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ソウルライフ~見鬼の少女と用心棒~  作者: 吉田 将
第壱幕   二人の用心棒
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動き出す者

 春輝と別れた後、美優は真っ直ぐ家に帰り、夕食、入浴、余暇時間など一通りの予定を終えて、自室へと入った。

 時刻は22時、美優はパジャマ姿のまま読書をしている。


「……ふぅ、そろそろ寝ようかなぁ……明日も学校だし……」


 本を閉じ、机の電気を消した後ベッドの中に潜り込んだ美優はそのまま夢の中へと落ちていった。





――――――【1】――――――





「ついに…この時が来た……」


 漆黒の闇の中、何者かの声が響き渡る。

 その声は地の底から這い上がってくるかのように、ゆっくりとだが不気味さを纏わせている。


「ただの人間には……もう飽いた…今こそ……神の力を宿し人間を………贄とする時……」


 声と共に何かが蠢くような音も闇の中から聞こえてくる。

 それはまるで、何かが起こるかのような気配を漂わせていた。


「我……自らが、出迎えに行こう………待っていろ…月見里美優……」





――――――【2】――――――





「はっ!」


 この前に見た夢の時同様……美優は目を覚ました。 時計を見ると、時刻は23時55分……日が変わる寸前であった。


「……またあの夢……しかも、アタシの名前を言ってた……」


 悪夢を見たせいか、前と同じくパジャマは汗で濡れていた。

 しかし、今回は前のようにすぐ着替えたりはせず、自身の両腕を掴み、震える身体を抑えている。


「大丈夫……きっとただの夢…ただの夢……だよ………ね………?」


 独り言を呟きながら、自己暗示を掛けていた美優は不意に誰かの視線を感じ、窓の方へと顔を向けた。

 すると、そこには綺麗な顔立ちの女性が窓にへばり付くような形で美優を見ていた。


「……っ!」


「見つけた……見つけた………神の力を宿す人間!」


 顔こそは見ていないものの、この女は前に自分を襲ってきた男達と一緒に居た女だと美優は確信した。

 ベッドから急いで起き上がり、逃げようとドアまで向かう。

 だが、その瞬間。

 突如、窓ガラスの割れる音がして、何かに足を取られるように美優は倒れる。

 振り返って見ると窓ガラスが全て割られ、女の手から出ている無数の白い糸のようなものに美優の足が絡め取られていた。


「……誰か、たす………んぐ!?」


 助けを呼ぼうと叫び掛けた時、女は再び手から糸を出して美優の口を塞ぎ、同時に縄を巻くようにして腕と手首を縛る。


「助けは呼ばせない……やっと見つけた我の贄なのだから……」


「んんっー……! (誰か! お母さん! お姉ちゃん! ………お父さん…)」


 必死に暴れるも、どんどん身体は女の方に引き寄せられ、ついに美優は捕まってしまった。


「さぁ、行こう……我らの元へ……」


「美優ー! どうしたのー?」


 部屋の外から聞こえる声の主に出会わぬよう、女は美優を抱えてその場から立ち去る。

 その去った直後、入れ違いになる形で美優の姉が部屋のドアを開けた。


「美優? 何かガラスが割れる音がしたけど…………美優!?」


 姉が部屋に入るとそこには妹の姿は無く、代わりに床という夜空に煌めく窓ガラスの破片という星とカーテンを揺らしながら自身を撫でる夜風だけがあった。 予想とは裏腹の光景に姉は暫く呆然としていたが、やがて事態を理解し、慌てた様子で寝ている母親に告げた。


「お母さん! 美優が……美優がいなくなっちゃった!」





――――――【3】――――――





「ついに……ついに手に入れた! 神の力を! アッハッハッハ!」


 光が疎らにある深夜の町で各家の屋根を飛び跳ねながら、女は高らかに笑う。

 その女の腕には気を失った美優が白い糸のようなもので縛られ、抱えられる形でいた。


「これで我は……神に等しい力を………!?」


 捕まえた美優を見ながら、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる女は何かの気配に気付き、後ろを振り返る。 すると、そこには春輝と話していた飴色の髪の少女、小鈴が女と同じように家々の屋根を飛び跳ねながら付いてきていた。


