きを取り戻す。


「……今の声……」


 冷静さを取り戻した美優は声の主を探そうと周りを見渡してみるが、その主の声が聞いた事のあるものだと気付き、ハッとした。


「まさか……五十嵐君?」


「当たり〜。……って言っても、その様子じゃそんな余裕も無いか…」


 ホテルの入り口から聞こえて来た声に美優と蜘蛛女がその方を向く。

 すると、そこには………美優のよく知る人物、五十嵐春輝が小鈴を伴って立っていた。


「あっ………あなたは…」


「お久し振りです、美優さん。何とか間に合って良かったです」


「お前! あの時の………一体何者だ!」


「…………あぁ、そういえば。自己紹介がまだでしたね、これは失礼しました。私の名は小鈴……通り掛かりの化け物です」


「そして、俺は……五十嵐春輝! 通り掛かりの高校生だ!」


「誰も春輝の事は聞いてませんよ」


「こういうのは、聞いてなくても名乗るものだ」


「………しかも、何ですかその通り名は。春輝は見た目は高校生、頭脳は中二の……」


「…その、どこぞの名探偵のようなセリフを言う奴の方が中二じゃねぇのか?」


「セリフの一つや二つは流行らせる為に作るようなものですよ」


「いや、馴染み深いフレーズだけど流行ってないからな。それにお前……」


「おい、いい加減にしろ!」


 春輝と小鈴のしょうもない言い争いに、蜘蛛女は痺れを切らして手から白い糸を放つ。

 二人は左右に分かれてその糸を避ける。


「我は今、神の力を得ようとしているのだ! 漫才なら他所でやれ!」


「そうはいかねぇんだよなぁ……」


 怒り狂う蜘蛛女に対し、春輝はのんびりとした口調で話す。


「その娘は俺の友達なんだ。それに今度、何か作ってもらう約束をしてるんだよ………だから、死なせる訳にはいかねぇ!」


「五十嵐君……」


 春輝の言葉に美優は彼の名を静かに呟く。

 だが、今の状況は感傷に浸っている場合では無い。

「五十嵐君! アタシに構わず早く、逃げて! 今逃げれば……」


「お前を置いて逃げられる訳ねぇだろ! それに……安心しろ。俺は………俺達は大丈夫だ」


「フフフ………ハハハハハ! 良いわ! あなた達三人とも我らの贄とさせてくれる………行け!」


 蜘蛛女の合図と共に美優に寄っていた蜘蛛達が彼女から離れ、春輝と小鈴目掛けて津波のように迫って行く。


「春輝!」


「おうよ! 行くぜ、小鈴!」


 迫り来る蜘蛛達に対し、春輝は懐から小さな笛を取り出して近くの壁にぶつけた。

 その瞬間、仏壇を鳴らしたような音が辺りに響き渡り、蜘蛛達は一瞬動きを止める。


「……憑纏ひょうてん!」


 一言そう呟き、壁にぶつけた笛に思いっきり息を吹き込む。

 ピーッという音と共に小鈴の身体は透明になり、春輝の身体は旋風に包まれた。


「な、何をしている! 早く奴を殺せ!」


 蜘蛛女の号令で春輝に飛び掛かる蜘蛛達。

 しかし、旋風が邪魔となって一匹も春輝に触れる事が出来ない。


「もういい! 我が力を使う!」


 飛び掛かっては弾き返される蜘蛛達を見た蜘蛛女は苛立ち、両手から大量の糸を放った。

 けれど、糸で包み込む前に旋風が弾け飛んで無数の蜘蛛達と糸を吹き飛ばす。

 そして、その消えた旋風の中からは春輝ではなく。黒と飴色の混じった髪に黒い着物と赤い羽織り、鼈甲色の襟巻きを付けた人物が現れた。

 腰には二本の刀らしきものを差している。

 その人物は小鈴同様、紅い目をしており、頭にはなぜか二本の角が生えていた。


「五十嵐……君…?」


 いきなり現れた人物に美優は尋ねる。

 尋ねられた人物は懐から紐を取り出し、少し長い襟足を結った後、美優を見つめて言った。


「……あぁ、俺は五十嵐春輝。小鈴と一つになった五十嵐春輝だ」


 声色は春輝そのものだが、美優を見つめる人物は春輝とは違う雰囲気を纏っている。

 五十嵐春輝を名乗った人物は美優から蜘蛛女へと視線を移し、刀を抜いて突き付けた。


「お前の罪咎ざいきゅう、この鬼人がかいしてやろう……」

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