第97話:狼の侍VS鈴の甘寧
海兵隊と水軍の親善試合。開幕。
孫呉海兵隊と孫呉水軍。
この二つの組織は互いに孫呉が誇る第一線軍隊であり、名高い武将や軍師が多数所属している。
特に海兵隊は俺達が所属しているということで、他国からは“天の知識を持った軍隊”と呼ばれているらしい。
響きはいいが有名になり過ぎるとそれはそれで大変だ。何しろ他国からのスパイ等が確実に何かしらの諜報活動を行なって来て、対処に手を焼かされているからだ。
現に曹操軍と思える細策の侵入がここ数日の間で急激に増加していて、既に何人か逮捕しているが大概が自決していた。
確実に何かあるだろう。だから不測の事態に備え、孫策様は近い内に南下して現在のベトナム北部等に位置する交州に軍を進める計画をしている。曹操が確実に覇権を握るのならば、確実に南進を開始するはずだ。
それに備えた軍備増強と領地拡大。更に進軍に備えて兵士達の士気を今から高めておく必要が出てきた。
だから孫呉海兵隊本部がある浦口では・・・・・・。
「これより南郷と甘寧による御前試合を行なう‼」
『わぁあああああ‼‼』
俺と思春による御前試合が行なわれようとしていた。周辺にはウルフパックのメンツを含めた孫呉海兵隊と孫呉水軍の兵士達。
最前列には少佐やレオン、孫権様、黄蓋様、穏、亜莎、明命、千里、美花、優龍、百合といったメンツが鎮座している。
なお、中佐はハンターキラーを率いて交州の偵察に赴いている。4日後に帰還する手筈だ。孫策様と周瑜様はというと・・・・・・。
「めいりーーん‼私も武久と思春の試合見に行きた〜い‼」
「駄目だ。業務がサボってたお陰で溜まったままなのだから、今日はこれが終わるまで何処にも行かせないわ」
「ちょっ⁉なんか増えてない⁉」
「因みに今日中に終わらなさなかったら一月の禁酒と仕事以外の外出禁止よ」
「冥琳のいじわるぅ〜‼‼」
仕事を怠けていた孫策様を周瑜様が監視していた。
「武久‼負けるんじゃないぞ‼」
「甘寧将軍‼やっちゃってください‼」
それぞれの陣営が自身の上官を応援する。
「では審判は儂がやるぞ。相手を場外にするか相手の参ったで勝負有りじゃ。得物は刃先を潰したものを使うように。よいな?」
「御意」
「構いません」
審判は黄蓋様が務めることになり、俺と思春の中間で立ち止まる。
ルールは単純だ。使用武器は刃先を潰した模造品。相手を場外に追い込むか降参、ノックダウンさせれば勝負有りだ。
俺と思春は互いを睨み合いながら合図を待つ。
「蓮華様の御前だ。悪いが負ける訳にはいかない」
「それは俺だって同じだ。少佐や部下達の前でかっこ悪い姿を見せたくはないからな」
互いは表情を変えないまま、闘気をぶつけ合う。中々の気迫で俺の前髪が揺れる感触を感じ取った。
しかし俺だけではなく、観客席にいた少佐達もその闘気を感じ取っていた。
「少佐、どっちが勝つと思いますか?」
「はっきり言って分からない。2人の剣術は速さを重視しているものだからな」
「しかも実力もほぼ互角・・・どう転ぶことか・・・」
「はぅあ⁉お二人とも凄い気迫です⁉」
「(アセアセ‼)」
「見てるこちらが緊張してきたな・・・」
「うむ」
「甘寧の奴・・・実力を挙げているな」
互いの陣営が勝負の行方を予想しようとするが、はっきり言って予想はつかない。
孫呉に所属している武将の実力は屈指のものだ。特に思春はその配下の中では間違いなく最強の強さを誇る。“鈴の甘寧”という異名が指し示す通りということだ。
「よし‼ではお主ら、構えぃ‼」