「なっ……お前は誰だ!」


「通り掛かりの………化け物ですよ。その女の人を返して貰えませんか?」


「誰が、返すものか!」


 女は家の屋根から近くの電信柱に飛び移ると、そこから狙い撃つかのように小鈴目掛けて手から糸を出す。

 小鈴は宙で身体を捻りながらそれを避けると、近くの家の屋根に着地し、足に力を入れて思いっきり跳躍した。


「……その動き……まさか、我の邪魔をしたのは……お前か!」


「……邪魔? …妙な男の人達の邪魔をした覚えはありますが、あなたの邪魔をした覚えはありませんよ?」


「…やはり……我の邪魔をしたのは………お前だったか!」


 女はそれを聞いて激昂し、落ちてきた小鈴を捕らえるように再び手から白い糸のようなものを出す。

 だが、その糸は蜘蛛の巣のように広がり、辺りの家のアンテナや電信柱に絡み付いてしまった。


「私を捕らえるつもりだったみたいですが……どうやら失敗に終わったようですね…」


「さぁ? それは……どうかしら?」


 急に女らしい口調になった事に違和感を覚えながらも小鈴は落ちながら拳を作り、女を殴ろうとする。

 しかし、その拳は女に届く事は無かった。

 辺りに張り巡らされた糸が小鈴の身体にくっついて、その動きを止めるバリケードのような役割をしたのである。


「くっ……!」


「失敗に終わったのはそっちみたいね……生憎、我は…お前の相手をしている暇は無い。続きはまた今度にしてあげるわ……」


 女は糸に絡まれた小鈴の顔面まで近付き、そう呟いた後、また各家の屋根を飛び跳ねながらその場を去っていった。


「っ……やっぱり………一人だけじゃ…力だけじゃ…ダメでしたね…」


 絡まれながらも辛うじて腕を動かし、上着である着物の懐から小さな何かを取り出す。

 それは折り畳み式の携帯電話だった。


「……人間はよくこんな物で話そうなどと考えましたね……毎度ながら感心するのですよ」


 小鈴は片手で携帯電話を開き、アドレス帳のボタンを押すとそこに出ている、ある人物の欄にカーソルを合わせ、今度は通話ボタンを押した。

 ボタンを押してから3回程コールした後に、その人物は電話に出る。


『お掛けになったお電話は現在繋がっておりません。ピーという……』


「ピーは留守番電話なのですよ。繋がってないのに録音する必要は無いのです」


『なんだよ、ちょっとしたジョークじゃん?』


「今はそんな事を言っている場合じゃないのです。春輝」


 小鈴が電話を掛けた相手は春輝だった。

 電話の向こうの春輝はのんびりとした口調で話す。


『分かってるって、お前が電話を使うのは緊急の時だ。そんで、月見里に危害を加えようとした奴の居場所は分かったのか?』


「………それが、足止めを受けてしまい…逃げられてしまいました…。すみません…」


 申し訳なさそうに話す小鈴に対し、電話の向こうの春輝は相変わらずの態度で労った。


『そうか……分かった。サンキューな! なぁに…大丈夫だって、意外と近くに居るかも知れないし………それに、こういう時こそ余裕とゆとりが大切だぜ?』


「……春輝はもう少し危機感を持った方が良いのですよ…」


『危機感を持つのはお前で充分! 俺はお前に無いものを持てば良いんだから…………それより、俺もそっちに行くから場所を教えてくれ』


「分かりました」


 小鈴は春輝に自分の場所を教えた後、通話を切り、星の浮かぶ夜空を静かに見上げた。

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