第95話:桂花と罠
桂花による罠?が発動する。
許昌のとある一画。ここにせっせと何かをしている猫耳フードを被った荀彧がいた。
「やっと掘れた・・・・・・後は枝と草を乗せて、その上に土を被せるだけ・・・」
そういいながら荀彧はシャベルを突き刺すと用意していた草や枝を穴に覆い隠し、更にその上に土を被せた。俗に言う“落とし穴”である。
「ふっふっふ・・・・・・見てなさいよ牙刀‼今日という今日は絶対にギャフンと言わせてやるんだから‼」
なぜ彼女が落とし穴など作ったかというと、一週間前に遡る。
「曹操殿、こちらが先日迄の新兵鍛錬に関する報告書と警邏状況に関する報告書です。ご確認を」
「ご苦労。目を通すから少し待って」
徐晃から渡された二種類の報告書に目を通す曹操。彼女の机の上には既に大量の竹簡や書類が山のように積まれており、しかも全てが軍を動かすのに必要な報告書だ。
魏軍のNo.2でもある夏侯惇や夏侯淵、軍師の荀彧なども裁断はするが、最終確認には曹操自らが確認する必要がある。
加えて軍の増強や都市の治安維持が今の時期で重要視されているので、徐晃の報告書は直ぐに確認するらしい。
報告書の内容を確認した曹操はそれを引き出しの中に仕舞う。
「相変わらずいい仕事をしてくれるわね。最近は徴兵や新兵の鍛錬も順調みたいだし、もう少しで目標は達成するわ」
「恐縮であります」
「はぁ・・・いつになったら私のことを真名で呼んでくれるのかしら?」
「何度も仰いますが・・・「栄誉と誇りはありがたくお受け致しますが、口にするというのはご了承くださいでしょ?」・・・いかにも」
予想通りのことが綺麗に当たって溜息を吐く曹操に逆に言われても平然とする徐晃。
「まあいいわ・・・それより小休止にするからあなたも付き合いなさい。言っておくけど、拒否は言わせないわよ?」
「・・・御意」
事前に拒否の選択肢を潰された徐晃に曹操からの誘いを断れる訳もなく、徐晃は彼女の部屋の椅子に腰掛けてティータイムを過ごす。
そして少ししてから・・・。
「やっと報告書が終わったわ♪これで華琳様に褒められてご褒美が貰えたら最高よ♪」
報告書を抱えながら荀彧は曹操からくれるかもしれないご褒美を考えていた。なお、何を考えていたかというと・・・割愛させて頂く。
そんなことを思いながら曹操の執務室の扉を数回ほどノックして扉を開けた。
「華琳様。報告書をお持ちしまし・・・・・・」
彼女は扉を開けた瞬間に呆気に取られただろう。何しろ窓の前にある机を挟んで曹操と徐晃が茶を飲んでいるのだ。
しかも晴れた天気でカーテンが風で小さくなびいていることに加えて、顔立ちが整った歴戦の武人の顔立ちをした徐晃と年相応の顔立ちをした曹操の、まさに絵になるような光景が広がっていたから。
「か・・・・・・華琳・・・様?」
「あら桂花。どうかしたの?」
「は・・・はい。報告書をお持ちしたので・・・ご覧頂きたいのですが・・・」
そういいながら徐晃を睨みながら曹操に報告書を手渡す。暫く見ていると曹操は溜息を吐きながら机の上に報告書を置く。
「・・・桂花」
「は・・・はい‼」
「あなた・・・・・・私に報告書を持ってきたのよね?」
「はい‼今度の遠征で掛かる費用と人員に関する報告です‼」
「だったらこれがどうやって報告の内容になるか聞きたいわね。牙刀、あなたは分かるかしら?」
そういうと牙刀も中を拝見して、少ししてから彼は荀彧に報告書を返した。
「荀彧よ・・・これは暗号か何かか?私には理解しかねるが・・・」
「ふん‼あんたみたいな男に理解出来るとは思ってないけ・・・ど・・・・・・・・・あれ?」