黄蓋様が手を上げると俺は中腰になって鞘に納めた状態の政宗の柄を軽く握り、思春も体を横にして彼女の得物である呉鈎の一種と思われる鈴音を抜刀するとアイスピックの持ち方で構える。
(この状況・・・先に動いた方が負ける・・・だが)
(奴も同じことを考えている筈・・・・・・ならば)
「では用意・・・・・・始めぃ‼」
((一気に勝負に掛ける‼‼))
黄蓋様の号令で一気に互いが駆け出し、やがて刃がぶつかり合う。
「はっ‼」
「ふん‼」
思春は政宗を弾き返すと回転しながら斬りかかって来て、俺もそれを同じようにはじき返し、反対に回転しながら斬撃をして立て続けに回し蹴り。
思春も瞬時に反応して最初の斬撃を回避すると体を捻りながら飛び上がり、俺の背後を取ろうとする。
着地と同時に鈴音を振り上げるが、素早く政宗で受け止める。だが彼女は受け止められた瞬間に回し蹴りを付け加えてくる。
「はぁ‼」
「くっ⁉」
最初の回し蹴りは回避出来たが、速度を保ちながら再び回し蹴りをお見舞いしようとする思春。最初の蹴りを避けられても態勢を整える余裕を与えないつもりだ。
だが俺も引っかかる訳にはいかない。
「なっ⁉」
「甘い‼」
俺は彼女の足を左腕で受け止め、そのまま挟み込むと投げ飛ばす。
「ちぃ‼やってくれる‼」
「流石は鈴の甘寧だ‼今の姿勢から立て直すなんてな‼」
彼女は空中で立て直すと両足と左手で着地の衝撃を和らげると再び距離を置いて構え直す。
「・・・・・・・・・」
思春は無言で俺を睨みつけながら動きを伺い、俺も政宗を再び鞘に戻して抜刀の構えをする。
その雰囲気に全員が飲み込まれ、辺りが静まり返る。そして何処からか一枚の木の葉が2人の中間に舞い落ちて、それが地面に落ちると・・・・・・。
「「はぁあ‼‼」」
同時に地面を蹴って、瞬間的に2人が消えたように見える。そして少しして・・・。
「・・・・・・引き分け・・・か・・・」
「・・・そのようだ」
俺の政宗は思春の喉元を捉え、対する思春の鈴音は俺の腹部を捉えていた。
いくら模造品の得物であっても、ほんの少し動いていたら確実に重傷、最悪の場合は殺していたかもしれない。そんな状況にいち早く我に帰ったのは審判役の黄蓋様だった。
「・・・はっ⁉そ・・・それまで⁉引き分けじゃ‼」
『わぁああああああ‼‼』
黄蓋様の試合終了の宣言で沈黙していた観客達が歓声を挙げて、拍手が鳴り響く。
俺達は拍手喝采の中、互いの得物を鞘に戻して歩み寄る。
「いい勝負だった」
「ああ、私も久々に楽しまされた」
俺は彼女に手を差し伸べ、思春もその手を掴んで握手を交わす。その光景に少佐達は更に拍手を強めて讃えてくれた。
「Yeah!! Good fighting!! Takehisa!!」
「Hoooah!!!!Samurai spirit!! Yeah hooooah!!!!」
「甘寧将軍‼凄い試合でした‼」
「また見せて下さい‼」
拍手喝采と大歓声の中、俺は右手を握り締めて高く掲げる。
侍と鈴の決着は引き分けに終わったが、本音を言えば結果などどうでもよかった。こんな充実した勝負、滅多に味わえないのだから・・・・・・。
現在のベトナム北部近辺に位置する交州。ライルが率いるハンターキラーは潜入偵察を行ない、孫策軍による交州侵攻に備えて敵陣地の位置を調べ上げる。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[ベトナム]
後漢末期のミニベトナム戦争が開幕。