荀彧も中を確認する。中に書かれていたのは報告書ではない。それには曹操に閨で使えそうな攻められ方を纏めた彼女特製の百合本だ。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・で、どうしたいのかしら?」
「す・・・すみません‼隣にあった本と間違えて持ってきてました‼‼」
「はぁ・・・しっかりしてちょうだい。あなたは我が軍の主力なんだから。少しは牙刀を見習って欲しいものね」
「うぅうううう・・・華琳さまぁあ・・・」
荀彧の失敗に軽く注意して曹操は徐晃の仕事ぶりを褒めていた。それから一週間後の今に登るということになる。
「全く‼華琳様にちょっと期待されてるだけでお褒めの言葉を貰うだなんて‼生意気なのよ‼今日は絶対にギャフンと言わせてみせるわよ‼」
そういいながら高笑いをする荀彧。しかし少し離れた場所の木の影には・・・。
「・・・何をしているのだ?」
「さあ・・・あの子は時々なにをしてるのか分からない時があるからね」
徐晃が木にもたれ掛り、反対側から官渡の戦いより曹操軍に降った張郃が一部始終を伺っていた。
「牙刀、あんたはどうしたらいいと思う?」
「張郃殿はどうお考えか?」
「ひとまずは行ってみようか?」
「御意」
そういいながら2人は荀彧に歩み寄る。しかしまだ気が付いていないようだ。
「桂花、何してるの?」
「神楽(かぐら/張郃の真名)、見て分からない?落とし穴よ、落とし穴」
「誰に仕掛けたの?」
「もちろん‼牙刀に決まってるじゃない‼」
荀彧はすぐ背後に徐晃がいることに気が付かず、張郃のみだと思って暴露しまくる。
というかすぐ背後にいるのに気が付かないものだろうか?
「へぇえ〜♪じゃあ牙刀に仕掛けてどうするつもりなの?」
「この落とし穴にはね、ミミズやカエルや虫をふんだんに入れてあるのよ‼あの男が落ちて“びえーん可愛い荀彧様ぁ‼いい子になりますから出してくださーい‼”って言わせてみせるわよ‼」
「・・・ふ〜ん・・・・・・そうなんだ♪」
「見てなさいよ牙刀‼今日こそ醜態を曝け出させてやるわ・・・・・・あれ?」
それを聞くと徐晃は彼女の襟の後ろを猫みたいに掴み、落とし穴の上にぶらさがらせると・・・・・・。
「きゃぁあ⁉」
手を離した。
「ちょっと神楽‼‼なにする「少しは懲りたか?」が・・・牙刀⁉あんた、いつからいたのよ⁉」
「最初からいた。因みに落とし穴の場所は丸わかりだった」
「ムキイイイ‼あんたまた私にこんなことを‼‼」
「張郃殿、どうしましょう?」
「桂花ちゃ〜ん♪暫くあなたの集めた動物さん達と遊んであげなさい♪」
「え?・・・・・・きゃああ⁉ミミズが⁉カエルが⁉虫が⁉」
落とし穴の底に無理やり送り込まれた生き物達が仕返しのごとく荀彧に乗ってきて、彼女の身体に這いずり始める。
「張郃殿。私は仕事が残ってますので・・・」
「そう?じゃあ私もお昼ご飯にしよっと♪」
「ちょっとぉおお‼⁉⁇私をここから出して行きなさいよぉおお‼⁇」
荀彧は立ち去る2人に猛抗議するが、その叫び声は虚しく響いた。因みに後日、完璧にした落とし穴を作って徐晃を待ち構えたが、曹操が落ちかけて彼女に追いかけ回された。
「牙刀なんて大っ嫌いーー‼‼」
書類整理に追われていたライル。彼は小休止を兼ねて中庭に足を運ぶ。そこには先客がいた。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[お礼とハプニング]
2人の英雄は気持ちに翻弄される。